あれから一週間が経過し、いよいよ今日から期末試験が始まる。魔法学園の一年生は、一日目と二日目に筆記試験、三日目に実技試験という日程だ。実技試験は広い場所と時間を要するため、一斉には行えず、三年生が一日目、二年生が二日目、そして一年生が三日目という順で実施されるらしい。
「皆、おはよう」
「おはよう、サダメ」
『サダメ君、おっはー』
「おう。おはよう」
「……」
学園へ向かう道すがら、いつもの面子が揃い、軽く挨拶を交わす。しかし、その中で一人だけ明らかに様子がおかしい人物がいた。
「ここの問題の数式はこうで、こうなるから答えはこうなって……ぶつぶつ……」
朝からぶつぶつと呟きながら、歩きつつ数学の問題集を解いているマヒロだ。その集中力は凄まじく、周囲の声などまるで耳に入っていない様子で、自分の存在にすら気づいていない。試験直前まで知識を詰め込もうとしているのだろう。
『マヒロちゃん、あれからずっと頑張ってたからね。寮でも三人で一緒に勉強してたんだよ』
「へえ……あいつ、ちゃんとやってたんだな」
フィーの言葉を聞き、思わず感心する。正直なところ、マヒロの性格を考えれば、途中で投げ出している姿の方が容易に想像できた。むしろ、その光景が妙に現実味を帯びて思い浮かぶほどだ。それでも彼女がここまで真面目に取り組んでいるということは、赤点だけは何としても回避したいのだろう。
「たしかに。あいつのことだから、途中で逃げ出してると思ってたぜ」
「俺も同感だな」
皆の反応も似たようなものだったが、それだけに今のマヒロの姿は意外であり、同時に少しだけ見直すきっかけにもなっていた。
『もし皆が試験に受かったら、夏休みにどこか行こうって話になってね。多分、それが一番の理由かな』
「なるほどな。それなら納得だ」
理由を聞いて、すぐに腑に落ちた。目標があるだけで、人はここまで変わるものなのかと妙に感心してしまう。
『その話で思い出したけど、サダメ君たちも一緒に行こうよ』
「俺は問題ないよ。行くなら一度実家に帰ってからになるけど」
「俺も全然いいぜ! 行くならやっぱ海だろ、海!」
「海か……うん、いいね。楽しそう」
『よし、決まり! 早く夏休み来ないかなー。ねえミオちゃん、水着買いに行こうよ』
「うん、いいよ。せっかくだし、皆で買い出しに行くのも楽しそうだね」
「その前に、まず試験を乗り越えないとな」
そんな会話の流れで、自然と話題は夏休みへと移っていく。まだ先の話ではあるが、皆で予定を立てるだけで気分が高揚し、不思議と試験に対するやる気も湧いてくる。マヒロが必死に勉強している理由も、今ならよく分かる気がした。
やがて学園へ到着し、それぞれの教室へ向かう。そして数時間後――ついにその時が訪れた。
「それでは、試験を開始する」
教室に静寂が満ち、緊張感が一気に高まる。配られた問題用紙に視線を落とし、深く息を吸う。ここまで積み重ねてきたものを信じ、ただ目の前の問題に向き合うしかない。
――転生勇者が死ぬまで、残り3978日。