建物の修復に時間がかかり、十分ほどの休憩を挟んだ後――ついに自分達の出番である第四試合が始まった。
『第四試合、開始!』
開始のアナウンスが響いた瞬間、自分とギリスケはすぐさま近くの建物の裏へと身を隠した。
マヒロのように高速移動できる手段は自分にはない。
脱兎跳躍《ラジャスト》を使えばある程度の速度は出せる。だが、あれほどの機動力を再現できるわけではないし、そもそもコールスタッシュ先生がどんな魔法を使うのか現時点では不明だ。
情報不足のまま正面突破を狙うには、不安要素が多すぎる。
それに――理由は自分でもよく分からないが、ギリスケを背負って走るのはなんとなく嫌だった。重い荷物を抱えながら全力で走れば、体力の消耗も激しい。
ならば、ここは無理に突っ込むよりも、慎重かつ確実にゴールを目指すべきだろう。
「……そういえば、お前の魔法って見た事ないな」
「え?」
建物の陰を縫うように走りながら、自分はふと前から気になっていた事を口にした。
ギリスケの魔法を、自分は一度も見た事がない。
普段の授業でも、こいつと一緒に行動する機会は少なかった。自分は大抵一人で訓練しているか、マヒロやミオのどちらかと練習している事が多い。時々フィーが混ざってくる事もあるが、ギリスケがそこに加わる事はほとんどなかった。
……いや、そもそも。
こいつが真面目に魔法の練習をしている姿自体、一度も見た覚えがない。
任務中も適当にサボっているか、どこかで寝ているかのどちらかだ。まともに協力してくれた記憶は驚くほど少ない。
かなりいい加減な男――それがギリスケに対する率直な印象だった。
「ふっ。俺みたいに真に才能ある男は、人前で魔法なんて滅多に使わないもんなのさ。能ある鷹は爪を隠す、ってな」
「いや、お前はどっちかっていうと“頭隠して尻隠さず”だろ?」
「キャー!? サダメ君ってば、私のお尻見たのー!? サイッテー!」
「ことわざをことわざで返しただけだろ!? あと変な声出すな! 普通に気持ち悪いわ!」
真面目に聞いたつもりだったのに、返ってきたのはいつもの軽口だった。
しかも無駄に甲高い悲鳴付きである。
……本当に何なんだこいつは。
ここまでふざけ倒されると、逆に本気で魔法を見せたくないのではないかと思えてくる。
だったら、なぜ魔法学園なんかに入ったのだろうか。
「はあ……もういい。とりあえず、このまま建物の裏を使って隠れながらゴールに――」
『三十秒経過! 鬼役、解放!』
「ッ!? 来るか!」
その瞬間、鬼役の待機時間終了を告げるアナウンスが響いた。
ついにコールスタッシュ先生が動き出す。
まだまともな作戦は立てられていない。だが、立ち止まっている余裕もなかった。
とにかく前へ進むしかない。
こちらには魔力感知がある。向こうが感知系統の魔法を使えないなら、ライラック先生のような特殊な索敵手段でもない限り、自分達を見つけ出すのは容易ではないはずだ。
相手が近づいてきたとしても、自分が先に魔力を察知できる。そこから位置を把握し、様子を探りながら動けば――
『……ふう。【火球《フレール》】』
「ッ!?」
突如、背後から轟音が響いた。
空気を震わせる爆発音。反射的に身体が強張る。
今のは炎魔法だ。しかも、自分が普段からよく使っている初級魔法――火球《フレール》。
つまり、コールスタッシュ先生も炎属性を扱えるという事。
そう理解した瞬間――
「お、おいサダメ……ア、アレ……」
「ん? ……なっ!?」
ギリスケが震えた声で自分の肩を叩いてきた。
嫌な予感を覚えながら後ろを振り返る。
そして、自分は言葉を失った。
スタート地点付近にあった建物――その中でも最も近くに建っていた建物が、凄まじい勢いで崩れ落ちていたのだ。
瓦礫を巻き上げながら倒壊する建物。立ち昇る土煙。遅れて響く轟音。
たった一発の火球。
それだけで、建物が半壊していた。
「……は?」
思わず間の抜けた声が漏れる。
いや、おかしいだろ。
火球《フレール》は初級魔法だ。自分も何度も使っている。だが、あんな威力など見た事がない。
あれは本当に同じ魔法なのか――そう疑いたくなるほど、圧倒的な破壊力だった。