転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第7章ー28

 「ピ、ピィィィ……」

 

 斬り裂かれた大鷹の腹部から、じゅう、と焼け焦げるような黒煙が立ち昇る。

 

 掠れた鳴き声を漏らしながら、その巨体は力なく落下していった。

 

 あれほどの致命傷を受けたのだ。さしもの空の王者といえど、もはや戦う力は残っておるまい。

 

 「……うっ!?」

 

 だが、限界なのは拙者も同じでござった。

 

 全身から力が抜けていく。腕も脚も鉛のように重く、呼吸ひとつするだけで肺が焼けるように痛む。

 

 正直、もう指一本動かすのも辛い。

 

 拙者もまた、大鷹と同じように空中で力尽き、そのまま地上へと落下していく。

 

 「……」

 

 ――しまった。

 

 着地するための体力すら、残しておらぬ。

 

 この高さから無防備に落ちれば、ただでは済まぬ。下手をすれば、そのまま死ぬ。

 

 どうする。

 

 もう一度、水龍で建物へと掴まるか?

 

 だが、戦いの最中でかなり移動してしまったせいで、周囲の建物までは距離がある。今の状態では、水龍を届かせるだけの力も精度も残っておらぬ。

 

 ならば鎌鼬か?

 

 風圧で軌道を変えられれば――

 

 「……いや」

 

 無理でござるな。

 

 もはや刀を振る力すら残っておらぬ。全力の斬撃など、夢のまた夢。

 

 他に手は?

 

 考える。

 

 必死に考える。

 

 だが、浮かばぬ。

 

 今の拙者にできることなど、ほとんど残されてはいない。

 

 つまり――

 

 助かる術は、ない。

 

 「……ここまで、でござるか」

 

 不思議と恐怖はなかった。

 

 やれることは、すべてやった。

 

 死力を尽くし、最後まで戦い抜いた。

 

 それに――

 

 久方ぶりに、胸が震えるほど面白い戦いでござった。

 

 「……スゥゥ」

 

 静かに息を吐く。

 

 武士たるもの、死ぬ時は潔く。

 

 未練を抱えて往生際悪く足掻くなど、無様でござる。

 

 そう、自分に言い聞かせる。

 

 「……ピ、ピィ……」

 

 ゆっくりと目を閉じる。

 

 雑念を捨てるため、心を無にしようとする。

 

 余計なことは考えてはいけない。

 

 ただ静かに、終わりを受け入れる。

 

 ――そのはずだった。

 

 「……」

 

 だが、消えぬ。

 

 何度雑念を払おうとしても、脳裏に皆の顔が浮かんでくる。

 

 剣を教えてくれた師範。

 

 同じ学び舎で過ごした級友達。

 

 ギリスケ殿。

 

 ソンジ殿。

 

 フィー殿。

 

 ミオ。

 

 サダメ。

 

 皆の笑顔が、次々と脳裏に映る。

 

 「……っ」

 

 気づけば、涙が零れていた。

 

 どうしても、消えてくれぬ。

 

 「……拙者も、皆と海に行きたいでござるな」

 

 ぽつりと、本音が漏れる。

 

 結局、目を閉じ続けることはできなかった。

 

 やはり――

 

 拙者は、生きたい。

 

 皆ともっと笑いたい。

 

 もっと思い出を作りたい。

 

 一緒に卒業したい。

 

 まだ、やりたいことが山ほどある。

 

 だから――

 

 「ここで、死ぬわけには……」

 

 「ピエェェェ――!!」

 

 「ッ!?」

 

 その瞬間。

 

 下方から、聞き覚えのある鳴き声が響いた。

 

 大鷹――?

 

 なぜ、今さら。

 

 「ピエェェェェェ――――!!!!」

 

 「ぬおっ!?」

 

 直後。

 

 何か巨大なものが下から急上昇し、そのまま拙者へとぶつかってきた。

 

 衝撃。

 

 そして、全身を包み込む柔らかな感触。

 

 ふさふさとした羽毛。

 

 この感触は――

 

 「ッ!? まさか、おぬし……!」

 

 目を見開く。

 

 そこにいたのは、片翼を失ったはずの大鷹。

 

 飛べるはずがない。

 

 ならば、風魔法で無理やり浮上してきたというのか。

 

 拙者に止めを刺すため――

 

 いや、違う。

 

 「……助けに、来たのでござるか?」

 

 「ピ、ピィィ……」

 

 弱々しく鳴きながら、大鷹は残された力を振り絞るように風を操る。

 

 その風が、落下の勢いを和らげていく。

 

 「うおおっ!?」

 

 一度ふわりと浮き上がった後、再び降下。

 

 だが、先ほどまでとは違う。

 

 速度が、明らかに落ちている。

 

 やがて――

 

 大鷹は拙者を背に乗せたまま、ゆっくりと地面へ降り立った。

 

 こうして拙者は、大鷹に命を救われる形で生還を果たしたのでござる。

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