「ピーヒョロロロロ!」
頭上を悠々と旋回する大鷹。圧倒的優位である高所を取り、すでに勝利を確信しているかのようでござるな。
「なら――」
その余裕、叩き落としてくれる。
拙者は刀を一度鞘へと収め、視線を横手の建物へと向けた。
人は鳥のように空を自在に舞うことはできぬ。だが――魔法を用いれば話は別。飛べぬのではない、“飛び方が違う”だけでござる。
「抜刀――鳴雷!!」
三度、雷鳴の踏み込みを発動。同時に地を蹴り、建物へ向けて全力で駆ける。
距離はおよそ五十。踏み切りを誤れば、そのまま激突は免れぬ。
三――二――一。
「はああああっ!!」
刹那、跳躍。
壁面へと叩きつけるように着地し、その反動を利用して即座に上方へと蹴り上がる。
一歩――二歩――三歩。
硝子窓を避けつつ、一定の間隔で壁を駆け上がる。次第に間隔を詰め、速度を加速させていく。
外壁を“走る”という無茶を成立させているのは、鳴雷による瞬発力。わずかでも踏み損ねれば、そのまま墜落――あるいは激突。だが、今はすべてが噛み合っている。
「ピエ――――!?」
ようやく接近に気付いたか、大鷹が驚愕の声を上げる。その表情からは、先ほどまでの余裕が消え失せていた。
「ピエェェェ――――!!」
だが即座に体勢を立て直し、再び風を集束し始める。先ほどの圧殺の一撃――あれをまともに受ければ終わり。
ならば――
「スゥゥ――――」
「はあっ!」
発動の直前、あえて足元の硝子窓を踏み抜いた。
派手な破砕音とともに、拙者の身体はそのまま建物内部へと滑り込む。
「ピエェェェェェェ――――――!!!!」
直後、外壁を叩き潰す風圧が炸裂。窓を破らずそのまま進んでいれば、確実に巻き込まれていたであろう。
「……ふむ。ここならば」
内部は人気のない殺風景な空間。軽く周囲を見渡し、天井へと視線を向ける。
最上階までは、あと三層。
――十分、届く。
「参る!」
下半身に力を集中させる。床が軋み、崩れかける寸前で一気に解放。
同時に上半身へ【部分魔力強化《パージング》】を施し、衝突時の負荷を最小限に抑える。
「はああああっ!!」
爆発的な跳躍とともに、天井へ激突――そのまま粉砕。
一階、二階、三階。
連続して突き破り、痛みすら置き去りにして一気に上層へと躍り出る。
視界が開けたその先――
巨大な影。
大鷹の腹下が、すぐ目の前にあった。
届く。
今、この瞬間ならば。
「はあっ!!」
天井突破の勢いをそのまま乗せ、拙者は魔妖の刃を真っ直ぐに突き出した。
標的へと、一直線に。