転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第7章ー9

 放課後。いつもの魔法授業で使用している野原にて、俺はオーヴェン先生の補習授業を受けていた。

 

 この件を皆に説明したところ、マヒロも参加したそうにしていたが、今回は勉強優先ということでフィー達に首根っこを掴まれ、強制的に図書室へ連行されていった。少し気の毒ではあったが、こればかりは仕方がない。

 

 「いいか、レールステン。とりあえず撃ちゃいいってもんじゃねえ。まずは、自分がどんな魔法を撃ちたいのか口に出してみろ。頭の中でぼんやり考えるより、言葉にした方がイメージは固まりやすい」

 

 「どんな魔法を撃ちたいか、ですか……」

 

 早速授業が始まったが、開口一番そんなことを言われる。確かに、言語化すれば思考も整理されるし、先生からの助言も受けやすくなるだろう。

 

 「……」

 

 だが、肝心のイメージがまだ定まっていない。

 

 この数日間、散々考え続けてはいたが、結局答えは出ていない。振り返ってみれば、これまでの自分は魔力の出力調整ばかりに意識を割いており、威力や規模はほとんど“結果任せ”だった。

 

 なんとなく、このくらい出力すればこの程度の威力になるだろう――そんな曖昧な感覚で魔法を扱っていたのだ。

 

 「……はあ。そんなに難しく考えなくていいんだがな。ほら、あるだろ? 俺みてえにデカくて速え魔法撃ちてえ、とかよ」

 

 「まあ、先生みたいな魔法は撃ってみたいですけど……あれって、どんなイメージで撃ってるんですか?」

 

 「あん? ああ、あの時は“強え龍”だな。デカくて凶悪な面してて、吐く息で町ごと吹き飛ばす――そんな感じだ」

 

 「……意外と大胆というか、大雑把なんですね」

 

 「コツはな、“どれだけ強い龍を思い描けるか”だ。龍なんざ滅多に見ねえだろ? だからこそ、想像力が働くんだよ」

 

 「想像力……」

 

 「そうだ。空飛ぶ夢とか見たことあるだろ? あれと同じだ。頭の中で“現実と錯覚するくらい”鮮明にイメージしろ」

 

 「……なるほど」

 

 その言葉は、妙に腑に落ちた。

 

 俺は軽く目を閉じ、意識を内側へと沈めていく。

 

 ――夢を見るように。

 

 「……」

 

 暗闇の中に、景色が広がる。

 

 まるでVRのように、誰もいない広大な平原が眼前に現れた。風の流れ、地面の感触、空の広がり――どれもが現実と錯覚するほど鮮明だ。

 

 ……いける。

 

 「爆ぜる焔よ、火の球として聚合し、眼前の標的へ猛る一投を撃ちかけん――」

 

 平原の中央で、俺は手のひらを前に突き出し、火球の詠唱を紡ぐ。

 

 ここは自分のイメージの中。だからこそ、思い描いた通りの魔法を再現できるはずだ。

 

 とはいえ、いきなり大規模なものは危険すぎる。

 

 ――まずは速度。

 

 一点突破。1km先の岩に一瞬で届くほどの速さ。

 

 それだけを、強く、明確に思い描く。

 

 「【火球《フレール》】!」

 

 ――撃つ。

 

 「うおっ!? いっでぇ!?」

 

 次の瞬間、マッハに迫る速度で火球が射出された。

 

 だが、その反動は想像以上だった。身体が弾かれるように後方へ吹き飛び、意識は一気に現実へと引き戻される。

 

 「はあ……はあ……!」

 

 視界が戻った途端、全身から汗が噴き出した。心臓は激しく脈打ち、呼吸は乱れ、過呼吸気味になる。

 

 ――今のは、本気で危なかった。

 

 「ふっ。今のは悪くねえな。あとは慣れと体幹だな」

 

 「はあ……はあ……、は、はい……」

 

 息も絶え絶えな俺とは対照的に、オーヴェン先生は鼻で笑いながら平然と評価を下してくる。

 

 一歩間違えれば大惨事になりかねなかったというのに、この余裕っぷりである。

 

 内心では呆れもしたが――同時に、確かな手応えもあった。

 

 改善点は見えた。

 

 それだけで、十分だ。

 

 その後も日が暮れるまで練習を続け、閉門時間ぎりぎりでようやく切り上げることとなった。

 

 こうして、密度の濃い一日は幕を閉じた。

 

 ――転生勇者が死ぬまで、残り3985日。

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