転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第2章ー8

 「……」

 

 「……」

 

 昨日と同じように、私はサダメを膝枕しながら治癒魔法をかけていた。

 けれど昨日とは違い、そこにはひどく気まずい沈黙が流れていた。

 

 サダメは人形のように微動だにせず、

 ラエルはあの言葉を吐き捨てたあと、反対側で一人眠りについている。

 他の子たちは先ほどのケンカのせいで、泣いたり震えたりしていた。

 

 皆すぐ近くにいるのに、心だけがバラバラになってしまったみたいで――

 とても寂しかった。

 

 このままでいいのだろうか。

 皆が距離を置いたまま、もしサダメがいなくなってしまったら――

 考えるだけで胸が締めつけられる。

 

 今、皆の心は闇へ沈みかけている。

 このままでは、きっと良くないことが起きる。

 空気そのものが、それを告げていた。

 

 ――私が、なんとかしなきゃ。

 

 まずは、サダメを少しでも元気づけないと。

 

 「ねえ、サダメ?」

 

 「……」

 

 返事はない。目は開いている。眠ってはいないはずだ。

 けれど、話す気力すら残っていないのだろう。

 

 適当な励ましは意味がない。

 それに、どうして彼がここまで追い詰められたのか、私は何も知らない。

 ――じゃあ、どうすればいい?

 

 そのとき、ふと父の言葉を思い出した。

 

 『相手のことが分からないときは、まず自分のことを話しなさい。

 そうすれば、相手も心を開くきっかけを掴める』

 

 だから私は、ゆっくりと口を開いた。

 

 「私、この村が大好きなの」

 

 サダメは無反応のまま。

 それでも、私は話し続けた。

 

 「お父さんとお母さんが大好き。優しくて、物知りで、色んなことを教えてくれた。村の人たちもあったかくて、毎晩お祭りみたいに賑やかだったんだよ。

 ……時々、おじさんたちが酔ってケンカするのはちょっと怖かったけどね」

 

 気づけば、村の思い出を語っていた。

 それだけ、この場所は私にとって大切だった。

 

 「ドレーカ名物のじゃがいも料理も好きだったなぁ。

 分厚いポテトも美味しいけど、バターをのせて食べるやつが最高で……。

 バターは高級品だから、たまにしか食べられなかったけど」

 

 少しだけ笑ってしまう。

 でも、その笑顔はすぐに消えた。

 

 「……でも、あの村にはもう戻れない。

 お父さんもお母さんもいなくなって、村の人たちもたくさん死んで。

 私たちと同い年の子も、何人も殺された」

 

 楽しかった日々は、もうどこにもない。

 それが現実だった。

 

 「それでもね、私は生きたいって思うの」

 

 声は震えていた。でも、それは本音だった。

 

 「死んだら、楽しかった思い出まで消えちゃいそうで怖い。

 それに、生きていたら――また楽しい思い出を作れるかもしれない。

 ここにいる皆と一緒に。……もちろん、サダメとも」

 

 辛い日々の中でも、私は生きたいと願う。

 皆との記憶を失いたくない。

 そして、これからの思い出も作りたい。

 

 それが、私が生きたい理由。

 

 「だから……サダメにも、生きていてほしいな。

 サダメがいなくなったら、私、すごく悲しいから」

 

 「……」

 

 サダメは相変わらず何も答えない。

 けれど、私は話し終えると、そっと治癒魔法を止めた。

 

 「さて。私の話はこれでおしまい。

 今日は一緒に寝よう?」

 

 返事はない。

 それでも私は、サダメと同じ毛布に潜り込む。

 

 背中合わせの距離。

 少しだけ胸がドキドキした。

 でも、これもいつか――思い出になる気がした。

 

 明日の朝。

 サダメが少しでも元気になっていますように。

 

 そう願いながら、私は目を閉じた。

 

 ――転生勇者が死ぬまで、残り7803日。

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