転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

305 / 352
第7章ー40

 『ギリスケ・アンドリューズの到着を確認。ギリスケ・アンドリューズ、実技試験合格と見なす』

 

 「……ギリスケのやつ、なんとか着いたみたいだな」

 

 逃走を続ける最中、試験会場に合格のアナウンスが響き渡った。

 

 どうやらギリスケは無事ゴールへ辿り着けたらしい。

 

 ひとまず、自分の役目は果たせたと言っていいだろう。

 

 あとは自分がゴールできれば――

 

 「ッ!?」

 

 そう思った瞬間だった。

 

 何気なく視線を上へ向けた自分は、思わず息を呑む。

 

 建物から建物へ飛び移る人影が見えたのだ。

 

 しかも、その速度が異常だった。

 

 「嘘だろ……?」

 

 周囲の建物は、低く見積もっても四、五十メートル近い高さがある。普通に登るだけでも相当な時間がかかるはずだ。

 

 それを、あの人は軽々と移動している。

 

 まさか、マヒロみたいに壁を駆け上がったのか?

 

 いや、それだけじゃない。

 

 今の移動速度から考えると、先生はマヒロ以上の速さで建物を登り切った事になる。

 

 ……いや、待て。

 

 もしかしたら使い魔か何かか?

 

 そう考えた瞬間――

 

 『おいしょっと!』

 

 「ぐっ!?」

 

 その淡い期待は、一瞬で打ち砕かれた。

 

 コールスタッシュ先生本人が、自分の目の前へ飛び降りてきたからだ。

 

 「なっ……!?」

 

 あり得ない。

 

 こちらは脱兎跳躍《ラジャスト》を使いながら全力で走っていた。

 

 それなのに、魔法を使った様子もない相手に先回りされた?

 

 どんな手品を使えば、そんな真似ができるんだ。

 

 『一人は逃がしちまったが……まあいい』

 

 先生は肩を回しながら、ゆっくりとこちらを見る。

 

 その目には、獲物を追い詰めた肉食獣のような光が宿っていた。

 

 『お前だけは、絶対逃がさねぇからな』

 

 「……っ」

 

 ゴールまで残り百メートルちょっと。

 

 あと少しだ。

 

 落ち着け。

 

 まだ終わってない。

 

 たとえ回り込まれたとしても、冷静に動ければ逃げ切るチャンスはある。

 

 幸い、自分のすぐ横には大通りへ抜けられる脇道がある。

 

 ここから一気に大通りへ飛び出し、そのままゴールまで駆け抜ける。

 

 そう決断した自分は、即座に脇道へ向かって走り出した。

 

 『だからよぉ……絶対逃がさねぇって言ってんだろ!』

 

 「ッ!?」

 

 先生は自分の意図を即座に見抜いたらしい。

 

 次の瞬間、建物の壁を蹴り上げるように駆け――

 

 三角飛びで自分の頭上を軽々と飛び越えていった。

 

 「くそっ!」

 

 また先回りされた。

 

 しかも、あまりにも動きが速すぎる。

 

 だったら――

 

 「はあっ!!」

 

 『ん?』

 

 自分も負けじと壁を蹴る。

 

 脱兎跳躍《ラジャスト》を発動し、その勢いのまま三角飛びへ繋げた。

 

 一気に身体が跳ね上がる。

 

 視界が急激に上昇し、気付けば建物の屋上付近にまで到達していた。

 

 先生よりも高く。

 

 これなら流石に――

 

 『だからよぉ……』

 

 「なっ!?」

 

 その確信は、次の瞬間に粉砕された。

 

 コールスタッシュ先生が、自分を追い越したのだ。

 

 たった一回の跳躍で。

 

 しかも――

 

 魔力を使った形跡がない。

 

 詠唱もない。

 

 身体強化の兆候すら見えなかった。

 

 つまり。

 

 今のは純粋な身体能力だけで、自分を上回ったという事になる。

 

 「なんだよ……それ……」

 

 思わず声が漏れる。

 

 人間離れしている。

 

 いや、もはや人間の動きじゃない。

 

 化け物だ。

 

 本気でそう思った。

 

 『絶対逃がさねぇって、何度も言わせんなよなぁ!!』

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。