「なっ!?」
思わず目を見開く。
何を考えているんだ、この人は。
ついさっきまでこちらを警戒していたはずなのに、今はまるでそんな様子を感じさせない。コールスタッシュ先生は、一直線にこちらへ突っ込んできていた。
もしかして――
自分が本気で当てに来ないと思っているのか?
だとしたら、流石に舐められすぎだ。
確かに、威力は多少抑えるつもりではいる。試験で本当に致命傷を与えるつもりはない。
だが、それでも。
あの速度の火球《フレール》なら、まともに食らえば無事では済まないはずだ。
少なくとも、自分は当てる覚悟で撃つ。
「爆ぜる焔よ。火《か》の球《きゅう》として聚合《しゅうごう》し、眼前に映りし標的へ猛る一投を撃ちかけん――」
先生との距離を少しでも維持するため、自分も後方へ駆けながら詠唱を紡ぐ。
走りながらでも狙いは外さない。
視線は一直線にコールスタッシュ先生へ固定する。
だが――
それでも先生は止まらない。
回避行動を取る様子すらなく、こちらへ向かって走り続けてくる。
やはり、自分を甘く見ている。
そう確信した。
……悪いな、先生。
自分だって、この試験には受かりたい。
相手が格上だろうと、遠慮して負けるつもりはない。
「【火球《フレール》】!」
『【火球《フレール》】!』
「……はっ?」
火球を放った、その瞬間だった。
先生もまた、同時に火球《フレール》を撃ってきた。
しかも――速い。
さっき建物を破壊していた時とほぼ同じ速度。
いや、それ以上かもしれない。
次の瞬間、自分の火球は先生へ届く前に空中で爆散した。
「嘘、だろ……?」
理解が追いつかない。
自分の火球より速い一撃を、無詠唱で撃ったというのか?
しかも、火球同士が衝突した爆発によって再び大量の煙が巻き上がり、視界が完全に塞がれてしまう。
――まずい。
この状況を利用して一気に距離を詰めてくる気か?
それとも建物の陰へ隠れるつもりか?
くそ。
さっきまで優位に立っていたはずなのに、一瞬で主導権を奪い返された。
「……こうなったら……」
突然の展開に動揺しながらも、自分は無理やり意識を落ち着かせる。
魔力感知を展開し、先生の位置を探る。
だが、まだ感知範囲には引っ掛からない。
あと少しで範囲内へ入ってくるはずだが――そこからどう動く?
『おらよっ!』
「ッ!?」
次の瞬間。
煙の中から、無数の瓦礫が飛来した。
建物の破片。
先生は、倒壊した建物の残骸を利用しているのか。
だが、理解できない。
なぜ魔法ではなく瓦礫なんだ?
『【火球《フレール》】!』
直後、その疑問はすぐに答えへ変わった。
先生が放った火球《フレール》が、飛来していた瓦礫へ命中する。
そして――
瓦礫が空中で砕け散った。
破裂した破片が散弾のように四方へ飛び散り、自分へ襲い掛かってくる。
「っ……!」
そういう事か。
向こうは魔力感知を使えない。
煙によって視界が遮られている以上、先生もこちらの正確な位置は把握できていないはずだ。
だからこそ、手数を増やしている。
広範囲へ攻撃をばら撒き、少しでもこちらの動きを制限する。
当たれば儲けもの――そんな感覚なのだろう。
「ちっ!」
迫り来る瓦礫の破片から身を守るため、自分は後退しながら再び火球を構築する。
脱兎跳躍《ラジャスト》で回避する事も考えた。
だが、間に合わない。
この数を避け切る前に被弾する。
なら――迎撃するしかない。
「【火球《フレール》】!」
脳内で強くイメージする。
威力は抑える。
その代わり、規模を広げる。
自分へ降り注ぐ破片を丸ごと飲み込めるほど巨大な火球を。
「ぐっ!?」
放たれた火球は、自分の想像通り大きく膨れ上がった。
燃え盛る巨大な炎の塊が、飛来する瓦礫の破片を次々と呑み込み、焼き砕いていく。