転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第7章ー38

 「なっ!?」

 

 思わず目を見開く。

 

 何を考えているんだ、この人は。

 

 ついさっきまでこちらを警戒していたはずなのに、今はまるでそんな様子を感じさせない。コールスタッシュ先生は、一直線にこちらへ突っ込んできていた。

 

 もしかして――

 

 自分が本気で当てに来ないと思っているのか?

 

 だとしたら、流石に舐められすぎだ。

 

 確かに、威力は多少抑えるつもりではいる。試験で本当に致命傷を与えるつもりはない。

 

 だが、それでも。

 

 あの速度の火球《フレール》なら、まともに食らえば無事では済まないはずだ。

 

 少なくとも、自分は当てる覚悟で撃つ。

 

 「爆ぜる焔よ。火《か》の球《きゅう》として聚合《しゅうごう》し、眼前に映りし標的へ猛る一投を撃ちかけん――」

 

 先生との距離を少しでも維持するため、自分も後方へ駆けながら詠唱を紡ぐ。

 

 走りながらでも狙いは外さない。

 

 視線は一直線にコールスタッシュ先生へ固定する。

 

 だが――

 

 それでも先生は止まらない。

 

 回避行動を取る様子すらなく、こちらへ向かって走り続けてくる。

 

 やはり、自分を甘く見ている。

 

 そう確信した。

 

 ……悪いな、先生。

 

 自分だって、この試験には受かりたい。

 

 相手が格上だろうと、遠慮して負けるつもりはない。

 

 「【火球《フレール》】!」

 

 『【火球《フレール》】!』

 

 「……はっ?」

 

 火球を放った、その瞬間だった。

 

 先生もまた、同時に火球《フレール》を撃ってきた。

 

 しかも――速い。

 

 さっき建物を破壊していた時とほぼ同じ速度。

 

 いや、それ以上かもしれない。

 

 次の瞬間、自分の火球は先生へ届く前に空中で爆散した。

 

 「嘘、だろ……?」

 

 理解が追いつかない。

 

 自分の火球より速い一撃を、無詠唱で撃ったというのか?

 

 しかも、火球同士が衝突した爆発によって再び大量の煙が巻き上がり、視界が完全に塞がれてしまう。

 

 ――まずい。

 

 この状況を利用して一気に距離を詰めてくる気か?

 

 それとも建物の陰へ隠れるつもりか?

 

 くそ。

 

 さっきまで優位に立っていたはずなのに、一瞬で主導権を奪い返された。

 

 「……こうなったら……」

 

 突然の展開に動揺しながらも、自分は無理やり意識を落ち着かせる。

 

 魔力感知を展開し、先生の位置を探る。

 

 だが、まだ感知範囲には引っ掛からない。

 

 あと少しで範囲内へ入ってくるはずだが――そこからどう動く?

 

 『おらよっ!』

 

 「ッ!?」

 

 次の瞬間。

 

 煙の中から、無数の瓦礫が飛来した。

 

 建物の破片。

 

 先生は、倒壊した建物の残骸を利用しているのか。

 

 だが、理解できない。

 

 なぜ魔法ではなく瓦礫なんだ?

 

 『【火球《フレール》】!』

 

 直後、その疑問はすぐに答えへ変わった。

 

 先生が放った火球《フレール》が、飛来していた瓦礫へ命中する。

 

 そして――

 

 瓦礫が空中で砕け散った。

 

 破裂した破片が散弾のように四方へ飛び散り、自分へ襲い掛かってくる。

 

 「っ……!」

 

 そういう事か。

 

 向こうは魔力感知を使えない。

 

 煙によって視界が遮られている以上、先生もこちらの正確な位置は把握できていないはずだ。

 

 だからこそ、手数を増やしている。

 

 広範囲へ攻撃をばら撒き、少しでもこちらの動きを制限する。

 

 当たれば儲けもの――そんな感覚なのだろう。

 

 「ちっ!」

 

 迫り来る瓦礫の破片から身を守るため、自分は後退しながら再び火球を構築する。

 

 脱兎跳躍《ラジャスト》で回避する事も考えた。

 

 だが、間に合わない。

 

 この数を避け切る前に被弾する。

 

 なら――迎撃するしかない。

 

 「【火球《フレール》】!」

 

 脳内で強くイメージする。

 

 威力は抑える。

 

 その代わり、規模を広げる。

 

 自分へ降り注ぐ破片を丸ごと飲み込めるほど巨大な火球を。

 

 「ぐっ!?」

 

 放たれた火球は、自分の想像通り大きく膨れ上がった。

 

 燃え盛る巨大な炎の塊が、飛来する瓦礫の破片を次々と呑み込み、焼き砕いていく。

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