「ッ!? まさか……そのために?」
自分は思わず目を見開いた。
てっきり、さっきの大技は単なる憂さ晴らしかと思っていた。
だが違う。
コールスタッシュ先生の本当の狙いは、自分が建物を利用できない状況へ追い込む事だったのだ。
建物を破壊し尽くす事で、隠れる場所を消す。
足場を奪う。
そして、自分のように地形や障害物を利用して立ち回るタイプを、真正面から戦わざるを得ない状況へ持ち込む。
つまり――
自分の“逃げ道”そのものを潰したのだ。
「……」
そこまで計算していたとは。
正直、見くびっていた。
伊達に魔法学園の教師を務めているわけではないらしい。
……できれば普段から、もう少しその有能さを発揮してほしいところだが。
『お前の魔法の才能と、危機的状況を切り抜ける判断力は素直に評価してるぜ』
先生はゆっくりとこちらへ歩み寄りながら言葉を続ける。
『だがな――今のお前は、まだ中途半端だ』
「……」
『圧倒的な実力差がある相手には、そんな小細工、一切通用しなくなる』
その言葉に、自分は何も返せなかった。
……図星だったからだ。
今の自分は、小細工や地形利用を駆使して、ようやく格上相手に食らいつけているだけ。
マヒロみたいな純粋な戦闘力はない。
真正面から突破する方法なんて、自分には思いつかない。
「……そうですね。でも」
『あん?』
自分は息を整え、先生を真っ直ぐ見据えた。
「俺なりのやり方で、この状況――切り抜けてみせますよ!」
たとえ未熟でも。
たとえ正面から勝てなくても。
自分には自分の戦い方がある。
それを、ここで証明する。
『ほぉ?』
先生の口元がニヤリと歪む。
『大した自信じゃねぇか。なら見せてみろよ――テメェのやり方ってやつをなぁ!!』
次の瞬間、先生が地面を蹴った。
一気に距離を詰めてくる。
速い。
この速度では、普通に火球《フレール》を撃っても避けられる可能性が高い。
いや――
向こうは、それすら想定済みだろう。
もし回避されたら、その瞬間に距離を詰められて終わる。
だったら――
「爆ぜる焔よ。火《か》の球《きゅう》として聚合《しゅうごう》し、眼前に映りし標的へ猛る一投を撃ちかけん――【火球《フレール》】!」
『ッ!?』
自分は先生ではなく、地面へ向かって火球を放った。
同時に脱兎跳躍《ラジャスト》を発動。
火球の爆発を利用し、その反動で後方へ跳躍する。
轟音と共に身体が一気に押し出され、通常より遥か遠くまで飛び退く事に成功した。
「っ……!」
距離が一気に開く。
ゴールまでもう目前だ。
あと少し――本当にあと一歩。
『ちっ! 逃がすか!!』
目の前で爆発を起こされた事で、先生の動きが一瞬止まる。
だが、さすがに立て直しも早い。
即座に魔法を構築し、自分を足止めしようとしてくる。
『【火球《フレール》】!』
「【火球《フレール》】!」
それを察知した自分も、ほぼ同時に火球を放つ。
二つの火球が空中で激突した。
「くっ!?」
『う゛っ!?』
衝突によって爆風が発生する。
自分の身体は後方へ吹き飛ばされ、そのまま地面を転がるように一回転した。
背中に鈍い痛みが走る。
だが――
結果的には、それすら追い風になった。
爆風によって、自分はさらにゴールへ近づいていたのだ。
「……っ、よし! あともうちょい!」
残り距離、およそ二十メートル。
ここまで来れば、多少無理やりでも走り切れる。
そう思った、その瞬間。
『行かせん!!』
「ッ!?」
先生が再び魔法を構築していた。
だが――
今までとは違う。
嫌な予感がする。
脳裏に浮かぶのは、先程建物を貫通しながら消し飛ばした、あの異常火力の炎魔法。
まさか。
あれを撃つ気か?
そこまでして、自分をゴールさせないつもりなのか。
「どうする……?」
避けるか?
だが、先生はそれすら読んでいるはずだ。
回避した瞬間、一気に距離を詰めて捕まえに来る。
とはいえ、回避しなければ確実に死ぬ。
最初から、避ける以外の選択肢なんて――
「……いや、待てよ」
その時だった。
絶望しかけた頭の中に、もう一つの可能性が浮かび上がる。
かなり危険な賭けだ。
失敗すれば終わる。
だが――
成功すれば、自分の勝ちだ。
そのもう一つの選択肢。
それは――
先生の魔法そのものを、阻止する事だった。