先生の魔法を阻止する。
一見すると単純な方法に思える。
だが、実際はそんな甘い話ではない。
こちらが先に火球《フレール》を撃ったとしても、向こうは間違いなくそのタイミングに合わせて撃ち返してくるだろう。
それでは駄目だ。
火力も速度も、先生の方が上。
真正面から撃ち合えば、押し負けるのは目に見えている。
そもそも、向こうは既にこちらの動きを読んだ上で構えている。
いつでも魔法を撃てるよう、自分の挙動をじっと観察しているのだ。
そんな状況で攻撃魔法を使っても、後手に回っている時点で阻止など不可能に近い。
……まあ、流石に先生も殺さない程度には威力を抑えてくるだろう。
だが、まともに食らえば軽傷では済まない。
最悪、戦闘続行不能になる。
「……」
あの魔法を発動させないためには、攻撃以外の方法で崩さなければならない。
とはいえ、自分の手札は多くない。
炎魔法。
光魔法。
それに脱兎跳躍《ラジャスト》と部分魔力強化《パージング》。
使える可能性があるとすれば、光魔法ぐらいか。
だが――
そもそも、先生が目くらまし対策をしていないとも考えにくい。
「くそ……」
先生はあれから動いていない。
だが、それが逆に不気味だった。
恐らく、自分の出方を待っているのだろう。
避けるのか。
撃つのか。
どちらを選んでも対応できるよう、敢えて距離を詰めてこない。
先ほどまでの強引な攻め方とは打って変わり、異様なほど冷静だった。
……紙一重で何度も逃げられたせいで、慎重になっているのかもしれない。
そう考えると、少しだけ嬉しいような、嬉しくないような、妙な気分になる。
だが、感傷に浸っている場合ではない。
問題はここからどう突破するかだ。
単なる目くらましでは意味がない。
向こうが対応できないレベルの“何か”がなければ、この状況は覆せない。
『……どうした?』
先生が口元を歪める。
『切り抜けるんじゃなかったのか? せっかく待ってやってんだ。ほら、見せてみろよ』
「……」
それを聞き、自分は無言のまま先生を睨み返す。
煽っている。
半分は本気で、半分は試しているのだろう。
だが、こちらが動けば間違いなく撃ってくる。
そんな確信があった。
とはいえ――
いつまでも睨み合いを続けるわけにはいかない。
このまま時間を浪費すれば、試験側から制限を追加される可能性だってある。
それに、集中力も体力も永遠には持たない。
先に消耗した方が負ける。
早く突破口を見つけなければ。
『お知らせです』
その時、無機質なアナウンスが試験会場に響いた。
『第四試合が長引いているため、残り一分以内に目的地へ到達できなかった場合、サダメ・レールステンは強制失格とみなします。ご注意ください』
「ッ!?」
思わず顔が引き攣る。
……やはり来たか。
当然と言えば当然だ。
試験をいつまでも続けさせるわけにはいかない。
残り一分。
ゴールまでの距離だけなら、全力で走れば十秒も掛からない。
だが、“先生を突破する”という条件が加わるだけで、その十秒が途方もなく遠く感じる。
『さて』
先生がニヤリと笑う。
『呆けてる時間はねーぞ。どうする?』
「……」
追い打ちを掛けるような挑発。
しかも、どこか楽しそうですらある。
この人、絶対こういう状況好きだろ。
「……しょうがねぇ」
自分は小さく息を吐いた。
『あん?』
「こうなったら――試してみるしかないか」
時間はもう残り僅か。
確実に突破できる策も思いつかない。
なら、あとは賭けるしかない。
成功する保証なんてない。
むしろ失敗する可能性の方が高いだろう。
だが――
今の自分にできる事は、それしかなかった。
自分は静かに右手を構える。
脳裏に浮かぶのは、まだ一度も成功した事のない魔法。
未完成。
不安定。
だが、この状況を覆せる可能性があるとしたら、それしかない。
――新しい魔法を、ここで完成させる。