「ピ、ピィ……ピィ」
拙者を背に乗せて地上へ降り立った後、大鷹の身体は徐々に光の粒となって崩れ始めていた。
力を使い果たしたのでござろう。
使い魔は、たとえ命を落としても主人が生きている限り再び召喚される。だからこそ、あやつは最後の最後まで無茶を押し通せたのだ。
「……最後まで、かたじけないでござるな。我が好敵手よ」
「ピィー……」
消えゆく大鷹へ、そっと手を伸ばす。
羽を撫でると、大鷹はどこか満足げに目を細めた。
まるで「悪くない戦いだった」とでも言いたげに。
そして次の瞬間、その巨体は静かに光へと溶けていった。
「……」
本当に、見事な相手でござった。
強さも、誇り高さも、最後まで折れぬ気概も。
こんな戦いができたことを、拙者は心から誇りに思う。
『まさか最後の最後まで、私の命令を守ってくれるなんてね。本当に律儀で良い子だよ』
「ッ!?」
穏やかな余韻に浸っていたその時。
拡声器越しの声とともに、ライラック師範がこちらへ歩み寄って来るのが見えた。
その言葉を聞いた瞬間、拙者はふと思い出す。
――『殺さない程度に相手してやれ』
試験開始前、師範が大鷹へ与えていた命令。
「……なるほど。そういえば、そんなことを言っていたでござるな」
合点がいった。
大鷹が拙者を助けたのは、単なる情けではない。
主人から与えられた命令を、最後の最後まで忠実に守っていたのでござる。
片翼を失い、満身創痍になってなお。
そこまで徹底していたとは。
「……完敗でござるな」
自然と、苦笑が漏れる。
「試合には勝った。されど、勝負では負けた――とは、こういう事なのでござろう」
『そうかもしれないね』
ライラック師範も小さく笑う。
もし、あの命令が無ければ。
もし、大鷹が最後に助けてくれなければ。
敗北していたのは、間違いなく拙者の方でござった。
そう思うと、自分の未熟さが妙に可笑しく思えてしまう。
『さて――試合に勝った君には悪いけど、今回の試験は“ゴールに辿り着くこと”が目的だ。その意味、分かるよね?』
「……うむ」
穏やかな空気が少しだけ引き締まる。
そう。
この試験は鬼ごっこ。
どれほど激闘を制しようと、捕まれば失格。
それがルール。
そして今の拙者には、もはや逃げ切る体力など残っておらぬ。
残念ではあるが――ここまででござるな。
だが、悔いはない。
フィー殿の逃げる時間くらいは、きっと稼げたはず。
皆と海へ行けぬのは少々心残りではあるが、機会なら来年も再来年もある。
たとえ全員が同じ道を歩める保証はなくとも――
拙者の友は皆、強い。
どんな困難が待ち受けようと、きっと乗り越えて卒業まで辿り着くでござろう。
そう信じている。
『相手の自由を奪い取れ――【
『なにっ!?』
「ッ!?」
突如、魔法陣がライラック師範の足元に展開。
次の瞬間、光の鎖が師範の両腕へ巻き付き、その動きを封じた。
不意を突かれた師範は体勢を崩し、そのまま尻餅をつく。
「な、一体何が――」
『ふー。危機いっぱーつ!』
聞き慣れた明るい声。
その方向へ視線を向けた瞬間、拙者は思わず目を見開いた。
「フィー殿!?」
そこには、得意げな笑みを浮かべたフィー殿が立っていたのでござる。