転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第7章ー30

 拙者は驚きのあまり、思わず目を丸くしていた。

 

 すでに逃げ切ったものと思っていた人物が、こうして目の前に現れたのでござるから。

 

 『いやー、危ない危ない。もう少し遅れてたら、マヒロちゃん捕まっちゃうところだったよー』

 

 「……フィー殿。何故こんな所に?」

 

 『何故って、決まってるじゃん』

 

 フィー殿は、さも当然のように笑う。

 

 『マヒロちゃんを助けるためだよー』

 

 「拙者の……ため?」

 

 『そそ。マヒロちゃんがヤバそうになったら助けに入ろうと思って、ずっと建物の裏に隠れてたの』

 

 そう言いながら、悪戯っぽく笑みを浮かべる。

 

 『……とは言っても、途中から空の上で戦い始めちゃったから、流石に助けに行けなかったけどね』

 

 「……」

 

 つまり。

 

 フィー殿は、あの後もずっと近くで待機していてくれたのでござるか。

 

 拙者の邪魔にならぬよう、身を潜めながら。

 

 『……ふっ。なるほど』

 

 拙者達の会話を聞いていたライラック師範が、小さく笑みを零した。

 

 『話を聞く限り、事前に打ち合わせしていた訳ではなさそうだね』

 

 どうやら師範は、拙者達が示し合わせていたのではと疑っていたらしい。

 

 『まあねー。先生って魔力感知は使えないでしょ? だから気配遮断の魔法を使えば、隠れるくらいチョチョイのチョイなんですよー。イェイ!』

 

 フィー殿は得意げにピースサインを向けながら、片目をぱちりと閉じる。

 

 まったく。

 

 ここまで先を読んでおったとは、恐れ入るでござるな。

 

 『よーし、じゃあ急ごうマヒロちゃん。んっしょっと!』

 

 「お、おお……かたじけないでござる、フィー殿」

 

 フィー殿はスキップ混じりに駆け寄ってくると、そのまま拙者の肩を担ぎ上げた。

 

 しかし、拙者よりも小柄な身でござる。流石に重そうで、足取りも少々ふらついている。

 

 その姿を見ていると、申し訳なさで胸が痛む。

 

 『私の拘束魔法、一分くらいしか保たないからねー。先生が復活する前にゴールしないと――ととっ!』

 

 「お、かたじけぬフィー殿!」

 

 危なっかしく体勢を立て直すフィー殿。

 

 失礼ながら、その必死な姿がどこか愛らしく見えてしまった。

 

 無論、口に出す勇気などござらぬが。

 

 「……拙者が言うのもなんでござるが、本当に大丈夫でござるか?」

 

 流石に見ていられず、心配の声を掛ける。

 

 無理をして共倒れになってしまっては意味がない。

 

 最悪、拙者を置いて先に逃げてもらうべきか――そんな考えすら頭をよぎる。

 

 『だーいじょうぶ、ダイジョーブ』

 

 フィー殿は息を切らしながらも、にへらと笑った。

 

 『マヒロちゃん、すっごく頑張ってたし。皆で海にも行きたいしね』

 

 「……うむ」

 

 やはり、フィー殿も同じ気持ちだったのでござるな。

 

 皆で合格し、皆で思い出を作りたい。

 

 その想いは、拙者だけではなかった。

 

 『それに――』

 

 「それに?」

 

 フィー殿は少しだけ足を止める。

 

 そして、照れ臭そうに笑いながら――

 

 『一番乗りは、やっぱりマヒロちゃんじゃなきゃ!』

 

 「ッ!?」

 

 その言葉を聞いた瞬間。

 

 拙者の脳裏に、試験前に自分が口にしていた言葉が蘇る。

 

 ――誰よりも先にゴールしてみせる。

 

 あの時の、拙者の宣言。

 

 まさか。

 

 フィー殿は、それを覚えていて――

 

 「……敵わぬでござるな、フィー殿には」

 

 自然と、笑みが零れた。

 

 強さだけではない。

 

 優しさも、気遣いも、仲間を想う心も。

 

 きっと拙者は、まだまだ未熟なのでござろう。

 

 だからこそ――

 

 この者達と共に歩みたいと思える。

 

 夕陽に染まる道を、拙者達は肩を支え合いながら進んでいく。

 

 ゆっくりと。

 

 一歩ずつ。

 

 笑い合いながら、終着点へ向かって。

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