「う、うそ……。あの一撃で、こんなに……?」
「……」
目の前に広がる惨状に、私は思わず息を呑んだ。
鳥肌が止まらない。
たった一撃。
それだけで試験会場の半分近くが吹き飛ばされている。
建物も、道路も、遮蔽物も、何もかもが消え去っていた。
けれど、本当に恐ろしかったのは威力そのものじゃない。
――こんな魔法を、“躊躇なく”撃ってきたこと。
それが何より怖かった。
あんなもの、直撃したら死ぬ。
いや、死ぬどころじゃ済まない。
多分、死体すら残らない。
それくらい圧倒的な破壊力だった。
隣にいるアラガも、流石に言葉を失っているようだった。
……まあ、元々無口だから、本当に驚いているのかは分からないけど。
でも、あのアラガが足を止めている。
それだけでも、今の光景がどれほど異常なのかが分かる気がした。
『はっはっはっ! 防御魔法覚えといて良かったな、チヤドール!』
頭上から、相変わらず豪快な笑い声が降ってくる。
『一歩間違えば、爆風で吹っ飛んでたぞォ!! はっはっはっはっは!!』
「……笑い事じゃないと思うんですけど」
思わず呆れ混じりに返してしまう。
完全に他人事みたいに言ってるけど、原因の百パーセントはこの人なんですけど!?
というか、吹き飛ぶ程度で済むの?
普通に命の危機だったんだけど!?
『さぁて? 今ので隠れる場所は綺麗サッパリなくなった訳だが……どうする?』
「ッ!? そういうこと!?」
私はハッと周囲を見渡した。
言われてみれば、建物は一つ残らず崩壊している。
ゴールまでの道のりには、物陰すら存在しない。
つまり――。
これから先、隠れながら進むという選択肢そのものが消えた。
先生は最初から、それを狙っていたんだ。
広範囲をまとめて吹き飛ばし、逃げ場を潰すために。
改めてゴール方向を確認すると、そちらだけは辛うじて無事だった。
……本当にギリギリだけど。
一応、最低限の加減はしていたらしい。
まあ、“私達を巻き込まない”ことまでは考慮してなかったっぽいけど。
『んあ゛っ!? だから手加減したって言ってんだろーが!!』
その時だった。
オーヴェン先生が突然、誰かに向かって怒鳴り始めた。
よく見ると、先生は耳元の魔道具へ向かって話している。
どうやら、誰かと通信しているらしい。
恐らく理事長辺りに注意されているのだろう。
あの魔道具、拡声器代わりだけじゃなく、緊急連絡用の機能もあるんだ……。
『言ったろ!? ぶっ殺さねー程度にぶっ殺すってよォ!! いちいち私のやり方に口挟むんじゃねー!!』
「いや、その発言がもうアウトなんですけど……」
私は小声でツッコミを入れる。
でも当然、本人には届いていない。
というか、この人絶対まともに話聞いてない。
向こうが必死に止めようとしてるのに、完全に逆ギレしてる。
『ちっ……マジうっせぇなぁ……』
結局、先生は通信を一方的に切ったらしく、舌打ちしながらぶつくさ文句を言い始めた。
……なんというか。
リーフ理事長達の苦労がちょっとだけ分かった気がする。
『……はぁ。待たせて悪かったな』
再び、先生の視線がこちらへ向く。
『んで? 答えは出たのか?』
「……」
余裕たっぷりの笑み。
距離はまだある。
でも、さっきの跳躍力を見た後だと、その距離すら安心材料にならない。
あの人なら、一瞬で詰めてくる。
どうする?
隠れる場所はない。
逃げ切るのも難しい。
なら、何か足止めする方法を――。
「ああ。それなら、とっくに出てる」
「ッ!? アラガ!?」
突然、アラガが前へ出た。
しかも、そのままオーヴェン先生の方へ歩き始める。
ここまで来る間、まともな会話なんて一切していない。
当然、作戦会議なんて皆無だった。
でも、その迷いのない足取りを見ていると――。
まるで、最初から答えが決まっていたみたいだった。
『……ほぉ?』
オーヴェン先生が、面白そうに口元を歪める。
そして次の瞬間。
アラガは、氷みたいに冷たい声で言い放った。
「あんたを殺す。――それが最善策だ」