転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第7章ー6

 「マヒロちゃん、ここ間違ってるよ」

 

 「おろ?」

 

 「あとこことここ。それと、こっちも違うよ」

 

 「おろろ?」

 

 「……マヒロちゃん。さっき教えたところ、全部間違えてるよ?」

 

 「おろろろろろろ?!」

 

 図書室の隅。自分達はテーブルを挟み、二対三で向かい合う形で座り、それぞれ勉強に取り組んでいた。

 

 向かいにはマヒロとフィー。だが、その様子は「勉強」というより、完全に「奮闘」だ。フィーに教えられているマヒロは、絶賛、数学に打ちのめされている最中である。

 

 傍から見ていても、これはかなり骨が折れる。というか、もはや戦いに近い。

 

 それでも根気強く教え続けているフィーの姿を見ると、どれだけ彼女が優しいのかがよく分かる。なにせ、既に一時間以上経過しているにも関わらず、進捗はほぼゼロなのだから。

 

 ……想像以上に厄介な事態だな。

 

 「うぅ……すまぬでござる、フィー殿。やはり拙者、計算は得意ではござらん。式を見るだけで目が回りそうでござる……」

 

 「だ、大丈夫だよ! まだ時間はあるし、まずは目が回らないように数式に慣れていこう!」

 

 「……」

 

 自分の課題に集中しようとしても、どうしても耳に入ってくる会話が気になってしまう。内容があまりにも異次元すぎて、集中力が削がれるのだ。

 

 この調子で、本当に試験は大丈夫なのだろうか。

 

 「マヒロちゃんって、そんなに数学苦手なんだ?」

 

 横で机に突っ伏していたギリスケが、やる気のない声で会話に混ざる。

 

 こいつはこいつで問題だ。自分が来た時からずっとこの調子で、勉強している様子がまるでない。人の心配をする前に、自分の成績を心配した方がいいだろうに。中間試験では、自分より下だったはずだ。

 

 ちなみに、このメンバーの成績順は、フィー、ミオ、自分、ギリスケ、マヒロといったところだ。……とはいえ、自分とミオの間にもそれなりの差はあるのだが。

 

 「うむ。拙者、これまで剣術の修行以外、まともに学んだことがないのでござる。ゆえに学問の知識がほとんどなく、この学園の授業は知らぬことばかり。脳が爆発しそうでござるよ。恥ずかしながら、文字も多少は読めるが、教材の内容が所々読めぬのでござる」

 

 「えっ?! そうだったの? それなら言ってくれれば、分からないところ教えてあげたのに」

 

 「すまぬ、ミオ。周りが皆読めている中で、拙者だけ読めぬというのも妙でござろう? ゆえに、なかなか言い出せなかったのでござる」

 

 「マヒロ……」

 

 どうやら彼女の育ちは、かなり偏っているらしい。剣の道に全てを捧げてきた分、それ以外の基礎が抜け落ちている。

 

 その事実に、思わず同情してしまった。

 

 普通の家庭なら、読み書きや計算くらいは教わるものだ。だが、すべての環境がそうとは限らない――改めてそう思い知らされる。

 

 「マヒロちゃん! 私、マヒロちゃんのために頑張る! だから一緒に頑張って、試験乗り越えよう!」

 

 「フィー殿!? うむ! このマヒロ・トーエン、フィー殿の努力に報いるため、命に代えても筆記試験を乗り越えてみせるでござる!!」

 

 「マヒロちゃん!!」

 

 「フィー殿!!」

 

 ――そして、なぜか抱き合う二人。

 

 さっきまで数学に苦しんでいたとは思えないほどの熱量だ。

 

 ……まあ、やる気があるのはいいことだ。

 

 この勢いが、少しでも成績に反映されればいいのだが。

 

 「あれ? でも中間試験の時はどうしてたの? 赤点はギリギリ回避してたよね?」

 

 ミオがふと思い出したように問いかける。

 

 確かに、それは気になる。ここまで壊滅的なら、中間試験はどうやって乗り切ったのか。

 

 「ぬ? それは、これを使ったからでござる!」

 

 そう言ってマヒロが懐から取り出したのは――一本の鉛筆だった。

 

 六角形の軸に、一から六までの数字が振られている。

 

 「……これってまさか……」

 

 嫌な予感しかしない。

 

 まさか――転がして答えを決める、あの最終手段ではないだろうな。

 

 言うまでもなく、数学は選択式ではない。式を立てて計算しなければ解けない。

 

 それを、この鉛筆一本で?

 

 しかも数字は一から六まで。ゼロも、七以上も出ない。

 

 そんなもので乗り切れるはずが――

 

 「ふっふっふ。これは拙者の秘密兵器――【秘刀・六式】にござる。これを使えば、いかなる難問も一撃必殺……って、どうしたのでござる?」

 

 「「「……」」」

 

 『……マヒロちゃん。それはさすがにないよ』

 

 「ほえ?」

 

 得意げに語るマヒロを前に、場の空気は一瞬で冷え切った。

 

 さっきまであれほど熱く抱き合っていたフィーですら、完全に引いている。

 

 ――転生勇者が死ぬまで、残り3992日

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