転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第7章ー51

 「う、うそ……。あの一撃で、こんなに……?」

 

 「……」

 

 目の前に広がる惨状に、私は思わず息を呑んだ。

 

 鳥肌が止まらない。

 

 たった一撃。

 

 それだけで試験会場の半分近くが吹き飛ばされている。

 

 建物も、道路も、遮蔽物も、何もかもが消え去っていた。

 

 けれど、本当に恐ろしかったのは威力そのものじゃない。

 

 ――こんな魔法を、“躊躇なく”撃ってきたこと。

 

 それが何より怖かった。

 

 あんなもの、直撃したら死ぬ。

 

 いや、死ぬどころじゃ済まない。

 

 多分、死体すら残らない。

 

 それくらい圧倒的な破壊力だった。

 

 隣にいるアラガも、流石に言葉を失っているようだった。

 

 ……まあ、元々無口だから、本当に驚いているのかは分からないけど。

 

 でも、あのアラガが足を止めている。

 

 それだけでも、今の光景がどれほど異常なのかが分かる気がした。

 

 『はっはっはっ! 防御魔法覚えといて良かったな、チヤドール!』

 

 頭上から、相変わらず豪快な笑い声が降ってくる。

 

 『一歩間違えば、爆風で吹っ飛んでたぞォ!! はっはっはっはっは!!』

 

 「……笑い事じゃないと思うんですけど」

 

 思わず呆れ混じりに返してしまう。

 

 完全に他人事みたいに言ってるけど、原因の百パーセントはこの人なんですけど!?

 

 というか、吹き飛ぶ程度で済むの?

 

 普通に命の危機だったんだけど!?

 

 『さぁて? 今ので隠れる場所は綺麗サッパリなくなった訳だが……どうする?』

 

 「ッ!? そういうこと!?」

 

 私はハッと周囲を見渡した。

 

 言われてみれば、建物は一つ残らず崩壊している。

 

 ゴールまでの道のりには、物陰すら存在しない。

 

 つまり――。

 

 これから先、隠れながら進むという選択肢そのものが消えた。

 

 先生は最初から、それを狙っていたんだ。

 

 広範囲をまとめて吹き飛ばし、逃げ場を潰すために。

 

 改めてゴール方向を確認すると、そちらだけは辛うじて無事だった。

 

 ……本当にギリギリだけど。

 

 一応、最低限の加減はしていたらしい。

 

 まあ、“私達を巻き込まない”ことまでは考慮してなかったっぽいけど。

 

 『んあ゛っ!? だから手加減したって言ってんだろーが!!』

 

 その時だった。

 

 オーヴェン先生が突然、誰かに向かって怒鳴り始めた。

 

 よく見ると、先生は耳元の魔道具へ向かって話している。

 

 どうやら、誰かと通信しているらしい。

 

 恐らく理事長辺りに注意されているのだろう。

 

 あの魔道具、拡声器代わりだけじゃなく、緊急連絡用の機能もあるんだ……。

 

 『言ったろ!? ぶっ殺さねー程度にぶっ殺すってよォ!! いちいち私のやり方に口挟むんじゃねー!!』

 

 「いや、その発言がもうアウトなんですけど……」

 

 私は小声でツッコミを入れる。

 

 でも当然、本人には届いていない。

 

 というか、この人絶対まともに話聞いてない。

 

 向こうが必死に止めようとしてるのに、完全に逆ギレしてる。

 

 『ちっ……マジうっせぇなぁ……』

 

 結局、先生は通信を一方的に切ったらしく、舌打ちしながらぶつくさ文句を言い始めた。

 

 ……なんというか。

 

 リーフ理事長達の苦労がちょっとだけ分かった気がする。

 

 『……はぁ。待たせて悪かったな』

 

 再び、先生の視線がこちらへ向く。

 

 『んで? 答えは出たのか?』

 

 「……」

 

 余裕たっぷりの笑み。

 

 距離はまだある。

 

 でも、さっきの跳躍力を見た後だと、その距離すら安心材料にならない。

 

 あの人なら、一瞬で詰めてくる。

 

 どうする?

 

 隠れる場所はない。

 

 逃げ切るのも難しい。

 

 なら、何か足止めする方法を――。

 

 「ああ。それなら、とっくに出てる」

 

 「ッ!? アラガ!?」

 

 突然、アラガが前へ出た。

 

 しかも、そのままオーヴェン先生の方へ歩き始める。

 

 ここまで来る間、まともな会話なんて一切していない。

 

 当然、作戦会議なんて皆無だった。

 

 でも、その迷いのない足取りを見ていると――。

 

 まるで、最初から答えが決まっていたみたいだった。

 

 『……ほぉ?』

 

 オーヴェン先生が、面白そうに口元を歪める。

 

 そして次の瞬間。

 

 アラガは、氷みたいに冷たい声で言い放った。

 

 「あんたを殺す。――それが最善策だ」

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