「はあっ!」
「ピエェェェ――――――――!!」
大鷹がさらに高度を上げる、その刹那。
拙者は刀を振り抜いた。
突きでは浅い。わずかな高低差で致命には届かぬ。ならば――横薙ぎ。腹を断ち裂く一撃こそが最適解。
「ピエェェェ――――――――!!」
「ッ!? くっ……!」
しかし。
刃が届く、その直前。
拙者の身体は――止まった。
上昇が、完全に失速する。
あと一歩。
あと、ほんの僅か。
それだけで届くはずだった間合いが、無情にも指先から零れ落ちていく。
届かぬ。
――届かぬのか。
「……くそ」
振り抜いた刃は空を裂くだけに終わり、身体は重力に引かれて落ちていく。
対して大鷹は、油断なくさらに上昇。
距離は開く一方。
もはや、どう足掻いても追いつけぬ。
その現実が、冷たく胸に沈んだ。
「……すまぬ。フィー殿」
落下しながら、ぽつりと零れる言葉。
手は尽くした。
策も、技も、すべて出し切った。
それでも届かなかった。
ならば、ここまで――
せめて、フィー殿だけでも合格してくれれば。
そう思いかけた、その時。
『マズイ! 大鷹《ホーク》、それ以上高度を上げるな!』
「……?」
地上から響く、ライラック師範の声。
切迫した響き。
だが――なぜ?
あれ以上上昇して、何が起きるというのか。
「ピエッ――!?」
「ッ!?」
次の瞬間。
大鷹の巨体が、不自然に弾かれた。
まるで、見えぬ壁に叩きつけられたかのように。
そして――そのまま。
力を失ったように、真っ逆さまに落下していく。
「……何が、起きたでござる?」
一瞬、理解が追いつかぬ。
だが、すぐに思い至る。
「……そういえば」
この学園全体には、外敵を防ぐための結界が張られている。
外からの侵入を阻む防壁。
そしてそれは同時に――
内側からの脱出も、許さぬ。
つまり。
上昇しすぎた大鷹は、その結界へと激突したのだ。
師範は、それを知っていた。
だからこそ、止めた。
だが、大鷹は気付かなかった――あるいは、拙者との戦いに意識を奪われていたか。
「……」
急速に落ちてくる巨体。
その軌道、その速度。
拙者の視界に、はっきりと捉えられている。
そして、思考が巡る。
これは――
好機ではないか。
相手の失態。
だが、勝負において運もまた実力のうち。
ここを逃せば、次はない。
「……まだ、終わってはおらぬ」
落下の最中、歯を食いしばる。
諦めるには、まだ早い。
大鷹が意識を取り戻すまでのわずかな時間。
その間に、届けばいい。
拙者もまた落ちている。
だが――
視線の先には、まだ足場となり得る建物が残っている。
ならば、やるべきことは一つ。
「あやつが目を覚ます前に――仕留める!」
落下の勢いを殺さず、次の一手へ。
拙者は再び、勝機へと手を伸ばした。