「はぁ……はぁ……」
サダメが、今にも倒れそうな足取りでゴール地点へ辿り着いた。
肩で荒く息をし、身体はふらつき、まともに立っていることすら辛そうだ。その姿を見た瞬間、私はもう居ても立ってもいられなくなった。
気づけば待機場所を飛び出し、彼の元へ駆け出していた。
「サダメぇ!!」
「はぁ……はぁ……ミ、オ……?」
息を切らしながら、サダメがゆっくりとこちらへ顔を向ける。
その顔を見た瞬間、私は息を呑んだ。
彼は薄く目を開けたまま涙を流し、異様なほど速い間隔で瞬きを繰り返していた。視線もどこか定まっていない。
――まさか、あの魔法のせいで……?
自分自身が発生源だった以上、反動をまともに受けていても不思議ではない。あれほどの閃光と轟音だ。むしろ無傷で済む方がおかしい。
「サダメ、大丈夫!? ほら、歩ける?」
よろめいた彼の身体を慌てて支え、そのまま肩に腕を回させる。今の彼が重傷なのは、一目見れば分かった。
早く別室へ連れて行って、治療班に診せなければ。
マヒロ達がいる救護室なら、きっとすぐに対応してもらえる。
「……ミ、オ?」
「ん? どうしたの?」
「……ミ、オ? 聞こえてる、か?」
「え? うん、聞こえてるよ?」
「ミ、オ……? 本当に、聞こえてるのか……?」
「……サダメ?」
何度も繰り返される同じ問いに、私は違和感を覚えた。
どうも様子がおかしい。
こちらの返事が聞こえていないみたいに、サダメは同じ確認を繰り返している。
そして、その時。
私は彼の右耳から血が流れていることに気づいた。
「っ……!?」
鼓膜が破れてる……!?
おそらく、あの魔法の轟音による影響だ。あれだけの音を至近距離で受ければ、そうなってもおかしくはない。
しかも、目までまともに見えていない様子だった。
これは思っていた以上に危険な状態かもしれない。
「サダメ、喋らなくていいから! 今すぐ連れて行くからね!」
私は彼を支え直し、急ぐように救護室へ向かった。
◇ ◇ ◇
「……こりゃあ酷いな」
救護室へ辿り着くなり、治療班の人達がすぐにサダメを診察台へ運び込んだ。
私は指示されるまま、マヒロの隣に空いていたベッドへ彼を寝かせる。すると治療班の人達は慌ただしく検査を始め、その途中で思わずそんな言葉を漏らした。
やっぱり、かなり深刻な状態なんだ……。
「ぁ、あの……サダメは、大丈夫なんですか……?」
不安を抑えきれず、私は恐る恐る問いかけた。
右耳からの出血。まともに開けられない目。冷や汗で濡れた顔色。
見れば見るほど、無事とは思えなかった。
もしこのまま視力を失ったりしたら――。
そんな最悪の想像が頭をよぎり、胸が締め付けられる。
しかし、治療班の男性は落ち着いた様子で答えた。
「んー、まあ色々やっちゃってるけど、命に別状はないよ。完全に失明してるわけじゃないし、鼓膜も破れてるだけなら自然治癒する。ちゃんと治療すれば後遺症も残らないだろうさ」
「ほ、本当ですか……?」
「ああ。ただ、一歩間違ってたら目は本格的にやられてただろうな。かなり危ない魔法だよ、あれ」
「……っ」
その言葉に、私は思わず唇を噛んだ。
サダメは、自分が傷つく危険を承知であの魔法を使ったのだ。
勝つために。
試験を突破するために。
でも――。
それでも、無事でいてくれて本当によかった。
「……ありがとうございます」
安堵から全身の力が抜けそうになりながら、私は深く頭を下げた。
治療班の人は軽く手を振りながら言う。
「ほら、君もまだ試験残ってるんだろ? ここは俺達に任せて、早く戻りな」
「あっ……は、はい!」
そうだった。
安心している場合じゃない。
サダメは命懸けで試験を突破したんだ。
なら、次は私の番。
私はもう一度だけ眠るように横たわるサダメの顔を見つめ、小さく拳を握る。
――サダメも受かった。
残るは、私だけ。
この試験、絶対に合格しなくちゃいけない。