「……」
「……」
昨日と同じように、私はサダメを膝枕しながら治癒魔法をかけていた。
けれど昨日とは違い、そこにはひどく気まずい沈黙が流れていた。
サダメは人形のように微動だにせず、
ラエルはあの言葉を吐き捨てたあと、反対側で一人眠りについている。
他の子たちは先ほどのケンカのせいで、泣いたり震えたりしていた。
皆すぐ近くにいるのに、心だけがバラバラになってしまったみたいで――
とても寂しかった。
このままでいいのだろうか。
皆が距離を置いたまま、もしサダメがいなくなってしまったら――
考えるだけで胸が締めつけられる。
今、皆の心は闇へ沈みかけている。
このままでは、きっと良くないことが起きる。
空気そのものが、それを告げていた。
――私が、なんとかしなきゃ。
まずは、サダメを少しでも元気づけないと。
「ねえ、サダメ?」
「……」
返事はない。目は開いている。眠ってはいないはずだ。
けれど、話す気力すら残っていないのだろう。
適当な励ましは意味がない。
それに、どうして彼がここまで追い詰められたのか、私は何も知らない。
――じゃあ、どうすればいい?
そのとき、ふと父の言葉を思い出した。
『相手のことが分からないときは、まず自分のことを話しなさい。
そうすれば、相手も心を開くきっかけを掴める』
だから私は、ゆっくりと口を開いた。
「私、この村が大好きなの」
サダメは無反応のまま。
それでも、私は話し続けた。
「お父さんとお母さんが大好き。優しくて、物知りで、色んなことを教えてくれた。村の人たちもあったかくて、毎晩お祭りみたいに賑やかだったんだよ。
……時々、おじさんたちが酔ってケンカするのはちょっと怖かったけどね」
気づけば、村の思い出を語っていた。
それだけ、この場所は私にとって大切だった。
「ドレーカ名物のじゃがいも料理も好きだったなぁ。
分厚いポテトも美味しいけど、バターをのせて食べるやつが最高で……。
バターは高級品だから、たまにしか食べられなかったけど」
少しだけ笑ってしまう。
でも、その笑顔はすぐに消えた。
「……でも、あの村にはもう戻れない。
お父さんもお母さんもいなくなって、村の人たちもたくさん死んで。
私たちと同い年の子も、何人も殺された」
楽しかった日々は、もうどこにもない。
それが現実だった。
「それでもね、私は生きたいって思うの」
声は震えていた。でも、それは本音だった。
「死んだら、楽しかった思い出まで消えちゃいそうで怖い。
それに、生きていたら――また楽しい思い出を作れるかもしれない。
ここにいる皆と一緒に。……もちろん、サダメとも」
辛い日々の中でも、私は生きたいと願う。
皆との記憶を失いたくない。
そして、これからの思い出も作りたい。
それが、私が生きたい理由。
「だから……サダメにも、生きていてほしいな。
サダメがいなくなったら、私、すごく悲しいから」
「……」
サダメは相変わらず何も答えない。
けれど、私は話し終えると、そっと治癒魔法を止めた。
「さて。私の話はこれでおしまい。
今日は一緒に寝よう?」
返事はない。
それでも私は、サダメと同じ毛布に潜り込む。
背中合わせの距離。
少しだけ胸がドキドキした。
でも、これもいつか――思い出になる気がした。
明日の朝。
サダメが少しでも元気になっていますように。
そう願いながら、私は目を閉じた。
――転生勇者が死ぬまで、残り7803日。