「……ふぅぅぅぅぅ」
ようやく致命の一撃を与え、張り詰めていた糸がほどける。
気づけば、呼吸すら忘れかけていたでござるな。
大鷹の右の翼は斬り落とされ、その巨体は制御を失ったまま落下していく。あの瞬間、上ではなく横へ逃れようとした判断が仇となったのであろう。結界への恐れか、それとも咄嗟の本能か――いずれにせよ、勝負を分けた一手であった。
「……ピ……」
背後から、弱々しい声。
翼を失い、もはや戦えぬかに見えた。
「ピ、ピエェェェ――――!!」
「ッ!?」
――否。
次の瞬間、絶叫が空を裂いた。
それは苦痛の悲鳴ではない。
己を奮い立たせる、魂の咆哮。
「スゥゥゥ――――」
「なっ……!?」
振り返る。
大鷹は、こちらを見据えていた。
残る力をかき集めるように、深く息を吸い込み――その口元へ、再び風が集束していく。
この状況で、なお撃つか。
退くことも、諦めることもせず、最後まで牙を剥く。
「……見事でござる」
空中では、回避は叶わぬ。
まともに受ければ、無事では済まぬであろう。
だが――
「……ふっ」
なぜか、笑みがこぼれた。
これほどまでに命を削り合う戦い、久方ぶり。
胸が熱く、高鳴る。
「天晴。流石は空の王――最後まで折れぬその気概、感服致した」
静かに刀を収める。
礼を尽くすように。
「ならば拙者も、最後まで――戦い抜くでござる!」
息を整える。
これが、最後の一振り。
どの技を選ぶかで、すべてが決まる。
だが――迷いはない。
最速の一閃。
それだけでよい。
先に届いた方が、勝つ。
「抜刀――鳴雷!!」
刹那。
全身を雷が駆け抜ける。
視界が、世界が、引き延ばされる。
魔妖を上段へ。
収束した雷が刃へと集い、その輝きはまさしく落雷そのもの。
時間が、止まったかのように静まる。
そして――
「ピエェェェェェェェェェェェェェェェェェェ――――――――!!」
「落雷斬りぃ――――――――――――――――――――――ッ!!」
交錯。
その一瞬。
互いの刹那がぶつかり合い、世界がひび割れるように軋んだ。
世界が、閃光に裂けた。
拙者の一閃は、大鷹の風が解き放たれるよりも――
ほんの刹那、速かった。
確かな手応え。
雷を纏った刃が、肉を裂き、深々とその身を断ち切る。
次の瞬間、大鷹の放った風はあらぬ方向へと逸れ、虚しく空を切り裂いた。
勝負は――決した。
大鷹の巨体は力を失い、そのまま地へと落ちていく。
拙者もまた、余力を使い果たしながら、ゆっくりと落下を始める。
だが、もはや焦りはない。
この戦い――
拙者の勝ちでござる。