転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第7章ー50

 「お願い! 一回止まって!?」

 

 「……」

 

 必死に追いかけながら声を張り上げる。

 

 けれど、アラガは一度も振り返らなかった。

 

 完全に無視されている。

 

 ……いや、もしかしたら本当に聞こえていないだけかもしれない。風を切る音も大きいし、かなり距離もある。

 

 でも、後ろを確認しようともしない辺り、意図的に無視している可能性の方が高そうだった。

 

 参ったなぁ……。

 

 これ以上速度を上げると、今度は【風足の運び屋】の制御が怪しくなる。まだ低空飛行だけで精一杯なのに、無理をすれば墜落しかねない。

 

 どうにかして彼を止める方法はないのかな――。

 

 『はっはっはっ! お前ら、いい移動手段《あし》持ってんじゃねーか!?』

 

 「オーヴェン先生!?」

 

 突如、背後から豪快な笑い声が響いた。

 

 拡声用の魔道具を通しているせいで、ただでさえ大きい先生の声が余計に響き渡る。

 

 おかげで、私の声なんて簡単に掻き消されてしまった。

 

 『だがなぁ――私から逃げ切ろうなんざ、百億年早ぇぞォ!!』

 

 「ッ!?」

 

 次の瞬間。

 

 オーヴェン先生が地面を蹴った。

 

 ――いや、“跳んだ”なんてレベルじゃない。

 

 一瞬で建物の屋上を飛び越え、遥か上空へ到達していた。

 

 「な、何あれ……」

 

 思わず呆然と呟く。

 

 コールスタッシュ先生も十分人間離れしていたけれど、この人も大概だ。

 

 というか、この学園の教師陣、人間辞めてる人しかいないの?

 

 『空を舞う巨躯の炎龍よ――爆ぜる息吹で一帯を蹴散らせ!』

 

 上空で、オーヴェン先生が詠唱を開始する。

 

 その右手に、凄まじい熱量が集まっていった。

 

 数秒もしないうちに形成されたのは、巨大な火球。

 

 それはサダメの火球なんか比較にもならない。

 

 質量も、密度も、放たれる熱気も、何もかもが桁違いだった。

 

 見ただけで分かる。

 

 ――アレは、ヤバい。

 

 本能が警鐘を鳴らしていた。

 

 急いで防御魔法を張らないと、本当に死ぬ。

 

 「アラガ! それ以上進んだら駄目っ!!」

 

 「……あ?」

 

 私は慌てて叫ぶ。

 

 すると、ここへ来てようやくアラガがこちらへ視線を向けた。

 

 鋭い。

 

 まるで睨みつけるような目だった。

 

 声色も不機嫌そのもので、正直かなり怖い。

 

 けれど、それでも彼は足を止めてくれた。

 

 ――今なら、間に合う。

 

 私はすぐさま魔力を練り上げる。

 

 「吹き荒れろ、嵐の防壁よ――!」

 

 詠唱を開始。

 

 どうか、間に合って――!

 

 「【乱気流の城壁(タービュ・ランパート)】!!」

 

 「【紅龍の爆炎弾(スカード・ビックバン)】!!」

 

 私が防御魔法を展開した瞬間。

 

 ほぼ同時に、オーヴェン先生の魔法も放たれた。

 

 上空から、巨大な火球が凄まじい勢いで投げ下ろされる。

 

 その光景は、まるで隕石の落下そのものだった。

 

 「ぐっ!?」

 

 「う゛っ!?」

 

 私は即座に風のドームを形成し、自分とアラガを包み込む。

 

 【乱気流の城壁《タービュ・ランパート》】。

 

 暴風の壁で外部からの衝撃を逸らす、防御系風魔法。

 

 直後。

 

 世界が、爆ぜた。

 

 凄まじい爆音と共に、衝撃波が周囲一帯を呑み込む。

 

 防御魔法を展開していたにもかかわらず、外側から伝わってくる風圧だけで身体が軋んだ。

 

 空気が震え、地面が揺れ、肺の中まで衝撃が突き抜けてくる。

 

 もし防御が間に合っていなかったら――。

 

 そんな想像をしただけで、背筋が冷たくなった。

 

 「……ど、どうなったの?」

 

 しばらくして爆風が収まる。

 

 だが、風のドーム越しでは外の様子が分からない。

 

 私は恐る恐る魔法を解除した。

 

 そして――。

 

 「ッ!? こ、これは……」

 

 解除した瞬間、目の前に広がる光景に息を呑んだ。

 

 そこにあったはずの建物。

 

 道路。

 

 瓦礫。

 

 その全てが――消えていた。

 

 まるで巨大な隕石でも落下したかのように、大地そのものが抉り取られている。

 

 地面には巨大なクレーターが形成され、周囲は黒く焼き焦げ、熱気で景色すら歪んでいた。

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