『ギリスケ・アンドリューズの到着を確認。ギリスケ・アンドリューズ、実技試験合格と見なす』
「……ギリスケのやつ、なんとか着いたみたいだな」
逃走を続ける最中、試験会場に合格のアナウンスが響き渡った。
どうやらギリスケは無事ゴールへ辿り着けたらしい。
ひとまず、自分の役目は果たせたと言っていいだろう。
あとは自分がゴールできれば――
「ッ!?」
そう思った瞬間だった。
何気なく視線を上へ向けた自分は、思わず息を呑む。
建物から建物へ飛び移る人影が見えたのだ。
しかも、その速度が異常だった。
「嘘だろ……?」
周囲の建物は、低く見積もっても四、五十メートル近い高さがある。普通に登るだけでも相当な時間がかかるはずだ。
それを、あの人は軽々と移動している。
まさか、マヒロみたいに壁を駆け上がったのか?
いや、それだけじゃない。
今の移動速度から考えると、先生はマヒロ以上の速さで建物を登り切った事になる。
……いや、待て。
もしかしたら使い魔か何かか?
そう考えた瞬間――
『おいしょっと!』
「ぐっ!?」
その淡い期待は、一瞬で打ち砕かれた。
コールスタッシュ先生本人が、自分の目の前へ飛び降りてきたからだ。
「なっ……!?」
あり得ない。
こちらは脱兎跳躍《ラジャスト》を使いながら全力で走っていた。
それなのに、魔法を使った様子もない相手に先回りされた?
どんな手品を使えば、そんな真似ができるんだ。
『一人は逃がしちまったが……まあいい』
先生は肩を回しながら、ゆっくりとこちらを見る。
その目には、獲物を追い詰めた肉食獣のような光が宿っていた。
『お前だけは、絶対逃がさねぇからな』
「……っ」
ゴールまで残り百メートルちょっと。
あと少しだ。
落ち着け。
まだ終わってない。
たとえ回り込まれたとしても、冷静に動ければ逃げ切るチャンスはある。
幸い、自分のすぐ横には大通りへ抜けられる脇道がある。
ここから一気に大通りへ飛び出し、そのままゴールまで駆け抜ける。
そう決断した自分は、即座に脇道へ向かって走り出した。
『だからよぉ……絶対逃がさねぇって言ってんだろ!』
「ッ!?」
先生は自分の意図を即座に見抜いたらしい。
次の瞬間、建物の壁を蹴り上げるように駆け――
三角飛びで自分の頭上を軽々と飛び越えていった。
「くそっ!」
また先回りされた。
しかも、あまりにも動きが速すぎる。
だったら――
「はあっ!!」
『ん?』
自分も負けじと壁を蹴る。
脱兎跳躍《ラジャスト》を発動し、その勢いのまま三角飛びへ繋げた。
一気に身体が跳ね上がる。
視界が急激に上昇し、気付けば建物の屋上付近にまで到達していた。
先生よりも高く。
これなら流石に――
『だからよぉ……』
「なっ!?」
その確信は、次の瞬間に粉砕された。
コールスタッシュ先生が、自分を追い越したのだ。
たった一回の跳躍で。
しかも――
魔力を使った形跡がない。
詠唱もない。
身体強化の兆候すら見えなかった。
つまり。
今のは純粋な身体能力だけで、自分を上回ったという事になる。
「なんだよ……それ……」
思わず声が漏れる。
人間離れしている。
いや、もはや人間の動きじゃない。
化け物だ。
本気でそう思った。
『絶対逃がさねぇって、何度も言わせんなよなぁ!!』