転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第7章ー36

 「……お前、マジで言ってんのか?」

 

 「今は、それくらいしか思いつかなかったんだ。どのみち、あの人の暴走を止める役も必要だろ」

 

 自分が考えた作戦は至って単純だった。

 

 自分が囮となってコールスタッシュ先生の注意を引きつけ、その隙にギリスケをゴールへ向かわせる。自分は適当なタイミングで離脱し、隙を見て後から合流する――それだけだ。

 

 正直、先生と正面からやり合うのは愚策にしか思えない。

 

 だが、あの人が建物を片っ端から破壊している以上、隠れながら進む作戦はもう成立しそうになかった。

 

 だったら誰かが囮になり、意識を逸らすしかない。

 

 「……言っとくけど俺、フィーちゃんみたいな拘束魔法なんて使えねーぞ?」

 

 「ん? ああ、それは別に期待してない」

 

 「は?」

 

 「向こうもマヒロ達の試合を見てる。拘束魔法は警戒してくるはずだ。だから逆に、その警戒心を利用できるかもしれない」

 

 どうやらギリスケは、先程の試合のようにフィーが隠れながら拘束する作戦を想像していたらしい。

 

 だが、同じ手が何度も通用するほど甘くはないだろう。

 

 まして相手はコールスタッシュ先生だ。フィー達の戦法を見た以上、周囲への警戒を強めてくる可能性が高い。

 

 だからこそ、その心理を逆手に取る。

 

 「むしろ、お前は徹底的に隠れて逃げてくれ。その方が助かる」

 

 「……なるほどな」

 

 ギリスケはまだ不安そうな顔をしていたが、ひとまず納得はしたらしい。

 

 「よし。じゃあ俺は大通りに出る」

 

 「あ、お、おう……無茶すんなよ?」

 

 「ああ。ゴール地点で会おうぜ」

 

 時間はあまり残されていない。

 

 自分はギリスケと別れ、物陰一つない大通りへと飛び出した。

 

 「くっ……ひでぇな」

 

 大通りへ出た瞬間、思わず顔をしかめる。

 

 倒壊した建物の影響で、周囲には大量の砂煙が巻き上がっていた。視界は最悪だ。数メートル先すらまともに見えない。

 

 派手に暴れすぎた結果だろう。

 

 これでは、せっかく囮役として姿を晒した意味が薄い。

 

 「……こうなったら、やるしかないか」

 

 自分は道の中央へ立ち、右手を前に構える。

 

 先生の注意を引きつけるには、こちらから派手に動くしかない。

 

 だが問題は、視界が悪すぎて先生の位置を把握できない事だった。

 

 魔力感知も試してみた。

 

 しかし、自分が感知できる範囲内に存在する魔力はギリスケだけ。コールスタッシュ先生の魔力は引っ掛からない。

 

 スタート地点からの距離は、およそ四百メートル。

 

 自分の感知範囲は半径三百メートル程度。

 

 つまり――

 

 先生は恐らく、まだスタート地点付近から大きく動いていない。

 

 「……」

 

 自分は右手を真正面より少し右斜め上へ向ける。

 

 狙う必要はない。

 

 目的は攻撃ではなく、自分の位置を相手へ知らせる事。

 

 だが、それだけでは意味がない。こちらの居場所を教えるだけで、相手の状況は依然として見えないままだ。

 

 この砂煙そのものを吹き飛ばす必要がある。

 

 自分は深く息を吸い込み、魔力を練り上げた。

 

 「爆ぜる焔よ。火《か》の球《きゅう》として聚合《しゅうごう》し、眼前に映りし標的へ猛る一投を撃ちかけん――」

 

 脳内で鮮明にイメージする。

 

 周囲の煙を吹き飛ばすほどの速度。圧倒的な推進力を持つ火球。

 

 「【火球《フレール》】!」

 

 放たれた火球は、普段より遥かに巨大だった。

 

 いや、一回りどころではない。二回り近く膨れ上がったそれは、もはやバランスボールほどの大きさに達している。

 

 さらに、その速度も異常だった。

 

 轟音を上げながら突き進む火球は、軽く二百キロを超える勢いで空間を駆け抜け、その余波だけで周囲の砂煙を吹き飛ばしていく。

 

 「う゛っ!?」

 

 撃った瞬間、自分の身体が思わず後ろへよろめいた。

 

 あまりの反動に、足元が軋む。

 

 だが、それでも踏みとどまる。

 

 以前の自分なら、間違いなく後方へ吹き飛ばされていただろう。

 

 ここまで制御できるようになったのは、間違いなくオーヴェン先生の個別指導のおかげだ。

 

 『ほぉ? いいもん撃てるようになったじゃねぇか』

 

 「ッ!?」

 

 低く響く声に、自分は反射的に身構える。

 

 火球によって砂煙が吹き飛ばされ、徐々に視界が開けていく。

 

 爆発音も止み、荒れ狂っていた爆風も収まり始めた。

 

 そして――

 

 視界の先。

 

 真っ直ぐ切り開かれた道の向こうに、コールスタッシュ先生が立っていた。

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