転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第7章ー45

 「はぁ……はぁ……」

 

 サダメが、今にも倒れそうな足取りでゴール地点へ辿り着いた。

 

 肩で荒く息をし、身体はふらつき、まともに立っていることすら辛そうだ。その姿を見た瞬間、私はもう居ても立ってもいられなくなった。

 

 気づけば待機場所を飛び出し、彼の元へ駆け出していた。

 

 「サダメぇ!!」

 

 「はぁ……はぁ……ミ、オ……?」

 

 息を切らしながら、サダメがゆっくりとこちらへ顔を向ける。

 

 その顔を見た瞬間、私は息を呑んだ。

 

 彼は薄く目を開けたまま涙を流し、異様なほど速い間隔で瞬きを繰り返していた。視線もどこか定まっていない。

 

 ――まさか、あの魔法のせいで……?

 

 自分自身が発生源だった以上、反動をまともに受けていても不思議ではない。あれほどの閃光と轟音だ。むしろ無傷で済む方がおかしい。

 

 「サダメ、大丈夫!? ほら、歩ける?」

 

 よろめいた彼の身体を慌てて支え、そのまま肩に腕を回させる。今の彼が重傷なのは、一目見れば分かった。

 

 早く別室へ連れて行って、治療班に診せなければ。

 

 マヒロ達がいる救護室なら、きっとすぐに対応してもらえる。

 

 「……ミ、オ?」

 

 「ん? どうしたの?」

 

 「……ミ、オ? 聞こえてる、か?」

 

 「え? うん、聞こえてるよ?」

 

 「ミ、オ……? 本当に、聞こえてるのか……?」

 

 「……サダメ?」

 

 何度も繰り返される同じ問いに、私は違和感を覚えた。

 

 どうも様子がおかしい。

 

 こちらの返事が聞こえていないみたいに、サダメは同じ確認を繰り返している。

 

 そして、その時。

 

 私は彼の右耳から血が流れていることに気づいた。

 

 「っ……!?」

 

 鼓膜が破れてる……!?

 

 おそらく、あの魔法の轟音による影響だ。あれだけの音を至近距離で受ければ、そうなってもおかしくはない。

 

 しかも、目までまともに見えていない様子だった。

 

 これは思っていた以上に危険な状態かもしれない。

 

 「サダメ、喋らなくていいから! 今すぐ連れて行くからね!」

 

 私は彼を支え直し、急ぐように救護室へ向かった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 「……こりゃあ酷いな」

 

 救護室へ辿り着くなり、治療班の人達がすぐにサダメを診察台へ運び込んだ。

 

 私は指示されるまま、マヒロの隣に空いていたベッドへ彼を寝かせる。すると治療班の人達は慌ただしく検査を始め、その途中で思わずそんな言葉を漏らした。

 

 やっぱり、かなり深刻な状態なんだ……。

 

 「ぁ、あの……サダメは、大丈夫なんですか……?」

 

 不安を抑えきれず、私は恐る恐る問いかけた。

 

 右耳からの出血。まともに開けられない目。冷や汗で濡れた顔色。

 

 見れば見るほど、無事とは思えなかった。

 

 もしこのまま視力を失ったりしたら――。

 

 そんな最悪の想像が頭をよぎり、胸が締め付けられる。

 

 しかし、治療班の男性は落ち着いた様子で答えた。

 

 「んー、まあ色々やっちゃってるけど、命に別状はないよ。完全に失明してるわけじゃないし、鼓膜も破れてるだけなら自然治癒する。ちゃんと治療すれば後遺症も残らないだろうさ」

 

 「ほ、本当ですか……?」

 

 「ああ。ただ、一歩間違ってたら目は本格的にやられてただろうな。かなり危ない魔法だよ、あれ」

 

 「……っ」

 

 その言葉に、私は思わず唇を噛んだ。

 

 サダメは、自分が傷つく危険を承知であの魔法を使ったのだ。

 

 勝つために。

 

 試験を突破するために。

 

 でも――。

 

 それでも、無事でいてくれて本当によかった。

 

 「……ありがとうございます」

 

 安堵から全身の力が抜けそうになりながら、私は深く頭を下げた。

 

 治療班の人は軽く手を振りながら言う。

 

 「ほら、君もまだ試験残ってるんだろ? ここは俺達に任せて、早く戻りな」

 

 「あっ……は、はい!」

 

 そうだった。

 

 安心している場合じゃない。

 

 サダメは命懸けで試験を突破したんだ。

 

 なら、次は私の番。

 

 私はもう一度だけ眠るように横たわるサダメの顔を見つめ、小さく拳を握る。

 

 ――サダメも受かった。

 

 残るは、私だけ。

 

 この試験、絶対に合格しなくちゃいけない。

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