転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第7章ー31

 拘束されてから約一分後。

 

 私の両腕を縛っていた雷の拘束魔法が、ふっと霧散した。

 

 どうやら、彼女の言っていた通り制限時間を迎えたらしい。

 

 『……』

 

 ようやく自由になったものの、私はすぐには動かなかった。

 

 その場に立ったまま、肩を並べて歩いていく二人の背中を静かに見つめる。

 

 ――いや。

 

 正確には、“どうやって追いつくか”を考えていた。

 

 緋翔の大鷹(レッド・ホーク)

 

 私が使役する使い魔の中でも、最速にして最強。

 

 空戦能力、瞬発力、制圧力、そのどれを取っても頭一つ抜けている、まさに切り札と呼ぶべき存在だ。

 

 その大鷹が――一人の少女に敗れた。

 

 もちろん、使い魔は死んでも主人が生きている限り再召喚できる。

 

 だが、負傷の度合いによって回復時間は変わる。今回のような重傷なら、最低でも半日は必要だろう。恐らく、一日では済まない。

 

 つまり、現時点で大鷹は使えない。

 

 他にも速度に優れた使い魔はいる。

 

 【獅子豹(ライオルド)】や【氷結の狼(フリーズ・ウルフ)】など、地上戦を得意とする子達なら召喚可能だ。

 

 しかし――

 

 彼女達とゴール地点との距離は、残り五十メートルほど。

 

 一方の私は、ここから三百メートル近く離れている。

 

 今から召喚し、全速力で追わせたとしても、間に合う可能性は極めて低い。

 

 『……はあ。これは、私の負けかな』

 

 観念したように、小さく息を吐く。

 

 私は頭に着けていたヘッドセットを外した。

 

 もう彼女達へ指示を飛ばす必要もない。

 

 それに――これ以上、弱音を聞かれたくもなかった。

 

 「ほんっと、あと少しだったんだけどなぁ……」

 

 遠ざかっていく二人の背中を眺めながら、一人反省会を始める。

 

 序盤は悪くなかった。

 

 大鷹《ホーク》がいる。

 

 そう思っていたからこそ、正直なんとかなると高を括っていた部分もある。

 

 だが。

 

 マヒロ・トーエン。

 

 あの少女だけは、完全に想定外だった。

 

 戦闘能力。

 

 判断力。

 

 そして、あの異様なまでの存在感。

 

 本人はどこか自分を過小評価しているように見えたが、はっきり言って――恐ろしかった。

 

 特に、あの時の殺気。

 

 あれは尋常ではない。

 

 獰猛な獣の威圧とも違う。

 

 ましてや激情に任せた暴力でもない。

 

 あれは――“人を斬る覚悟”を知っている者の殺気だ。

 

 衝動的な殺人犯とも、快楽殺人鬼とも違う。

 

 幾度も修羅場を潜り抜け、生き残るために刃を振るってきた者だけが纏う類のもの。

 

 ……昔、一度だけ見たことがある。

 

 学生時代、任務先で遭遇した殺人鬼。

 

 生き延びるためなら人を殺すことすら躊躇しない、あの冷え切った眼。

 

 あの時の恐怖は、今でも忘れられない。

 

 結局、その犯人は騎士団に捕らえられた。

 

 だが、その過程で村人が五人、六人――そして私の同期も一人、命を落とした。

 

 言葉で説明するのは難しい。

 

 けれど、マヒロの殺気は、それとはまた違う意味で恐ろしかった。

 

 どんな人生を歩めば、あれほどの覚悟を宿せるのか。

 

 どんな環境で育てば、あんな目ができるのか。

 

 私には想像もつかない。

 

 きっと、彼女は――相当な修羅場を生き抜いてきたのだろう。

 

 『マヒロ・トーエン、フィー・ミッドブルー、二名の到着を確認。これにて第三試合を終了とする』

 

 そんなことを考えているうちに、二人はゴール地点へ到達していた。

 

 試験終了を告げるアナウンスが、静かに響き渡る。

 

 「……おめでとう、二人とも」

 

 私は小さく微笑みながら、誰にも聞こえない場所で拍手を送った。

 

 敗者としてではなく――

 

 彼女達の戦いを見届けた、一人の教師として。

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