転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第7章ー29

 「ピ、ピィ……ピィ」

 

 拙者を背に乗せて地上へ降り立った後、大鷹の身体は徐々に光の粒となって崩れ始めていた。

 

 力を使い果たしたのでござろう。

 

 使い魔は、たとえ命を落としても主人が生きている限り再び召喚される。だからこそ、あやつは最後の最後まで無茶を押し通せたのだ。

 

 「……最後まで、かたじけないでござるな。我が好敵手よ」

 

 「ピィー……」

 

 消えゆく大鷹へ、そっと手を伸ばす。

 

 羽を撫でると、大鷹はどこか満足げに目を細めた。

 

 まるで「悪くない戦いだった」とでも言いたげに。

 

 そして次の瞬間、その巨体は静かに光へと溶けていった。

 

 「……」

 

 本当に、見事な相手でござった。

 

 強さも、誇り高さも、最後まで折れぬ気概も。

 

 こんな戦いができたことを、拙者は心から誇りに思う。

 

 『まさか最後の最後まで、私の命令を守ってくれるなんてね。本当に律儀で良い子だよ』

 

 「ッ!?」

 

 穏やかな余韻に浸っていたその時。

 

 拡声器越しの声とともに、ライラック師範がこちらへ歩み寄って来るのが見えた。

 

 その言葉を聞いた瞬間、拙者はふと思い出す。

 

 ――『殺さない程度に相手してやれ』

 

 試験開始前、師範が大鷹へ与えていた命令。

 

 「……なるほど。そういえば、そんなことを言っていたでござるな」

 

 合点がいった。

 

 大鷹が拙者を助けたのは、単なる情けではない。

 

 主人から与えられた命令を、最後の最後まで忠実に守っていたのでござる。

 

 片翼を失い、満身創痍になってなお。

 

 そこまで徹底していたとは。

 

 「……完敗でござるな」

 

 自然と、苦笑が漏れる。

 

 「試合には勝った。されど、勝負では負けた――とは、こういう事なのでござろう」

 

 『そうかもしれないね』

 

 ライラック師範も小さく笑う。

 

 もし、あの命令が無ければ。

 

 もし、大鷹が最後に助けてくれなければ。

 

 敗北していたのは、間違いなく拙者の方でござった。

 

 そう思うと、自分の未熟さが妙に可笑しく思えてしまう。

 

 『さて――試合に勝った君には悪いけど、今回の試験は“ゴールに辿り着くこと”が目的だ。その意味、分かるよね?』

 

 「……うむ」

 

 穏やかな空気が少しだけ引き締まる。

 

 そう。

 

 この試験は鬼ごっこ。

 

 どれほど激闘を制しようと、捕まれば失格。

 

 それがルール。

 

 そして今の拙者には、もはや逃げ切る体力など残っておらぬ。

 

 残念ではあるが――ここまででござるな。

 

 だが、悔いはない。

 

 フィー殿の逃げる時間くらいは、きっと稼げたはず。

 

 皆と海へ行けぬのは少々心残りではあるが、機会なら来年も再来年もある。

 

 たとえ全員が同じ道を歩める保証はなくとも――

 

 拙者の友は皆、強い。

 

 どんな困難が待ち受けようと、きっと乗り越えて卒業まで辿り着くでござろう。

 

 そう信じている。

 

 『相手の自由を奪い取れ――【拘束麻痺(レスト・ライズ)】!』

 

 『なにっ!?』

 

 「ッ!?」

 

 突如、魔法陣がライラック師範の足元に展開。

 

 次の瞬間、光の鎖が師範の両腕へ巻き付き、その動きを封じた。

 

 不意を突かれた師範は体勢を崩し、そのまま尻餅をつく。

 

 「な、一体何が――」

 

 『ふー。危機いっぱーつ!』

 

 聞き慣れた明るい声。

 

 その方向へ視線を向けた瞬間、拙者は思わず目を見開いた。

 

 「フィー殿!?」

 

 そこには、得意げな笑みを浮かべたフィー殿が立っていたのでござる。

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