転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第2章ー7

 サダメの一言で、場の空気が一気に重くなった。本人は無自覚なのだろうが、今の発言はあまりにも危険だ。

 

 「……おい、サダメ。今、なんて言った?」

 

 それを真っ先に察した年長のラエルが立ち上がり、サダメのもとへ歩み寄る。静かな声だったが、その奥には確かな怒りがあった。

 

 「ま、待ってラエル! サダメはいつも頑張ってて、今日は少し疲れてるだけなの! だから今日はゆっくり休ませて――」

 

 このままでは衝突する。そう思った私は慌てて前に立ちはだかり、必死に止めようとする。

 

 「ッ……!?」

 

 その瞬間、改めて思い知る。

 私とラエルの体格差は圧倒的だった。一回り、いや二回りは違う。近くに立つだけで、押し潰されそうな圧迫感。まるで人間と巨人だ。

 

 「どけ!」

 

 「きゃっ――!」

 

 ラエルは私をあっさり押しのけ、私は何もない床に転んで尻餅をついた。

 

 「サダメ! さっきの言葉、もう一度言ってみろ!」

 

 ラエルはサダメの胸ぐらを掴み、壁へと押しつける。

 一方のサダメは抵抗すらせず、死んだような表情のまま視線を落としていた。

 

 「辛いのは皆一緒なんだよ! お前が代わりに殴られてるのは悪いと思ってる! だからこそ俺たちは俺たちなりに耐えてんだ! 今日だって、お前が別の作業に行ってる間、残りは俺たちで全部片付けた。休みも取れず、嫌味も散々浴びせられた。心も体もボロボロだ!」

 

 「……」

 

 「それでも、誰一人『死にたい』なんて言わねぇ。――なんでだと思う?!」

 

 怒声とともに、ラエルの腕にさらに力がこもる。

 

 「ラエル、やめて! このままだとケガする!」

 

 私は立ち上がり、必死にラエルの腕を掴む。しかし私の力ではびくともしない。

 他の子たちは怯えて動けず、サダメも抵抗しない。

 ――私が止めなきゃ。

 

 「皆、生きたいんだよ!! どれだけ辛くても、死にたくないんだ!! 大人が死んで、友達が殺されて、死ぬ光景を嫌というほど見せつけられた。だからこそ、これ以上誰かが死ぬのも、自分が殺されるのも嫌なんだ!」

 

 「お願いラエル、一度落ち着いて! これ以上声を荒げたら、外の人たちに気づかれる……!」

 

 その時。

 

 「……知るかよ」

 

 低く、掠れた声。

 沈黙していたサダメが、初めて顔を上げた。

 

 「お前らの都合を、勝手に俺に押し付けんな」

 

 「……っ?!」

 

 ラエルは言葉を失った。怒りを超え、呆れにも似た沈黙。

 

 「……ちっ、そうかよ」

 

 ラエルは乱暴に手を放す。

 サダメの頭が壁に軽くぶつかり、そのまま背を滑らせて座り込む。

 

 「サダメ! 大丈夫?!」

 

 私はすぐ駆け寄る。

 サダメは目を開けたまま、ただ虚ろに呼吸をしていた。意識はある。だが、話す気力がない。

 

 治癒魔法をかけようと手を伸ばした、その時。

 

 「そんなに死にたいなら勝手に死ね。

 死ぬなら――俺たちの目につかないところでな」

 

 「ラエル!!」

 

 あまりにも冷たい言葉。

 私は引き止めようとしたが、今の空気ではそれ以上何も言えなかった。

 

 サダメも、謝罪を求めてはいないようだった。

 

 ただ、重苦しい沈黙だけがそこに残った。

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