「……ふぅ……」
大鷹はすでに臨戦態勢へと移行していた。先ほどまで拙者の殺気に呑まれ、怯えを見せていたというのに、ライラック師範の声を受けて正気を取り戻したらしい。さすがは最強クラスの使い魔、立て直しが早いでござるな。
活気を取り戻す前に仕留めるべきであったか――一瞬、そんな考えが脳裏をよぎる。
「……いや、それではつまらぬでござるな」
愚問。弱った相手を斬り伏せるなど、拙者の性分に合わぬ。やるならば、万全の相手を正々堂々と打ち破る。それこそが武士の矜持でござる。
フィー殿も、恐らくは終点付近に達している頃合いであろう。ならば、こちらも遠慮は不要。
「マヒロ・トーエン、いざ参る!」
刀を構え、名乗りを上げる。たとえ相手が使い魔であろうとも、正面から刃を交える以上、礼を尽くすのが武士の流儀。
「抜刀――鎌鼬!」
初手は、風を裂く高速の斬撃。相手は空を得意とする鳥類でござる。ならば飛び立つ前に翼を封じるのが定石。
「ピエェェ――――ッ!!」
「くっ!?」
しかし、斬撃が届く寸前、大鷹は巨体に似合わぬ俊敏さで地を蹴り、上空へと逃れた。至近距離であったはずだが、それを躱すとは見事。思わず舌を巻くでござる。
「ピエェェ――――ッ!!」
上空へと舞い上がった大鷹は、拙者を見下ろしながら大きく息を吸い込む。その周囲に風が集束していくのが見えた。
あれは――風魔法。
恐らく、上空から圧を叩きつけ、動きを封じるつもりでござろう。
「そうはいかぬ!」
「抜刀――鳴雷!」
瞬時に刀を鞘へ収め、次の一撃へと繋ぐ。雷鳴のごとき踏み込みで、前方へと一気に離脱。
「スゥゥゥ――――……ピィィィィィッ!!!!」
「ぐっ!?」
ほぼ同時、大鷹の口から放たれた風が地面へと叩きつけられた。轟音とともに大地が沈み込み、まるで見えぬ巨腕に押し潰されたかのように抉れていく。
間一髪。回避がわずかに遅れていれば、拙者の身は容易く圧し潰されていたであろう。
「ピエェェ――――ッ!!」
圧倒的な威力を誇る一撃を見せつけ、大鷹は上空で誇らしげに鳴いた。勝利を確信しての雄叫びか。
たしかに、地上と空中――この構図では、相手に分がある。鎌鼬は届かず、届いたとしても躱される。刀は無論届かぬ距離。遠距離も同様にかわされる可能性が高い。
はっきり言って、不利。いや、絶望的と言ってもよい状況でござるな。
「……ふっ」
だが、拙者の口元には自然と笑みが浮かんでいた。
強者との戦い――それは武士にとって何よりの誉れであり、生きる実感そのもの。この胸の高鳴り、この昂揚――久しく味わっていなかった感覚でござる。
「……いや、今は感傷に浸っている場合ではないでござるな」
軽く首を振り、雑念を振り払う。本来の目的を忘れてはならぬ。フィー殿をこれ以上待たせるわけにもいかぬでござる。
ならば――
「この戦い、速やかに決着をつけさせてもらうでござる!」
空高く舞う大鷹へと、刀の切っ先を真っ直ぐに突きつける。
必ず打ち倒し、この試験を突破する――その覚悟を、声に乗せて叩きつけるかのように。