「……」
「……うそ」
思わず、そんな声が漏れた。
これは完全に想定外だった。
いや、戦力面だけで見れば間違いなく“当たり”だ。むしろ最高クラスと言っていい。
けれど――問題はそこじゃない。
アラガは、入学初日にサダメ達と衝突していた人物だ。
あの時の険悪な空気は今でもはっきり覚えている。まあ、向こうが私個人をどう思っているかまでは分からないけれど。
それでも、私にとっては一番組みたくない相手だった。
だって彼、いつも人を見下しているみたいな目をしているんだもの。
冷たくて、鋭くて、近寄り難い。
とてもじゃないけど、「一緒に頑張ろう」なんて言い合えるタイプには見えない。
絶対に無理。
普段の彼を見ていても、誰かとつるむ気配なんて全く感じない。
いつも一人。
誰かが話しかけようとしても、近寄るなと言わんばかりの空気を纏っている。
孤独を好んでいるのか。
それとも、単純に私達を見下しているのか。
どちらにせよ、協力関係を築くには不安要素が大きすぎた。
「さて、お次は鬼役の方だけれど……」
そんな不安を抱える中、ライラック先生が次の抽選へ移っていた。
残る問題は、鬼役が誰になるか。
現状、ライラック先生は強力な使い魔を使えない状態。
コールスタッシュ先生も、目と耳をやられて本調子ではない。
もし当たるなら、この二人が一番いい。
逆に、最悪なのは――。
リーフ理事長。
そして、まだ一度も出番が回ってきていないキリヤ・オーヴェン先生。
理事長は未だ余力を残していそうだったし、オーヴェン先生に至っては体力を完全に持て余している。
あの二人だけは駄目。
当たった瞬間、難易度が一気に跳ね上がる。
だからお願い。
せめて、あの二人だけは――。
「……鬼役は、キリヤ・オーヴェン先生。お願いします」
「……えぇ?」
思わず、情けない声が漏れた。
希望は儚く散った。
よりにもよって、最悪中の最悪。
私はその場で崩れ落ちそうになる。
「おお? やっと私の番かよ」
対照的に、オーヴェン先生は実に楽しそうだった。
「ったく、出番なさすぎて身体が錆びちまうかと思ったぜ」
そう言いながら、地面に座っていた先生は勢いよく立ち上がる。
そして肩をぐるぐると回しながら、まるで待ちに待った遊びの時間でも始まるかのように笑っていた。
……気のせいじゃない。
あの人、絶対テンション上がってる。
むしろ、かなり上機嫌に見えるんだけど。
「一応言っておきますけど、試験なんで加減はしてくださいよ?」
そんなオーヴェン先生へ、ライラック先生が苦笑混じりに忠告を入れる。
一見すると冗談っぽい言い方だった。
けれど、その表情にはどこか本気の心配が滲んでいた。
……ちょっと待って。
先生が“忠告”するレベルってことは、この人、本当に危険なんじゃ……?
「ぁ……」
背筋に冷たいものが走る。
だが、そんなこちらの不安など知ったことかと言わんばかりに、オーヴェン先生は豪快に笑った。
「はははっ! 安心しろって!」
先生は手をひらひらと振りながら続ける。
「流石に私も、手心くらい加えてやるよ!」
……全然安心できない。
というか、その台詞をこの人が言うと逆に怖い。
そんなことを思っていると。
オーヴェン先生が、ドスドスとこちらへ歩いてきた。
「ってなわけで、お前ら!」
「ッ!? は、はいっ!?」
気づけば、私達の目の前で仁王立ちしていた。
近い。
というか圧が凄い。
立っているだけなのに、まるで巨大な猛獣に睨まれているみたいだった。
空気が重い。
威圧感だけで呼吸が苦しくなる。
私は思わず身体を強張らせた。
一体、何を言うつもりなんだろう。
そんな恐怖混じりの緊張の中――。
「ぶっ殺さねー程度にぶっ殺してやるから、精々頑張れよォ!!」