「はっ!? な、何が起こって……!」
『【火球《フレール》】、【火球《フレール》】、【火球《フレール》】!』
「ッ!?」
立て続けに響き渡る爆発音。
それと同時に、視界の端で次々と建物が崩れ落ちていく。
――おい、待て。
あの人、もしかして手当たり次第に建物を破壊しているのか?
脳裏に浮かんだのは、最悪の予想だった。
建物という建物を片っ端から潰し、隠れ場所そのものを消していく。そうやって逃げ場をなくし、自分達を炙り出すつもりなのではないか。
いや、だとしても――
「おい!? 早く逃げねぇとマジでヤバいぞ!?」
「ッ!? お、おう!」
考え込む暇などなかった。
後方では、今この瞬間にも建物が倒壊している。爆風が吹き抜け、地面が震え、耳をつんざくような轟音が鳴り響く。
このまま立ち止まっていれば、自分達まで巻き添えを食らう。
今はとにかく、この場から離れるしかない。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……!」
自分達は全力で走った。
瓦礫を避け、崩れ落ちる建物から距離を取りながら、ひたすらゴールを目指す。
本当なら後ろの状況も確認したい。だが、振り返る余裕などまるでない。少しでも足を止めれば、その瞬間に瓦礫の下敷きになりかねなかった。
「はぁ……はぁ……っ、あの人、頭おかしいんじゃねぇのか!? 俺達が潰れたらどうすんだよ!?」
息を切らしながら、ギリスケが半ば悲鳴のように叫ぶ。
珍しく、その意見には全面的に同意だった。
本当に何を考えているんだ、あの先生は。
あんなものに巻き込まれたら、下手をすれば死ぬ。
普段は「殺しは厳禁だ」と散々口酸っぱく言っているくせに、本人のやっている事は滅茶苦茶だ。
……いや、前々から思ってはいたが。
あの人、言動と行動が全然一致していない気がする。
『……如是我聞《にょーぜーがーもん》、一時仏《いちじーぶつ》……』
「……?」
耳に妙な声が届いた。
「なんか、ぶつぶつ言ってねぇか?」
「ん?」
ギリスケに言われ、自分も意識を後方へ向ける。
確かに、コールスタッシュ先生が何かを呟いていた。
最初は魔法の詠唱かと思った。だが、聞こえてくる言葉が妙におかしい。
魔法詠唱特有の言い回しではない。
『在舍衞国《しゃーえーこく》、祇樹給孤獨園《ぎーじゅーぎっこーどくおん》、与大比丘衆《よーだいびーくーしゅー》、千二百五十人俱《せんにーひゃくごーじゅうにんくー》、皆是大阿羅漢《かいぜーだいあーらーかん》――』
「いや、あれ念仏唱えてるだけだ!?」
「安らかに眠れって事かよ!?」
どうやら先生は、自分達に向かって念仏を唱えているらしい。
なんでこの世界の魔法教師が念仏なんて知っているのか――その辺りはもう考えるだけ無駄だろう。
だが、タイミングが最悪すぎる。
建物を破壊しながら念仏を唱えるとか、完全に「お前ら死ぬぞ」と言外に宣言しているようなものではないか。
「ちっくしょー! マジかよあの先公! なぁ、どうすんだサダメ!? このままじゃ本当に俺達、お陀仏だぞ!?」
「……」
ギリスケの叫びに、自分は答えず考える。
確かに、このまま逃げ続けるのは危険すぎる。
建物の倒壊による爆風。飛散する瓦礫やガラス片。そこから発生する二次被害。
もし足を取られれば、そのまま倒壊に巻き込まれる可能性すらある。
逃げるだけではジリ貧だ。
なら――
やるしかない。
「……こうなったら、一か八かだ」
「はぁ!? なんか策でもあんのかよ!?」
「ああ。策ってほど立派なもんじゃないけどな」
自分は走りながら、思いついた作戦をギリスケへと手短に伝える。
成功する保証なんてない。
むしろ失敗する可能性の方が高いだろう。
だが、このまま何もしなければ確実に追い詰められる。
ならば、賭けるしかなかった。