転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第7章ー22

 「……ふぅ……」

 

 大鷹はすでに臨戦態勢へと移行していた。先ほどまで拙者の殺気に呑まれ、怯えを見せていたというのに、ライラック師範の声を受けて正気を取り戻したらしい。さすがは最強クラスの使い魔、立て直しが早いでござるな。

 

 活気を取り戻す前に仕留めるべきであったか――一瞬、そんな考えが脳裏をよぎる。

 

 「……いや、それではつまらぬでござるな」

 

 愚問。弱った相手を斬り伏せるなど、拙者の性分に合わぬ。やるならば、万全の相手を正々堂々と打ち破る。それこそが武士の矜持でござる。

 

 フィー殿も、恐らくは終点付近に達している頃合いであろう。ならば、こちらも遠慮は不要。

 

 「マヒロ・トーエン、いざ参る!」

 

 刀を構え、名乗りを上げる。たとえ相手が使い魔であろうとも、正面から刃を交える以上、礼を尽くすのが武士の流儀。

 

 「抜刀――鎌鼬!」

 

 初手は、風を裂く高速の斬撃。相手は空を得意とする鳥類でござる。ならば飛び立つ前に翼を封じるのが定石。

 

 「ピエェェ――――ッ!!」

 

 「くっ!?」

 

 しかし、斬撃が届く寸前、大鷹は巨体に似合わぬ俊敏さで地を蹴り、上空へと逃れた。至近距離であったはずだが、それを躱すとは見事。思わず舌を巻くでござる。

 

 「ピエェェ――――ッ!!」

 

 上空へと舞い上がった大鷹は、拙者を見下ろしながら大きく息を吸い込む。その周囲に風が集束していくのが見えた。

 

 あれは――風魔法。

 

 恐らく、上空から圧を叩きつけ、動きを封じるつもりでござろう。

 

 「そうはいかぬ!」

 

 「抜刀――鳴雷!」

 

 瞬時に刀を鞘へ収め、次の一撃へと繋ぐ。雷鳴のごとき踏み込みで、前方へと一気に離脱。

 

 「スゥゥゥ――――……ピィィィィィッ!!!!」

 

 「ぐっ!?」

 

 ほぼ同時、大鷹の口から放たれた風が地面へと叩きつけられた。轟音とともに大地が沈み込み、まるで見えぬ巨腕に押し潰されたかのように抉れていく。

 

 間一髪。回避がわずかに遅れていれば、拙者の身は容易く圧し潰されていたであろう。

 

 「ピエェェ――――ッ!!」

 

 圧倒的な威力を誇る一撃を見せつけ、大鷹は上空で誇らしげに鳴いた。勝利を確信しての雄叫びか。

 

 たしかに、地上と空中――この構図では、相手に分がある。鎌鼬は届かず、届いたとしても躱される。刀は無論届かぬ距離。遠距離も同様にかわされる可能性が高い。

 

 はっきり言って、不利。いや、絶望的と言ってもよい状況でござるな。

 

 「……ふっ」

 

 だが、拙者の口元には自然と笑みが浮かんでいた。

 

 強者との戦い――それは武士にとって何よりの誉れであり、生きる実感そのもの。この胸の高鳴り、この昂揚――久しく味わっていなかった感覚でござる。

 

 「……いや、今は感傷に浸っている場合ではないでござるな」

 

 軽く首を振り、雑念を振り払う。本来の目的を忘れてはならぬ。フィー殿をこれ以上待たせるわけにもいかぬでござる。

 

 ならば――

 

 「この戦い、速やかに決着をつけさせてもらうでござる!」

 

 空高く舞う大鷹へと、刀の切っ先を真っ直ぐに突きつける。

 

 必ず打ち倒し、この試験を突破する――その覚悟を、声に乗せて叩きつけるかのように。

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