転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第7章ー49

 「……」

 

 「……」

 

 まもなく試合開始。

 

 にもかかわらず、私達の間には一言の会話もなかった。

 

 気まずい。

 

 というか、重い。空気が重すぎる。

 

 本当なら、開始前に作戦を立てるべきなんだと思う。どちらが前に出るのか、どうやって逃げるのか、何かあった時はどう動くのか――。最低限、それくらいは話し合っておかないといけないはずだ。

 

 けれど、相手がアラガとなると話は別だった。

 

 そもそも、ものすごく話しかけづらい。

 

 近寄るだけで空気が冷えるというか、下手に声を掛けたら「黙れ」と言われそうな威圧感がある。

 

 でも――。

 

 このままじゃ駄目だ。

 

 試験を突破するには、彼の力が絶対に必要になる。

 

 向こうから話しかけてくる可能性なんて、まずない。なら、自分から動かなきゃいけない。

 

 せめて、どっちへ向かうかだけでも確認しないと――。

 

 『それでは第六試合、開始!』

 

 「っ!?」

 

 その瞬間、開始のアナウンスが響き渡った。

 

 しまった。

 

 完全に出遅れた。

 

 けれど、まだ間に合う。

 

 走りながらでも話し合いくらいはできるはず。

 

 そう判断した私は、意を決して口を開いた。

 

 「あ、あの!」

 

 正直、怖い。

 

 でも今はそんなことを言っている場合じゃない。

 

 これは試験。

 

 合格するためだと思えば、多少睨まれるくらい――。

 

 「……邪魔だ」

 

 「……え?」

 

 返ってきたのは、想像以上に冷たい一言だった。

 

 しかも、彼は一度もこちらを見ようとしない。

 

 まるで最初から、会話する価値すらないと言わんばかりだった。

 

 「滑れ――【氷結滑走(アイス・グライ)】」

 

 次の瞬間。

 

 アラガの足元に氷が走った。

 

 「きゃっ!?」

 

 突然広がった冷気に、私は思わずバランスを崩しかける。

 

 アラガは氷の板を生成し、その上を滑るように高速移動していた。

 

 まるで雪山を滑降するスケーターみたいに、地面を滑り抜けていく。

 

 速度自体はマヒロほどではない。

 

 けれど、厄介なのはその“後”だった。

 

 彼が通った道には氷の床が残り続け、地面そのものが滑りやすく変化していく。

 

 不用意に追いかければ転倒しかねない。

 

 実際、近くにいた私は危うく足を滑らせるところだった。

 

 ――ただ速く移動してるわけじゃない。

 

 私は思わず目を見開く。

 

 追跡妨害まで同時にやっているんだ。

 

 敵に追いつかれないよう、ちゃんと後の展開まで考えて魔法を使っている。

 

 流石はクラストップクラス。

 

 魔法の扱いに一切無駄がない。

 

 「……って、感心してる場合じゃなかった!」

 

 ハッと我に返る。

 

 今の私は、完全に置いていかれている状態だった。

 

 このままじゃ話し合いどころか、試験開始早々一人になる。

 

 慌てて私は魔力を練り上げた。

 

 「運べ、上風《うわかぜ》よ――【風足の運び屋(ウィンド・キャリー)】!」

 

 足元に小さな旋風が生まれる。

 

 ふわりと身体が浮き上がり、私はそのまま地面すれすれを滑空した。

 

 【風足の運び屋】。

 

 小規模な竜巻を発生させ、人や物を浮かせながら移動させる風魔法だ。

 

 授業で習った時は「便利そうだな」程度にしか思っていなかったけれど、実際かなり重宝している。

 

 ただし欠点もある。

 

 高く浮こうとすると、無駄に魔力と集中力を消費してしまうのだ。

 

 おまけに私は、まだ細かい制御が苦手だった。

 

 だから今も、低空飛行を維持するだけで精一杯。

 

 速度だって大したことはない。

 

 それでも、普通に走るよりは遥かに速い。

 

 今は少しでも早く、アラガに追いつかなければ。

 

 オーヴェン先生が動き出す前に、せめて最低限の意思疎通だけでも――。

 

 「ちょ、ちょっと待って! 一回、話を――!」

 

 『三十秒経過。鬼役、開放!』

 

 「っ!?」

 

 無情にも、アナウンスが響いた。

 

 その瞬間。

 

 背後から、ぞわりと空気が震える。

 

 『……よし』

 

 低く、獰猛な声。

 

 『いっちょ、やったりますか』

 

 ――オーヴェン先生が、動き出した。

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