「……お前、マジで言ってんのか?」
「今は、それくらいしか思いつかなかったんだ。どのみち、あの人の暴走を止める役も必要だろ」
自分が考えた作戦は至って単純だった。
自分が囮となってコールスタッシュ先生の注意を引きつけ、その隙にギリスケをゴールへ向かわせる。自分は適当なタイミングで離脱し、隙を見て後から合流する――それだけだ。
正直、先生と正面からやり合うのは愚策にしか思えない。
だが、あの人が建物を片っ端から破壊している以上、隠れながら進む作戦はもう成立しそうになかった。
だったら誰かが囮になり、意識を逸らすしかない。
「……言っとくけど俺、フィーちゃんみたいな拘束魔法なんて使えねーぞ?」
「ん? ああ、それは別に期待してない」
「は?」
「向こうもマヒロ達の試合を見てる。拘束魔法は警戒してくるはずだ。だから逆に、その警戒心を利用できるかもしれない」
どうやらギリスケは、先程の試合のようにフィーが隠れながら拘束する作戦を想像していたらしい。
だが、同じ手が何度も通用するほど甘くはないだろう。
まして相手はコールスタッシュ先生だ。フィー達の戦法を見た以上、周囲への警戒を強めてくる可能性が高い。
だからこそ、その心理を逆手に取る。
「むしろ、お前は徹底的に隠れて逃げてくれ。その方が助かる」
「……なるほどな」
ギリスケはまだ不安そうな顔をしていたが、ひとまず納得はしたらしい。
「よし。じゃあ俺は大通りに出る」
「あ、お、おう……無茶すんなよ?」
「ああ。ゴール地点で会おうぜ」
時間はあまり残されていない。
自分はギリスケと別れ、物陰一つない大通りへと飛び出した。
「くっ……ひでぇな」
大通りへ出た瞬間、思わず顔をしかめる。
倒壊した建物の影響で、周囲には大量の砂煙が巻き上がっていた。視界は最悪だ。数メートル先すらまともに見えない。
派手に暴れすぎた結果だろう。
これでは、せっかく囮役として姿を晒した意味が薄い。
「……こうなったら、やるしかないか」
自分は道の中央へ立ち、右手を前に構える。
先生の注意を引きつけるには、こちらから派手に動くしかない。
だが問題は、視界が悪すぎて先生の位置を把握できない事だった。
魔力感知も試してみた。
しかし、自分が感知できる範囲内に存在する魔力はギリスケだけ。コールスタッシュ先生の魔力は引っ掛からない。
スタート地点からの距離は、およそ四百メートル。
自分の感知範囲は半径三百メートル程度。
つまり――
先生は恐らく、まだスタート地点付近から大きく動いていない。
「……」
自分は右手を真正面より少し右斜め上へ向ける。
狙う必要はない。
目的は攻撃ではなく、自分の位置を相手へ知らせる事。
だが、それだけでは意味がない。こちらの居場所を教えるだけで、相手の状況は依然として見えないままだ。
この砂煙そのものを吹き飛ばす必要がある。
自分は深く息を吸い込み、魔力を練り上げた。
「爆ぜる焔よ。火《か》の球《きゅう》として聚合《しゅうごう》し、眼前に映りし標的へ猛る一投を撃ちかけん――」
脳内で鮮明にイメージする。
周囲の煙を吹き飛ばすほどの速度。圧倒的な推進力を持つ火球。
「【火球《フレール》】!」
放たれた火球は、普段より遥かに巨大だった。
いや、一回りどころではない。二回り近く膨れ上がったそれは、もはやバランスボールほどの大きさに達している。
さらに、その速度も異常だった。
轟音を上げながら突き進む火球は、軽く二百キロを超える勢いで空間を駆け抜け、その余波だけで周囲の砂煙を吹き飛ばしていく。
「う゛っ!?」
撃った瞬間、自分の身体が思わず後ろへよろめいた。
あまりの反動に、足元が軋む。
だが、それでも踏みとどまる。
以前の自分なら、間違いなく後方へ吹き飛ばされていただろう。
ここまで制御できるようになったのは、間違いなくオーヴェン先生の個別指導のおかげだ。
『ほぉ? いいもん撃てるようになったじゃねぇか』
「ッ!?」
低く響く声に、自分は反射的に身構える。
火球によって砂煙が吹き飛ばされ、徐々に視界が開けていく。
爆発音も止み、荒れ狂っていた爆風も収まり始めた。
そして――
視界の先。
真っ直ぐ切り開かれた道の向こうに、コールスタッシュ先生が立っていた。