転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第7章ー19

 「それでは第三試合――開始!」

 

 十分ほどの休息を挟み、ついに試合が始まった。ライラック師範が動き出すまでの猶予は三十秒。先ほどの試合でその実力は嫌というほど見せつけられている。特に、あの使い魔――一度捕捉されれば、逃げ切るのは極めて困難。であれば、結論は一つ。

 

 ――追いつかれる前に決着をつける。

 

 『マヒロちゃん、これからどうする?』

 

 「安心めされよ、フィー殿。拙者の背に乗ってくだされ!」

 

 『えっ? う、うん……!』

 

 時間をかけて説明している余裕はない。そう判断した拙者は、フィー殿に背中へ乗るよう促した。理由を問うことなく従ってくれるあたり、彼女の信頼が伝わってくる。ならば、その期待に応えねばなるまい。

 

 「行くでござるよ、フィー殿。しっかり捕まっているでござるよ!」

 

 『オ、オッケー……!』

 

 念を押すと同時に、フィー殿がしっかりとしがみつくのを確認する。これで準備は万端。残り時間は二十秒――一瞬たりとも無駄にはできない。

 

 「抜刀――鳴雷《なるいかづち》!」

 

 刀を引き抜いた瞬間、髪と瞳が金色へと変化する。鳴雷――妖刀・魔妖の中でも最速を誇る力。この瞬発力と機動力こそが、今この場を突破するための切り札。

 

 「はあっ!!」

 

 『ふぃーーーーー!?』

 

 次の瞬間、拙者の身体は雷光の如く地を駆けた。視界が一気に流れ、景色が線のように引き延ばされていく。残り十秒。この速度であれば、少なくとも半分以上は距離を稼げるはず。

 

 「フィー殿。拙者はこのまま走りに集中するゆえ、追手が来たら知らせてほしいでござる」

 

 『い、いいけど……こんな速さじゃ、私もあんまり周り見てる余裕ないかも……うっぷ……』

 

 フィー殿の声に、わずかな異変を感じる。どうやら速度が想定以上に負担になっているようだ。確かに、この加速は常人には厳しい。だが――

 

 (……ここで緩めるわけにはいかぬ)

 

 合格を掴むためには、この一手が最適解。そう信じるしかない。

 

 『三十秒経過……って、結構先まで来ちゃってるね。これは……ちょっと焦るかも』

 

 『く、来るよ、マヒロちゃん!?』

 

 「……!」

 

 ついに三十秒が経過し、ライラック師範が動き出す。だが、こちらも予定通りだ。ゴールまで残り半分――このまま押し切れば、あと十秒もかからず到達できる。

 

 勝機は、ある。

 

 『いやー……これはさすがに本気を出さないとまずいな。空を翔る友よ、私に力を貸してくれ――【緋翔の大鷹《レッド・ホーク》】』

 

 詠唱が聞こえる。

 

 だが、それでも拙者は確信していた。

 

 ――この勝負、もらった。

 

 『大鷹《ホーク》、全力でいこうか』

 

 「……ふえっ?」

 

 『えっ?!』

 

 ――その確信は、次の瞬間、音もなく崩れ去った。

 

 ほんの一瞬。ほんの一瞬だけ、背後を振り返った。それだけだった。

 

 だが、その刹那の隙が、致命的だった。

 

 さきほどまで、確かにライラック師範の傍らにいたはずの大鷹の姿が、忽然と消えていたのだ。

 

 (……いない?)

 

 視界を巡らせる。上空か、それとも建物の陰か――そのどちらかだと思った。しかし、どこにもその巨体は見当たらない。

 

 あり得ない。あれほどの大きさを持つ存在が、こうも簡単に視界から消えるなど――

 

 その疑問が答えに辿り着くよりも、早く。

 

            「ピーヒョロロロロ」

 

 不意に、正面から鋭い鳴き声が響いた。

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