先生の手が、頭上から迫ってくる。
触れられたら終わりだ。
ここで捕まれば、自分の試験は終了する。
「【火球《フレール》】!」
瞬時に、自分は右側の建物へ向かって火球を放った。
狙いは先生ではない。
建物そのものだ。
轟音と共に壁面が爆ぜ、巨大な瓦礫が崩れ落ちる。
その崩壊に巻き込まれる形で、瓦礫が頭上にいたコールスタッシュ先生へと降り注いだ。
『ちっ!?』
先生は咄嗟に腕を交差し、防御姿勢を取る。
だが、空中では踏ん張りが利かない。
瓦礫の直撃を受けた先生の身体は、そのまま左側へ吹き飛ばされていった。
「……っ!」
流石に致命傷までは与えられていないだろう。
あの人が、あの程度で倒れるとは思えない。
それでも、時間稼ぎにはなった。
少なくとも、あのまま掴まれて終わる最悪の展開だけは回避できた。
「はぁ……はぁ……っ」
着地した自分は即座に後退する。
崩れた建物が連鎖的に倒壊を始めていた。
巻き込まれる前に離脱しなければならない。
そう判断した自分は、結局そのまま裏通りを使ってゴールへ向かう事にした。
今さら大通りへ戻るのは危険すぎる。
それに、先生の足止めには成功している。
ならば今こそ、ゴールまで距離を稼ぐ最大のチャンス。
一秒たりとも無駄にはできない。
少しでも前へ――
『ったく……あとちょっとだってのによぉぉぉ!!』
「ッ!?」
その考えは、次の瞬間に叩き壊された。
壁へ吹き飛ばされていたはずの先生が、半ばヤケクソのように炎魔法を放ったのだ。
だが――
今までとは威力が違う。
比較にならない。
放たれた炎は一直線に建物を貫通し、そのまま次々と壁や柱を溶かしながら突き進んでいく。
まるで巨大なレーザービームだった。
「くそっ!!」
先生の魔法によって、自分の進行方向にあった建物群が次々と崩壊していく。
まずい。
逃げ場が消える。
このままでは瓦礫の山に押し潰される。
「爆ぜる焔よ。火《か》の球《きゅう》として聚合《しゅうごう》し、眼前に映りし標的へ猛る一投を撃ちかけん――【火球《フレール》】!!」
自分は即座に詠唱を紡ぎ、頭上へ火球を放つ。
威力は八割。
軽傷くらいは覚悟する。
だが、ここで瓦礫に潰されるよりは遥かにマシだった。
「う゛っ!?」
火球は頭上へ降り注ぐ瓦礫を吹き飛ばし、なんとか致命的な直撃を防いだ。
だが、完全には防ぎ切れない。
砕け散った破片のいくつかが頬を掠め、足へ突き刺さる。
鋭い痛みが走った。
先程のように瓦礫そのものを溶かせれば理想だった。
だが、流石にこの量を完全処理する余裕はない。
……まあ、この程度ならまだ動ける。
問題はそこじゃない。
「なんなんだよ……あの威力……」
思わず呟く。
あんなものをまともに食らったら、一溜まりもない。
いや、それどころか――
骨すら残らない気がした。
あれがコールスタッシュ先生の本気なのか?
もしそうだとしたら、自分は想像以上に危険な相手と戦っている事になる。
『ふぅ……スッキリした』
「……」
その声に振り返る。
先生は、崩壊した建物の奥からゆっくりと歩いてきていた。
どこか爽やかですらある表情。
……いや待て。
まさかとは思うが、今の攻撃、ストレス発散で撃ったのか?
危うく生徒一人消し飛ぶところだったんだぞ。
『さて――』
先生は肩を鳴らしながら、自分へ視線を向ける。
『これでもう、小細工は使えねぇぞ』
低い声が響く。
逃げ場を失った裏通り。
崩壊した建物の残骸。
そして、真正面から迫る教師。
『そろそろ終わりにしようや、レールステン』