「ぐっ……うぬぬぬ……!」
落下しながら、必死に手を伸ばす。
眼前に迫る建物――だが、指先はわずかに届かない。
掴めぬ。
このままでは――終わる。
いや、終わらせぬ。
ここは、最後の好機。
逃すわけにはいかぬでござる!
「抜刀――水龍!」
瞬時に刀を変化させる。
鉄の刃は、水の刃へ。
流動する刃が唸りを上げ、拙者はそれを建物へと突き立てた。
――ギィンッ!!
水圧を帯びた刃が、壁面へ深々と食い込む。
そのまま滑るように減速し、落下の勢いを殺す。
「……ふぅ」
どうにか、止まった。
刃を横へと捻り、支点を安定させる。これで不用意に滑り落ちることもない。
わずかな安堵。
だが――
「……まだ終わってはおらぬ」
視線を上げる。
大鷹は、なおも落ちてきている。
結界に弾かれ、意識を失ったまま。
だが、それもいつまで続くか分からぬ。
猶予は、ほんの一瞬。
「急がねばならぬでござるな」
魔妖を足場代わりにして体を引き上げる。
腕に力を込め、壁を蹴り、屋上へと這い上がった。
刃を引き抜き、構え直す。
距離、およそ五百。
落下速度も加味すれば――届く。
今度こそ、届くはず。
「……いざ、参る!」
三度目。
これが、最後の機。
息を整え、全身に力を巡らせる。
ここで決めねば、もう次はない。
「はああああっ!!」
地を砕く勢いで踏み込み、脱兎跳躍。
爆発的な推進力が身体を空へと射出する。
踏み切った屋上が、背後で崩れ落ちた。
もう、戻れぬ。
だが、それでいい。
退路など――最初から要らぬ!
「抜刀――鎌鼬ぃ!!」
空中で刀を振り下ろす。
叩きつけた斬撃が風圧を生み、その反動でさらに高度を稼ぐ。
身体が押し上げられる。
距離が、縮まる。
あと少し――
あと、わずか!
「……ピ……」
「ッ!?」
その瞬間。
大鷹の瞳に、光が戻った。
意識の覚醒。
まずい。
ここで逃げられれば、すべてが水泡に帰す。
あと一歩なのだ。
届くはずなのだ。
ならば――
行け。
振れ。
斬れ――マヒロ・トーエン!
「はああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」
咆哮とともに、全力で刀を振り抜く。
対する大鷹も、即座に反応。
覚醒と同時に状況を理解し、横へと回避行動へ移る。
だが――
遅い。
「ッ!?」
次の瞬間。
確かな手応え――肉を断ち、骨を断ち割る感触が、刃越しに拙者の腕へと伝わる。
風を裂いた一閃が、確かに届いた。
「ピェェェェェェェェェェェェェェェェェェェッ!?」
絶叫。
大鷹の巨体が大きく揺れる。
宙を舞ったのは――
片翼。
拙者の渾身の一撃が、その翼を断ち切っていた。