転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第7章ー35

 「はっ!? な、何が起こって……!」

 

 『【火球《フレール》】、【火球《フレール》】、【火球《フレール》】!』

 

 「ッ!?」

 

 立て続けに響き渡る爆発音。

 

 それと同時に、視界の端で次々と建物が崩れ落ちていく。

 

 ――おい、待て。

 

 あの人、もしかして手当たり次第に建物を破壊しているのか?

 

 脳裏に浮かんだのは、最悪の予想だった。

 

 建物という建物を片っ端から潰し、隠れ場所そのものを消していく。そうやって逃げ場をなくし、自分達を炙り出すつもりなのではないか。

 

 いや、だとしても――

 

 「おい!? 早く逃げねぇとマジでヤバいぞ!?」

 

 「ッ!? お、おう!」

 

 考え込む暇などなかった。

 

 後方では、今この瞬間にも建物が倒壊している。爆風が吹き抜け、地面が震え、耳をつんざくような轟音が鳴り響く。

 

 このまま立ち止まっていれば、自分達まで巻き添えを食らう。

 

 今はとにかく、この場から離れるしかない。

 

 「はぁっ……はぁっ……はぁっ……!」

 

 自分達は全力で走った。

 

 瓦礫を避け、崩れ落ちる建物から距離を取りながら、ひたすらゴールを目指す。

 

 本当なら後ろの状況も確認したい。だが、振り返る余裕などまるでない。少しでも足を止めれば、その瞬間に瓦礫の下敷きになりかねなかった。

 

 「はぁ……はぁ……っ、あの人、頭おかしいんじゃねぇのか!? 俺達が潰れたらどうすんだよ!?」

 

 息を切らしながら、ギリスケが半ば悲鳴のように叫ぶ。

 

 珍しく、その意見には全面的に同意だった。

 

 本当に何を考えているんだ、あの先生は。

 

 あんなものに巻き込まれたら、下手をすれば死ぬ。

 

 普段は「殺しは厳禁だ」と散々口酸っぱく言っているくせに、本人のやっている事は滅茶苦茶だ。

 

 ……いや、前々から思ってはいたが。

 

 あの人、言動と行動が全然一致していない気がする。

 

 『……如是我聞《にょーぜーがーもん》、一時仏《いちじーぶつ》……』

 

 「……?」

 

 耳に妙な声が届いた。

 

 「なんか、ぶつぶつ言ってねぇか?」

 

 「ん?」

 

 ギリスケに言われ、自分も意識を後方へ向ける。

 

 確かに、コールスタッシュ先生が何かを呟いていた。

 

 最初は魔法の詠唱かと思った。だが、聞こえてくる言葉が妙におかしい。

 

 魔法詠唱特有の言い回しではない。

 

 『在舍衞国《しゃーえーこく》、祇樹給孤獨園《ぎーじゅーぎっこーどくおん》、与大比丘衆《よーだいびーくーしゅー》、千二百五十人俱《せんにーひゃくごーじゅうにんくー》、皆是大阿羅漢《かいぜーだいあーらーかん》――』

 

 「いや、あれ念仏唱えてるだけだ!?」

 

 「安らかに眠れって事かよ!?」

 

 どうやら先生は、自分達に向かって念仏を唱えているらしい。

 

 なんでこの世界の魔法教師が念仏なんて知っているのか――その辺りはもう考えるだけ無駄だろう。

 

 だが、タイミングが最悪すぎる。

 

 建物を破壊しながら念仏を唱えるとか、完全に「お前ら死ぬぞ」と言外に宣言しているようなものではないか。

 

 「ちっくしょー! マジかよあの先公! なぁ、どうすんだサダメ!? このままじゃ本当に俺達、お陀仏だぞ!?」

 

 「……」

 

 ギリスケの叫びに、自分は答えず考える。

 

 確かに、このまま逃げ続けるのは危険すぎる。

 

 建物の倒壊による爆風。飛散する瓦礫やガラス片。そこから発生する二次被害。

 

 もし足を取られれば、そのまま倒壊に巻き込まれる可能性すらある。

 

 逃げるだけではジリ貧だ。

 

 なら――

 

 やるしかない。

 

 「……こうなったら、一か八かだ」

 

 「はぁ!? なんか策でもあんのかよ!?」

 

 「ああ。策ってほど立派なもんじゃないけどな」

 

 自分は走りながら、思いついた作戦をギリスケへと手短に伝える。

 

 成功する保証なんてない。

 

 むしろ失敗する可能性の方が高いだろう。

 

 だが、このまま何もしなければ確実に追い詰められる。

 

 ならば、賭けるしかなかった。

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