今日のサダメの様子は、どこかおかしかった。正確には、作業を終えて教会に戻ってきてからだ。
帰ってきた時に声を掛けても、まったく返事がない。それどころか、聞こえてすらいないようだった。いや、多分、本当に私の声が届いていなかったのかもしれない。そんなふうに見えた。
目の光は失われ、まるで深い絶望の底に沈んでいるような表情。私はその顔を見た瞬間、背筋が凍った。――あのサダメの顔は、きっと一生忘れない。それほどまでに恐ろしい顔だった。
一応、いつも通り焚き火に火は点けてくれた。けれど、その後は焚き火から離れ、壁際の隅で一人、ずっとうずくまっている。
「……」
その様子を見て、みんなも心配そうな顔を浮かべていた。もちろん、私だって心配だ。あんなサダメは初めて見た。
確かに彼は、私たちよりずっと酷い目に遭わされている。魔物たちの気まぐれで殴られ、蹴られ、悪口を浴びせられる日々。
それでもサダメは、私たちに心配をかけまいと弱音を吐かなかった。私たちもそれを知っている。間違いなく、サダメはこの中で一番強い子だ。だから私たちも、余計な負担をかけないよう必死に耐えてきた。――昨日は、つい言ってしまったけれど。
サダメは、私たちにとって光だった。彼がいれば、きっと何とかなる。そう信じられるほど、私たちは彼に支えられていた。
その彼が、今、闇に堕ちようとしている。
日々のストレスが限界に達したのか。
それとも、あまりにも残酷なものを見てしまったのか。
なぜ彼がこうなってしまったのかは、わからない。
「ッ……!」
私は気づかされた。
彼だって私たちと同じ、人間で、まだ子供なのだ。
私たち以上の苦しみを背負っているのだから、心も体も限界が来て当然だ。
今までサダメが私たちの光になってくれた。
なら、今度は私たちがサダメの光にならなければならない。
そう決めた私は立ち上がり、サダメのもとへ歩み寄る。サダメの代わりにはなれない。でも、私にだって出来ることはある。
体を癒すだけでは足りない。
今、サダメに必要なのは――心の癒しだ。
まずは、ちゃんと話を聞いてあげること。
お父さんも言っていた。
「薬は治癒魔法や処方薬だけじゃない。会話も時に立派な薬になるんだ」って。
「サダメ? 今日、何かあったの? あいつらにまた嫌なことされた? もしよかったら、私が話を――」
「……いい」
「……えっ?」
声を掛けると、サダメがかすれた声で何かを呟いた。あまりに小さく、思わず聞き返す。
「……もう、どうでもいい。
もう……死にたい」
サダメの言葉は、氷のように冷たく、そこに生きる熱をまったく感じさせない一言だった。