転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第7章ー26

 「ぐっ……うぬぬぬ……!」

 

 落下しながら、必死に手を伸ばす。

 

 眼前に迫る建物――だが、指先はわずかに届かない。

 

 掴めぬ。

 

 このままでは――終わる。

 

 いや、終わらせぬ。

 

 ここは、最後の好機。

 

 逃すわけにはいかぬでござる!

 

 「抜刀――水龍!」

 

 瞬時に刀を変化させる。

 

 鉄の刃は、水の刃へ。

 

 流動する刃が唸りを上げ、拙者はそれを建物へと突き立てた。

 

 ――ギィンッ!!

 

 水圧を帯びた刃が、壁面へ深々と食い込む。

 

 そのまま滑るように減速し、落下の勢いを殺す。

 

 「……ふぅ」

 

 どうにか、止まった。

 

 刃を横へと捻り、支点を安定させる。これで不用意に滑り落ちることもない。

 

 わずかな安堵。

 

 だが――

 

 「……まだ終わってはおらぬ」

 

 視線を上げる。

 

 大鷹は、なおも落ちてきている。

 

 結界に弾かれ、意識を失ったまま。

 

 だが、それもいつまで続くか分からぬ。

 

 猶予は、ほんの一瞬。

 

 「急がねばならぬでござるな」

 

 魔妖を足場代わりにして体を引き上げる。

 

 腕に力を込め、壁を蹴り、屋上へと這い上がった。

 

 刃を引き抜き、構え直す。

 

 距離、およそ五百。

 

 落下速度も加味すれば――届く。

 

 今度こそ、届くはず。

 

 「……いざ、参る!」

 

 三度目。

 

 これが、最後の機。

 

 息を整え、全身に力を巡らせる。

 

 ここで決めねば、もう次はない。

 

 「はああああっ!!」

 

 地を砕く勢いで踏み込み、脱兎跳躍。

 

 爆発的な推進力が身体を空へと射出する。

 

 踏み切った屋上が、背後で崩れ落ちた。

 

 もう、戻れぬ。

 

 だが、それでいい。

 

 退路など――最初から要らぬ!

 

 「抜刀――鎌鼬ぃ!!」

 

 空中で刀を振り下ろす。

 

 叩きつけた斬撃が風圧を生み、その反動でさらに高度を稼ぐ。

 

 身体が押し上げられる。

 

 距離が、縮まる。

 

 あと少し――

 

 あと、わずか!

 

 「……ピ……」

 

 「ッ!?」

 

 その瞬間。

 

 大鷹の瞳に、光が戻った。

 

 意識の覚醒。

 

 まずい。

 

 ここで逃げられれば、すべてが水泡に帰す。

 

 あと一歩なのだ。

 

 届くはずなのだ。

 

 ならば――

 

 行け。

 

 振れ。

 

 斬れ――マヒロ・トーエン!

 

 「はああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」

 

 咆哮とともに、全力で刀を振り抜く。

 

 対する大鷹も、即座に反応。

 

 覚醒と同時に状況を理解し、横へと回避行動へ移る。

 

 だが――

 

 遅い。

 

 「ッ!?」

 

 次の瞬間。

 

 確かな手応え――肉を断ち、骨を断ち割る感触が、刃越しに拙者の腕へと伝わる。

 

 風を裂いた一閃が、確かに届いた。

 

 「ピェェェェェェェェェェェェェェェェェェェッ!?」

 

 絶叫。

 

 大鷹の巨体が大きく揺れる。

 

 宙を舞ったのは――

 

 片翼。

 

 拙者の渾身の一撃が、その翼を断ち切っていた。

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