転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第7章ー25

 「はあっ!」

 

 「ピエェェェ――――――――!!」

 

 大鷹がさらに高度を上げる、その刹那。

 

 拙者は刀を振り抜いた。

 

 突きでは浅い。わずかな高低差で致命には届かぬ。ならば――横薙ぎ。腹を断ち裂く一撃こそが最適解。

 

 「ピエェェェ――――――――!!」

 

 「ッ!? くっ……!」

 

 しかし。

 

 刃が届く、その直前。

 

 拙者の身体は――止まった。

 

 上昇が、完全に失速する。

 

 あと一歩。

 

 あと、ほんの僅か。

 

 それだけで届くはずだった間合いが、無情にも指先から零れ落ちていく。

 

 届かぬ。

 

 ――届かぬのか。

 

 「……くそ」

 

 振り抜いた刃は空を裂くだけに終わり、身体は重力に引かれて落ちていく。

 

 対して大鷹は、油断なくさらに上昇。

 

 距離は開く一方。

 

 もはや、どう足掻いても追いつけぬ。

 

 その現実が、冷たく胸に沈んだ。

 

 「……すまぬ。フィー殿」

 

 落下しながら、ぽつりと零れる言葉。

 

 手は尽くした。

 

 策も、技も、すべて出し切った。

 

 それでも届かなかった。

 

 ならば、ここまで――

 

 せめて、フィー殿だけでも合格してくれれば。

 

 そう思いかけた、その時。

 

 『マズイ! 大鷹《ホーク》、それ以上高度を上げるな!』

 

 「……?」

 

 地上から響く、ライラック師範の声。

 

 切迫した響き。

 

 だが――なぜ?

 

 あれ以上上昇して、何が起きるというのか。

 

 「ピエッ――!?」

 

 「ッ!?」

 

 次の瞬間。

 

 大鷹の巨体が、不自然に弾かれた。

 

 まるで、見えぬ壁に叩きつけられたかのように。

 

 そして――そのまま。

 

 力を失ったように、真っ逆さまに落下していく。

 

 「……何が、起きたでござる?」

 

 一瞬、理解が追いつかぬ。

 

 だが、すぐに思い至る。

 

 「……そういえば」

 

 この学園全体には、外敵を防ぐための結界が張られている。

 

 外からの侵入を阻む防壁。

 

 そしてそれは同時に――

 

 内側からの脱出も、許さぬ。

 

 つまり。

 

 上昇しすぎた大鷹は、その結界へと激突したのだ。

 

 師範は、それを知っていた。

 

 だからこそ、止めた。

 

 だが、大鷹は気付かなかった――あるいは、拙者との戦いに意識を奪われていたか。

 

 「……」

 

 急速に落ちてくる巨体。

 

 その軌道、その速度。

 

 拙者の視界に、はっきりと捉えられている。

 

 そして、思考が巡る。

 

 これは――

 

 好機ではないか。

 

 相手の失態。

 

 だが、勝負において運もまた実力のうち。

 

 ここを逃せば、次はない。

 

 「……まだ、終わってはおらぬ」

 

 落下の最中、歯を食いしばる。

 

 諦めるには、まだ早い。

 

 大鷹が意識を取り戻すまでのわずかな時間。

 

 その間に、届けばいい。

 

 拙者もまた落ちている。

 

 だが――

 

 視線の先には、まだ足場となり得る建物が残っている。

 

 ならば、やるべきことは一つ。

 

 「あやつが目を覚ます前に――仕留める!」

 

 落下の勢いを殺さず、次の一手へ。

 

 拙者は再び、勝機へと手を伸ばした。

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