「……お、鬼ごっこ……?」
試験内容を告げられた瞬間、生徒たちは一様に目を丸くし、言葉を失っていた。今、確かに「鬼ごっこ」と言ったのか――そんな戸惑いが場全体に広がっていく。
「君たちも幼い頃に一度くらいは遊んだことがあるだろう? あれと同じだよ」
リーフさんはあっさりと肯定する。その様子からして、聞き間違いではないらしい。今回の実技試験は、まさかの鬼ごっこ。鬼役が逃げる側を追いかけ、捕まえた者が次の鬼になる――そんな単純明快な遊びだ。前世で親しんだルールともほとんど変わらず、特別な道具も必要としないため、誰でも気軽に楽しめるのが特徴である。公平性を保つために魔法の使用を制限する、といったローカルルールが加わることはあっても、基本構造は至ってシンプルだ。
――だが、それを試験として採用するとは、一体どういう意図なのか。
内心で首をひねる。リーフさんの考えは相変わらず読みづらい。ただの遊びに見えて、何かしらの狙いが隠されているのだろうが、それが何なのかは見当もつかなかった。
「もっとも、今回は“普通の鬼ごっこ”とは少し違うルールを設けてある。今からその点について説明しよう」
やはり一筋縄ではいかないらしい。生徒たちは自然と姿勢を正し、次の説明に耳を傾けた。
「まず、鬼役は我々教師陣が務める。そして君たちは逃げる側だ。合否の基準についてだが――ここから一キロ先に設けたゴール地点まで無事に逃げ切ることができれば合格。逆に、その途中で一度でも鬼にタッチされた場合は、その時点で不合格とする。なお、本来の鬼ごっこのように鬼が交代することはない。この点も理解しておいてほしい。……さて、ここまでで質問はあるかな?」
「……質問というか……一キロ先まで逃げ切るって……」
誰かが思わず呟く。その視線の先には、遮るもののない広大な野原が広がっていた。一キロという距離は決して短くない。それを障害物もなしに走り切るとなれば、もはや鬼ごっこというより単なる持久走に近い。しかも相手は教師陣だ。多少のハンデがあったとしても、簡単に逃げ切れるとは思えない――そんな不安が、誰の胸にもよぎっていた。
「ああ、その点については安心してほしい。舞台はこれから用意する――それ!」
リーフさんは生徒たちの不安を見透かしたかのように微笑み、軽く指を鳴らした。
「うおっ?!」
次の瞬間、大地が大きく揺れた。突如として発生した地震に、生徒たちは慌てて足元を踏ん張り、バランスを保とうとする。視界がぐらぐらと揺れ、立っているだけでも精一杯だ。
――まさか、入学試験のときのように地下へ移動するのか?
一瞬そんな考えが頭をよぎる。しかし、今回の変化はそれとは明らかに様子が異なっていた。
「これが、今回の試験会場だよ!」
「――っ!?」
揺れが収まるのと同時に、目の前の光景が一変していることに気づく。先ほどまで何もなかったはずの大地から、コンクリート製の建物が次々とせり上がり、舗装されたアスファルトの道路が広がっていく。まるで地面そのものが都市へと変貌していくかのような、常識では考えられない光景だった。
「さて――これで完成だ」
地震が始まってから、ほんの十数秒。だだっ広いだけだった野原は、いつの間にか高層の建物が立ち並ぶ街並みへと姿を変えていた。整然と区画された道路、視界を遮るビル群、複雑に入り組んだ路地――先ほどまでとは比較にならないほど、環境が一変した。