転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第7章ー42

 「ッ!? まさか……そのために?」

 

 自分は思わず目を見開いた。

 

 てっきり、さっきの大技は単なる憂さ晴らしかと思っていた。

 

 だが違う。

 

 コールスタッシュ先生の本当の狙いは、自分が建物を利用できない状況へ追い込む事だったのだ。

 

 建物を破壊し尽くす事で、隠れる場所を消す。

 

 足場を奪う。

 

 そして、自分のように地形や障害物を利用して立ち回るタイプを、真正面から戦わざるを得ない状況へ持ち込む。

 

 つまり――

 

 自分の“逃げ道”そのものを潰したのだ。

 

 「……」

 

 そこまで計算していたとは。

 

 正直、見くびっていた。

 

 伊達に魔法学園の教師を務めているわけではないらしい。

 

 ……できれば普段から、もう少しその有能さを発揮してほしいところだが。

 

 『お前の魔法の才能と、危機的状況を切り抜ける判断力は素直に評価してるぜ』

 

 先生はゆっくりとこちらへ歩み寄りながら言葉を続ける。

 

 『だがな――今のお前は、まだ中途半端だ』

 

 「……」

 

 『圧倒的な実力差がある相手には、そんな小細工、一切通用しなくなる』

 

 その言葉に、自分は何も返せなかった。

 

 ……図星だったからだ。

 

 今の自分は、小細工や地形利用を駆使して、ようやく格上相手に食らいつけているだけ。

 

 マヒロみたいな純粋な戦闘力はない。

 

 真正面から突破する方法なんて、自分には思いつかない。

 

 「……そうですね。でも」

 

 『あん?』

 

 自分は息を整え、先生を真っ直ぐ見据えた。

 

 「俺なりのやり方で、この状況――切り抜けてみせますよ!」

 

 たとえ未熟でも。

 

 たとえ正面から勝てなくても。

 

 自分には自分の戦い方がある。

 

 それを、ここで証明する。

 

 『ほぉ?』

 

 先生の口元がニヤリと歪む。

 

 『大した自信じゃねぇか。なら見せてみろよ――テメェのやり方ってやつをなぁ!!』

 

 次の瞬間、先生が地面を蹴った。

 

 一気に距離を詰めてくる。

 

 速い。

 

 この速度では、普通に火球《フレール》を撃っても避けられる可能性が高い。

 

 いや――

 

 向こうは、それすら想定済みだろう。

 

 もし回避されたら、その瞬間に距離を詰められて終わる。

 

 だったら――

 

 「爆ぜる焔よ。火《か》の球《きゅう》として聚合《しゅうごう》し、眼前に映りし標的へ猛る一投を撃ちかけん――【火球《フレール》】!」

 

 『ッ!?』

 

 自分は先生ではなく、地面へ向かって火球を放った。

 

 同時に脱兎跳躍《ラジャスト》を発動。

 

 火球の爆発を利用し、その反動で後方へ跳躍する。

 

 轟音と共に身体が一気に押し出され、通常より遥か遠くまで飛び退く事に成功した。

 

 「っ……!」

 

 距離が一気に開く。

 

 ゴールまでもう目前だ。

 

 あと少し――本当にあと一歩。

 

 『ちっ! 逃がすか!!』

 

 目の前で爆発を起こされた事で、先生の動きが一瞬止まる。

 

 だが、さすがに立て直しも早い。

 

 即座に魔法を構築し、自分を足止めしようとしてくる。

 

 『【火球《フレール》】!』

 

 「【火球《フレール》】!」

 

 それを察知した自分も、ほぼ同時に火球を放つ。

 

 二つの火球が空中で激突した。

 

 「くっ!?」

 

 『う゛っ!?』

 

 衝突によって爆風が発生する。

 

 自分の身体は後方へ吹き飛ばされ、そのまま地面を転がるように一回転した。

 

 背中に鈍い痛みが走る。

 

 だが――

 

 結果的には、それすら追い風になった。

 

 爆風によって、自分はさらにゴールへ近づいていたのだ。

 

 「……っ、よし! あともうちょい!」

 

 残り距離、およそ二十メートル。

 

 ここまで来れば、多少無理やりでも走り切れる。

 

 そう思った、その瞬間。

 

 『行かせん!!』

 

 「ッ!?」

 

 先生が再び魔法を構築していた。

 

 だが――

 

 今までとは違う。

 

 嫌な予感がする。

 

 脳裏に浮かぶのは、先程建物を貫通しながら消し飛ばした、あの異常火力の炎魔法。

 

 まさか。

 

 あれを撃つ気か?

 

 そこまでして、自分をゴールさせないつもりなのか。

 

 「どうする……?」

 

 避けるか?

 

 だが、先生はそれすら読んでいるはずだ。

 

 回避した瞬間、一気に距離を詰めて捕まえに来る。

 

 とはいえ、回避しなければ確実に死ぬ。

 

 最初から、避ける以外の選択肢なんて――

 

 「……いや、待てよ」

 

 その時だった。

 

 絶望しかけた頭の中に、もう一つの可能性が浮かび上がる。

 

 かなり危険な賭けだ。

 

 失敗すれば終わる。

 

 だが――

 

 成功すれば、自分の勝ちだ。

 

 そのもう一つの選択肢。

 

 それは――

 

 先生の魔法そのものを、阻止する事だった。

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