転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第7章ー52

 「なっ……!?」

 

 『……』

 

 アラガの口から飛び出した言葉に、私は絶句した。

 

 今、“殺す”って言った?

 

 オーヴェン先生を?

 

 本気で?

 

 いや、もしかしたら「それくらいの覚悟で戦う」という意味なのかもしれない。

 

 そうだ。きっとそうに違いない。

 

 ……そう思いたかった。

 

 『……ふっ。ふはははははっ!!』

 

 オーヴェン先生が肩を震わせながら笑い出す。

 

 『私を殺す? おいおい、それ本気で言ってんのか?』

 

 「ああ。本気だ」

 

 「ええっ!?」

 

 即答だった。

 

 迷いなんて一切ない。

 

 冗談でも、ハッタリでもない。

 

 アラガは本気で、オーヴェン先生を殺すつもりでいる。

 

 その事実に、私の背筋が凍りついた。

 

 「あんたは強い。だから俺も全力で殺す」

 

 アラガは淡々と続ける。

 

 「それ以外に、この状況を切り抜ける方法がないからな」

 

 「……アラガ」

 

 彼の言葉には、不思議なくらい迷いがなかった。

 

 普段は無口なのに、一つ一つの言葉だけは異様に重い。

 

 そこに嘘や虚勢は感じられなかった。

 

 確かに、オーヴェン先生は普通の相手じゃない。

 

 私が全力で防御や妨害をしたところで、突破される未来しか見えない。

 

 それくらい、圧倒的な実力差がある。

 

 そしてアラガも、それを理解している。

 

 だからこそ彼の中では、“全力で殺す”以外の選択肢が最初から存在していないのだろう。

 

 けれど――。

 

 「だ、駄目だよ!?」

 

 私は慌てて彼の前へ出た。

 

 「人殺しなんてしたら、試験どころじゃ済まなくなるよ!?」

 

 この学園で殺人は重罪だ。

 

 退学どころでは済まない。

 

 最悪、監獄送りになる可能性だってある。

 

 それに何より――。

 

 人を殺すなんて、そんな方法を許してはいけない。

 

 どれだけ追い詰められていたとしても。

 

 どれだけ強い目的があったとしても。

 

 それだけは絶対に駄目だ。

 

 だから、止めないと。

 

 なんとしてでも。

 

 『はっはっはっはっはっ!! おもしれー!!』

 

 「ッ!? オーヴェン先生!?」

 

 しかし。

 

 私の必死の制止をぶち壊すように、オーヴェン先生は豪快に笑い出した。

 

 『いいぜ! やれるもんならやってみろよォ!?』

 

 「……」

 

 アラガは無言のまま先生を睨み返す。

 

 その視線には、本物の殺気が宿っていた。

 

 いやいやいや!?

 

 なんで煽るの!?

 

 普通止めるところだよね!?

 

 この人、自分が殺されかけてるの分かってる!?

 

 というか、なんでそんな楽しそうなの!?

 

 理解が追いつかない。

 

 『あぁん? 別にいいだろ、そんくらい!』

 

 再び先生が耳元の魔道具へ怒鳴り始める。

 

 恐らく、また理事長達から止められているのだろう。

 

 けれど、オーヴェン先生は全く聞く気がない。

 

 『そっちの方がおもしれーじゃねぇか!!』

 

 ……駄目だこの人。

 

 完全に戦闘狂だ。

 

 『それによォ! こいつの実力がどれほどのもんか、気になってんだろ!?』

 

 先生は獰猛に笑いながら、アラガを指差した。

 

 『“魔王をぶっ殺す”とか抜かした奴が、どこまでやれんのか――私が直々に見てやるよ!!』

 

 「……っ」

 

 空気が変わる。

 

 オーヴェン先生の目が、本気になった。

 

 さっきまでの“試験官”としての余裕とは違う。

 

 強者が、強者を見定めようとしている目だ。

 

 このままだと、本当に殺し合いになる。

 

 そう直感した私は、再びアラガへ叫んだ。

 

 「アラガ! 気持ちは分かるけど、先生を殺したら本当に終わりなんだよ!?」

 

 私は必死に訴える。

 

 「退学になるかもしれないし、捕まるかもしれない! そうなったら、もう学園にも――」

 

 「それがどうした?」

 

 「……え?」

 

 返ってきた言葉に、私は思わず固まった。

 

 アラガは、まるでそんな未来に何の価値も感じていないみたいな顔をしていた。

 

 「俺は、魔王を殺す為なら手段は選ばん」

 

 低い声。

 

 だが、その奥には煮え滾るような激情があった。

 

 「もし俺の野望を邪魔するなら――誰だろうと殺す」

 

 空気が凍る。

 

 彼の魔力とは別の、剥き出しの憎悪が滲み出ていた。

 

 「教師だろうが、騎士団の連中だろうが関係ない」

 

 アラガの表情は、氷みたいに冷たい。

 

 けれど、その瞳の奥だけは燃えていた。

 

 怒り。

 

 憎しみ。

 

 執念。

 

 まるで“魔王”という存在そのものを、この世の全てより憎んでいるかのような――。

 

 そんな、異様な激情だった。

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