転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第7章ー34

 建物の修復に時間がかかり、十分ほどの休憩を挟んだ後――ついに自分達の出番である第四試合が始まった。

 

 『第四試合、開始!』

 

 開始のアナウンスが響いた瞬間、自分とギリスケはすぐさま近くの建物の裏へと身を隠した。

 

 マヒロのように高速移動できる手段は自分にはない。

 

 脱兎跳躍《ラジャスト》を使えばある程度の速度は出せる。だが、あれほどの機動力を再現できるわけではないし、そもそもコールスタッシュ先生がどんな魔法を使うのか現時点では不明だ。

 

 情報不足のまま正面突破を狙うには、不安要素が多すぎる。

 

 それに――理由は自分でもよく分からないが、ギリスケを背負って走るのはなんとなく嫌だった。重い荷物を抱えながら全力で走れば、体力の消耗も激しい。

 

 ならば、ここは無理に突っ込むよりも、慎重かつ確実にゴールを目指すべきだろう。

 

 「……そういえば、お前の魔法って見た事ないな」

 

 「え?」

 

 建物の陰を縫うように走りながら、自分はふと前から気になっていた事を口にした。

 

 ギリスケの魔法を、自分は一度も見た事がない。

 

 普段の授業でも、こいつと一緒に行動する機会は少なかった。自分は大抵一人で訓練しているか、マヒロやミオのどちらかと練習している事が多い。時々フィーが混ざってくる事もあるが、ギリスケがそこに加わる事はほとんどなかった。

 

 ……いや、そもそも。

 

 こいつが真面目に魔法の練習をしている姿自体、一度も見た覚えがない。

 

 任務中も適当にサボっているか、どこかで寝ているかのどちらかだ。まともに協力してくれた記憶は驚くほど少ない。

 

 かなりいい加減な男――それがギリスケに対する率直な印象だった。

 

 「ふっ。俺みたいに真に才能ある男は、人前で魔法なんて滅多に使わないもんなのさ。能ある鷹は爪を隠す、ってな」

 

 「いや、お前はどっちかっていうと“頭隠して尻隠さず”だろ?」

 

 「キャー!? サダメ君ってば、私のお尻見たのー!? サイッテー!」

 

 「ことわざをことわざで返しただけだろ!? あと変な声出すな! 普通に気持ち悪いわ!」

 

 真面目に聞いたつもりだったのに、返ってきたのはいつもの軽口だった。

 

 しかも無駄に甲高い悲鳴付きである。

 

 ……本当に何なんだこいつは。

 

 ここまでふざけ倒されると、逆に本気で魔法を見せたくないのではないかと思えてくる。

 

 だったら、なぜ魔法学園なんかに入ったのだろうか。

 

 「はあ……もういい。とりあえず、このまま建物の裏を使って隠れながらゴールに――」

 

 『三十秒経過! 鬼役、解放!』

 

 「ッ!? 来るか!」

 

 その瞬間、鬼役の待機時間終了を告げるアナウンスが響いた。

 

 ついにコールスタッシュ先生が動き出す。

 

 まだまともな作戦は立てられていない。だが、立ち止まっている余裕もなかった。

 

 とにかく前へ進むしかない。

 

 こちらには魔力感知がある。向こうが感知系統の魔法を使えないなら、ライラック先生のような特殊な索敵手段でもない限り、自分達を見つけ出すのは容易ではないはずだ。

 

 相手が近づいてきたとしても、自分が先に魔力を察知できる。そこから位置を把握し、様子を探りながら動けば――

 

 『……ふう。【火球《フレール》】』

 

 「ッ!?」

 

 突如、背後から轟音が響いた。

 

 空気を震わせる爆発音。反射的に身体が強張る。

 

 今のは炎魔法だ。しかも、自分が普段からよく使っている初級魔法――火球《フレール》。

 

 つまり、コールスタッシュ先生も炎属性を扱えるという事。

 

 そう理解した瞬間――

 

 「お、おいサダメ……ア、アレ……」

 

 「ん? ……なっ!?」

 

 ギリスケが震えた声で自分の肩を叩いてきた。

 

 嫌な予感を覚えながら後ろを振り返る。

 

 そして、自分は言葉を失った。

 

 スタート地点付近にあった建物――その中でも最も近くに建っていた建物が、凄まじい勢いで崩れ落ちていたのだ。

 

 瓦礫を巻き上げながら倒壊する建物。立ち昇る土煙。遅れて響く轟音。

 

 たった一発の火球。

 

 それだけで、建物が半壊していた。

 

 「……は?」

 

 思わず間の抜けた声が漏れる。

 

 いや、おかしいだろ。

 

 火球《フレール》は初級魔法だ。自分も何度も使っている。だが、あんな威力など見た事がない。

 

 あれは本当に同じ魔法なのか――そう疑いたくなるほど、圧倒的な破壊力だった。

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