転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

27 / 34
第2章ー6

 今日のサダメの様子は、どこかおかしかった。正確には、作業を終えて教会に戻ってきてからだ。

 

 帰ってきた時に声を掛けても、まったく返事がない。それどころか、聞こえてすらいないようだった。いや、多分、本当に私の声が届いていなかったのかもしれない。そんなふうに見えた。

 

 目の光は失われ、まるで深い絶望の底に沈んでいるような表情。私はその顔を見た瞬間、背筋が凍った。――あのサダメの顔は、きっと一生忘れない。それほどまでに恐ろしい顔だった。

 

 一応、いつも通り焚き火に火は点けてくれた。けれど、その後は焚き火から離れ、壁際の隅で一人、ずっとうずくまっている。

 

 「……」

 

 その様子を見て、みんなも心配そうな顔を浮かべていた。もちろん、私だって心配だ。あんなサダメは初めて見た。

 

 確かに彼は、私たちよりずっと酷い目に遭わされている。魔物たちの気まぐれで殴られ、蹴られ、悪口を浴びせられる日々。

 

 それでもサダメは、私たちに心配をかけまいと弱音を吐かなかった。私たちもそれを知っている。間違いなく、サダメはこの中で一番強い子だ。だから私たちも、余計な負担をかけないよう必死に耐えてきた。――昨日は、つい言ってしまったけれど。

 

 サダメは、私たちにとって光だった。彼がいれば、きっと何とかなる。そう信じられるほど、私たちは彼に支えられていた。

 その彼が、今、闇に堕ちようとしている。

 

 日々のストレスが限界に達したのか。

 それとも、あまりにも残酷なものを見てしまったのか。

 なぜ彼がこうなってしまったのかは、わからない。

 

 「ッ……!」

 

 私は気づかされた。

 彼だって私たちと同じ、人間で、まだ子供なのだ。

 私たち以上の苦しみを背負っているのだから、心も体も限界が来て当然だ。

 

 今までサダメが私たちの光になってくれた。

 なら、今度は私たちがサダメの光にならなければならない。

 

 そう決めた私は立ち上がり、サダメのもとへ歩み寄る。サダメの代わりにはなれない。でも、私にだって出来ることはある。

 

 体を癒すだけでは足りない。

 今、サダメに必要なのは――心の癒しだ。

 

 まずは、ちゃんと話を聞いてあげること。

 お父さんも言っていた。

 「薬は治癒魔法や処方薬だけじゃない。会話も時に立派な薬になるんだ」って。

 

 「サダメ? 今日、何かあったの? あいつらにまた嫌なことされた? もしよかったら、私が話を――」

 

 「……いい」

 

 「……えっ?」

 

 声を掛けると、サダメがかすれた声で何かを呟いた。あまりに小さく、思わず聞き返す。

 

 「……もう、どうでもいい。

 もう……死にたい」

 

 サダメの言葉は、氷のように冷たく、そこに生きる熱をまったく感じさせない一言だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。