あれから数日後。期末試験まで残り一週間となった。筆記の方は授業で徹底的に予習が行われているうえ、放課後も勉強会を続けている。よほどのことがなければ問題はないだろう。
「はあ…はあ…はあ…」
となると、最大の問題は実技だ。内容の詳細が明かされていない以上、どう対策すればいいのかが分からない。今はとにかく、オーヴェン先生に言われた通り“魔法イメージの明確化”に取り組むしかなかった。
しかし――これが想像以上に難しい。
理想の魔法を思い描く。それだけのはずなのに、それがどうにも上手くいかない。自分の中にある「理想」が曖昧すぎるのだ。
単純に「強くて速くて大きい」だけでは足りない。どれほどの威力で、どれほどの速度で、どれほどの規模なのか――そこまで具体的に思い描かなければならない。
威力を優先するべきか。速度か。それとも範囲か。
考えれば考えるほど思考は絡まり、イメージは崩れ、結果として魔法は不発に終わる。その繰り返しが、この数日間ずっと続いていた。
あまりにも不発が続いたせいで、今ではいつも通りの威力すら出せなくなりそうな不安すら感じている。
――だが、それでも。
この程度で立ち止まるわけにはいかない。
自分は勇者になるために、この学園に来たのだ。強くなるためなら、安定に逃げている暇はない。
「はあ…はあ…、くそっ!」
思わず悪態が漏れる。
だが、どうすればいい。頭の中はぐちゃぐちゃで、イメージを明確にするどころではない。
一度休憩して、理想の魔法そのものを整理するべきか。そう考えるものの、肝心の“理想”自体が定まっていないのでは意味がない。
――自分は、一体どうすればいい?
「おい、レールステン」
「は、はい!?」
背後から声をかけられ、思わず背筋が伸びる。振り返ると、そこにはオーヴェン先生の姿があった。
まずい。あまりの出来の悪さに、蹴りが飛んでくる――そんな予感が頭をよぎる。
しかし、先生はそれをするでもなく、静かに口を開いた。
「お前、普段何考えて魔法を撃ってる?」
「……え?」
予想外の問いに、思わず間の抜けた声が漏れる。
「え、えっと……魔力の調整とか、あとは狙う位置とかですかね」
「魔法の規模は?」
「最初は意識してましたけど……慣れてきてからは大雑把になってました。魔力の調整で手一杯で」
「ふむ……なるほどな」
先生は腕を組み、何かを考えるように小さく頷いた。
「……お前、この後予定は?」
「え? あ、一応図書室で友達と勉強会を――」
「なら、今日はキャンセルしとけ」
「ッ!?」
思わず目を見開く。
「今日の放課後は、私と補習だ。個別で見てやる。こんな機会、そうそうねえぞ。ありがたく思え」
「あ、あの……期末試験も近いんですけど……」
「午前中に復習やってるだろ。それで足りねえなら、なおさらだ」
一歩、距離を詰められる。
そして――
「お前、勇者になりたくてここに来たんだろ?」
「ッ……!」
心臓を掴まれたような感覚が走る。
「話は聞いてる。理由はどうあれ、そこまでデカい目標掲げてるならな――人の何倍もやらなきゃ、絶対に届かねえぞ」
「……先生……」
その言葉は、重く、真っ直ぐだった。
甘さは一切ない。だが、それ以上に――本気でこちらを見ている言葉だった。
今の自分のままでは、到底届かない。
分かっていたはずの現実を、改めて突きつけられる。
けれど同時に――
目の前には、その壁を越えるための手段が差し出されている。
「……分かりました。よろしくお願いします!」
迷いは、もうなかった。
こうして自分は、放課後――オーヴェン先生による個別指導を受けることになった。