転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第7章ー39

 瓦礫は火球へ触れた瞬間、まるで溶岩の中へ放り込まれたかのように赤く溶け崩れていった。

 

 砕けた破片は次々と焼き尽くされ、巨大化した火球《フレール》もまた、それらを呑み込むたびに徐々に縮小していく。

 

 やがて炎は役目を終えたように掻き消え、あとには熱気だけが残った。

 

 「……」

 

 思わず息を呑む。

 

 ある程度は予想していた。

 

 だが、まさかここまで綺麗に瓦礫を焼き切るとは思っていなかった。

 

 これ――

 

 流石に、人へ向けて撃てる代物じゃない。

 

 「ッ!? そんな事より……!」

 

 自分は慌てて意識を切り替える。

 

 感心している場合ではない。

 

 まだ状況は全く安全ではなかった。

 

 むしろ、今の一撃で自分の手札を見せすぎたまである。

 

 もし再び同じ手で来られたら厄介だ。

 

 だったら、ここで囮役を切り上げ、少しでもゴールへ向かうべきか。

 

 ギリスケも、そろそろ到着していておかしくない頃だ。

 

 役目は十分果たしたはず――

 

 『なんだ。もう撤退か?』

 

 「ッ!?」

 

 声が、近い。

 

 その瞬間、自分の背筋が凍り付いた。

 

 煙の中を突破したコールスタッシュ先生が、いつの間にか目の前まで接近していたのだ。

 

 距離にして、ほんの数十メートル。

 

 「なっ……!?」

 

 魔力感知を外していたとはいえ、ここまで気配を悟れなかったのか?

 

 しかも先生は、脱兎跳躍《ラジャスト》のような高速移動魔法を使った様子もない。

 

 冗談だろ。

 

 「……っ!」

 

 まずい。

 

 ここまで接近されると、下手に魔法を撃てない。

 

 発動の瞬間に回避されたら狙いがブレる。

 

 しかも外せば、大きな隙を晒す事になる。

 

 そうなれば、一気にこちらが不利だ。

 

 ――ここからは読み合い。

 

 相手の行動を先に読んだ方が勝つ。

 

 先生との距離は、およそ五十メートル。

 

 どう動く?

 

 こちらは一度でも触れられたら終わり。

 

 逆に先生は、一度触れるだけで勝ちだ。

 

 だったら、もう一発くらい魔法を撃っても――

 

 『【火球《フレール》】』

 

 「……っ?」

 

 先生が火球を放つ。

 

 だが、その軌道は自分ではない。

 

 火球は、自分の背後にあった建物へ一直線に飛んでいった。

 

 「あっ――しまっ……!」

 

 気付いた時には、もう遅かった。

 

 轟音と共に背後の建物が崩壊する。

 

 大量の瓦礫が大通りへ雪崩れ込むように降り注いだ。

 

 魔法を撃ってくる事自体は予想していた。

 

 だが――

 

 “自分を狙う”という前提でしか考えられていなかった。

 

 後ろの建物を破壊して退路ごと潰す。

 

 そんな発想にまで至っていなかった。

 

 このまま前へ進めば、確実に倒壊へ巻き込まれる。

 

 かといって足を止めれば、その瞬間に先生へ捕まる。

 

 最悪の二択だった。

 

 『ほら。これでしま――』

 

 「くっっっそ!!」

 

 『だっ!?』

 

 自分は咄嗟に脱兎跳躍《ラジャスト》を発動した。

 

 崩壊した建物とは逆方向へ、地面を蹴り飛ばすように跳躍する。

 

 身体が一気に宙へ浮き、先生の手が届く寸前をすり抜けた。

 

 『ちっ!? ぴょんぴょん跳ねやがって! 兎かテメェは!?』

 

 あと一歩。

 

 本当にあと一歩のところで、自分は逃げ切った。

 

 取り逃がした先生は苛立ったように舌打ちを鳴らす。

 

 危なかった。

 

 今のは本気で捕まったと思った。

 

 「はぁ……はぁ……っ、しょうがねぇ。こっからは逃げる!」

 

 『あっ!? おい、逃げんなコラ!?』

 

 着地と同時に、自分は慌てて近くの建物の陰へ飛び込む。

 

 そして、そのままゴールへ向かって走り出した。

 

 ここまで来れば、先生も追い掛けざるを得ない。

 

 流石に、さっきみたいに建物ごと吹き飛ばすような真似はしないだろう。

 

 ……恐らく。

 

 ゴールまで、残り三百メートル弱。

 

 ここまで来たら、絶対に逃げ切ってやる。

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