サダメの一言で、場の空気が一気に重くなった。本人は無自覚なのだろうが、今の発言はあまりにも危険だ。
「……おい、サダメ。今、なんて言った?」
それを真っ先に察した年長のラエルが立ち上がり、サダメのもとへ歩み寄る。静かな声だったが、その奥には確かな怒りがあった。
「ま、待ってラエル! サダメはいつも頑張ってて、今日は少し疲れてるだけなの! だから今日はゆっくり休ませて――」
このままでは衝突する。そう思った私は慌てて前に立ちはだかり、必死に止めようとする。
「ッ……!?」
その瞬間、改めて思い知る。
私とラエルの体格差は圧倒的だった。一回り、いや二回りは違う。近くに立つだけで、押し潰されそうな圧迫感。まるで人間と巨人だ。
「どけ!」
「きゃっ――!」
ラエルは私をあっさり押しのけ、私は何もない床に転んで尻餅をついた。
「サダメ! さっきの言葉、もう一度言ってみろ!」
ラエルはサダメの胸ぐらを掴み、壁へと押しつける。
一方のサダメは抵抗すらせず、死んだような表情のまま視線を落としていた。
「辛いのは皆一緒なんだよ! お前が代わりに殴られてるのは悪いと思ってる! だからこそ俺たちは俺たちなりに耐えてんだ! 今日だって、お前が別の作業に行ってる間、残りは俺たちで全部片付けた。休みも取れず、嫌味も散々浴びせられた。心も体もボロボロだ!」
「……」
「それでも、誰一人『死にたい』なんて言わねぇ。――なんでだと思う?!」
怒声とともに、ラエルの腕にさらに力がこもる。
「ラエル、やめて! このままだとケガする!」
私は立ち上がり、必死にラエルの腕を掴む。しかし私の力ではびくともしない。
他の子たちは怯えて動けず、サダメも抵抗しない。
――私が止めなきゃ。
「皆、生きたいんだよ!! どれだけ辛くても、死にたくないんだ!! 大人が死んで、友達が殺されて、死ぬ光景を嫌というほど見せつけられた。だからこそ、これ以上誰かが死ぬのも、自分が殺されるのも嫌なんだ!」
「お願いラエル、一度落ち着いて! これ以上声を荒げたら、外の人たちに気づかれる……!」
その時。
「……知るかよ」
低く、掠れた声。
沈黙していたサダメが、初めて顔を上げた。
「お前らの都合を、勝手に俺に押し付けんな」
「……っ?!」
ラエルは言葉を失った。怒りを超え、呆れにも似た沈黙。
「……ちっ、そうかよ」
ラエルは乱暴に手を放す。
サダメの頭が壁に軽くぶつかり、そのまま背を滑らせて座り込む。
「サダメ! 大丈夫?!」
私はすぐ駆け寄る。
サダメは目を開けたまま、ただ虚ろに呼吸をしていた。意識はある。だが、話す気力がない。
治癒魔法をかけようと手を伸ばした、その時。
「そんなに死にたいなら勝手に死ね。
死ぬなら――俺たちの目につかないところでな」
「ラエル!!」
あまりにも冷たい言葉。
私は引き止めようとしたが、今の空気ではそれ以上何も言えなかった。
サダメも、謝罪を求めてはいないようだった。
ただ、重苦しい沈黙だけがそこに残った。