「スゥ――――、ハァ―――――」
一度深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。流石に、この程度で向こうが手を出してくることはないだろう。まあ、先生からすれば、あと一分待ち続ければ勝てるのだから、無理に攻める必要もないのだろうが。
――新しい魔法。
自主練では何度か試したことがある。しかし、反動が少々怖く、満足のいく成果は得られていなかった。だからこそ、本気で使うには覚悟がいる。だが、今は手段を選んでいる場合ではない。どのみち、いつかは試さなければならない魔法だ。
相手は先生。そう考えれば、ある意味これ以上ない実験相手とも言えた。
「燃ゆる太陽の光源よ。我が手に宿り、絶望の闇へ光明を照らせ――」
『ッ!? おい、お前、何を――』
先生に手の内を悟られないよう、小声で詠唱を紡ぐ。そして地面へ叩きつけるように、右拳を振りかざした。
これには流石のコールスタッシュ先生も困惑したらしい。まるで意味不明な行動に見えたのだろう。警戒していた構えを崩し、怪訝そうにこちらを見る。
だが、自分は構わず魔法を解き放った。
「【
『な――――ッ!?』
叫ぶと同時に、光を纏った右拳を地面へ叩き込む。
その瞬間。
地面すれすれで炸裂した光が、まるで太陽そのもののような閃光を放った。
目を閉じていてなお瞼を貫いてくるほどの強烈な白光。同時に、耳を劈《つんざ》くような甲高い金切り音が大音量で響き渡る。
『ぐあぁっ!?』
「ぐっ……!?」
あまりの光と轟音に、先生が悲鳴を上げた。
だが、それは自分も同じだった。左手で必死に耳を押さえ、少しでも被害を抑えようとする。もっとも、発生源にいる以上、完全に防げるはずもない。
視界は真っ白に焼き潰され、鼓膜を直接削られているかのような金切り音が脳を揺さぶる。
特に音が酷い。
まるで本気で鼓膜を破壊しにきているような威力だった。
『あ゛あ゛っ!? くそっ、うるせぇぇぇ!!』
魔法そのものは一瞬で終わり、右手の光も既に消えていた。だが、目の奥では未だに残光がチカチカと暴れ回り、耳の中では甲高い音が鳴り止まない。
右耳に至っては、ほとんど何も聞こえなかった。
――いや、これ、本当に鼓膜やってないか?
そんな不安が脳裏を過る。
それでも、先生の悶えている声だけはぼんやりと聞こえてきた。どうやら、向こうも耳を完全には防げなかったらしい。
「はぁ……っ、はぁ……っ、と、とりあえず……今のうちに……!」
ふらつく足を無理矢理動かし、ゴールを目指す。
視界は涙で滲み、光の残滓が邪魔をする。耳鳴りは止まらず、平衡感覚すら怪しい。それでも、辛うじてゴールの位置だけは視認できていた。
一歩。
また一歩。
まともに走ることすらできず、転びそうになりながら前へ進む。
『レ、レールステン……! テメェ、何てことしやがる!? くそっ、まだ耳の中がうるせぇ……!』
背後では、未だ先生が悪態を吐いていた。どうやら完全に無力化とまではいかなかったらしい。流石は教師というべきか。
だが、それでも足止めには十分だった。
自分は先生を振り返ることなく、ただ前だけを見据える。
そして――。
「っ……はぁ……!」
よろめきながらも、ついにゴールへと辿り着いた。
『サダメ・レールステンの到着を確認。これにて第四試合を終了とする』
無機質なアナウンスが、静かに響き渡る。
その瞬間、自分は全身から力が抜け、その場に膝をついた。耳鳴りはまだ酷い。視界もまともじゃない。けれど、それでも分かった。
――勝った。
いや、正確には違う。
これは勝敗を決める試験ではない。
だから結果としては――。
第四試合、両者合格。
そういう形で幕を閉じたのだった。