「ッ!?」
アラガの瞳は、氷みたいに冷たかった。
けれどその奥には、まるで煮え滾る溶岩みたいな激情が渦巻いている。
怒っている。
間違いなく、今の彼は怒りに支配されていた。
しかも、その怒りは普通じゃない。
ただ憎んでいるだけじゃなく、どこか追い詰められているような……焦燥感まで感じられる。
なにをそんなに焦っているの?
どうして、そこまでして魔王を殺そうとしているの?
聞きたいことは山ほどあった。
けれど――。
『よし。準備は出来てるか?』
「……そっちこそな」
そんな私を置き去りにするように、二人は既に戦闘態勢へ入っていた。
まずい。
このままじゃ、本当に始まってしまう。
『いくぞォォォォォォォォォォッ!!』
次の瞬間。
オーヴェン先生が地面を砕く勢いで踏み込み、一気に突撃してきた。
速い。
速すぎる。
まるで砲弾みたいな勢いで距離を詰めてくる。
「待って――!」
私は慌てて叫ぶ。
けれど、二人とも私の声なんて耳に入っていない。
完全に、互いしか見えていなかった。
「凍てつけ――【
「きゃっ!?」
直後。
アラガが氷魔法を発動した。
爆発的に放出された冷気が周囲へ広がり、私は思わず肩を震わせる。
近くにいただけで肌が刺すように痛い。
彼の魔法は前方一帯へ吹雪を発生させ、道路も建物も、一瞬にして白く凍らせていく。
もし、あと少しでも前に出ていたら。
私まで巻き込まれていたかもしれない。
『ぬっ!?』
当然、その効果範囲の中心にはオーヴェン先生もいた。
一瞬で下半身が氷に覆われ、動きが止まる。
さらに冷気は勢いを増し――。
「氷漬けになって死ね!」
「ッ!? せ、先生ぇ!?」
わずか数秒後。
オーヴェン先生の全身は、巨大な氷塊の中へ完全に閉じ込められていた。
これじゃ身動きどころか、呼吸すらできない。
本当に死んじゃう――!
『……はっ。この程度で、私を殺せると思ってんのか?』
「ッ!?」
「ちっ……!?」
次の瞬間。
氷の中から、低い声が響いた。
嘘でしょ!?
この状態で普通に喋ってる!?
というか、生きてるの!?
やっぱりこの人、人間じゃないんじゃ……。
『おらァッ!!』
轟音。
直後、氷塊の内部から炎が噴き上がった。
灼熱の炎が内側から氷を溶かし、巨大な氷塊に亀裂が走る。
そして――。
バキィンッ!!
先生は、自力で氷を破壊して脱出した。
「えぇ……」
私は思わず呆然と呟く。
全身から熱気を立ち昇らせるオーヴェン先生。
どうやら事前に炎魔法を纏い、防御していたらしい。
だから完全には凍結しなかったのだろう。
いや、それにしても無茶苦茶すぎるけど。
『相性が悪かったなァ、お前』
先生は全身びしょ濡れのまま笑う。
溶けた氷水が髪から滴り落ち、その姿はどこか異様だった。
『まぁ、相性関係なく――私が負ける訳ねぇけどなァ!!』
「くっ……!」
アラガが舌打ちする。
対する先生は、水を滴らせながらゆっくりこちらへ歩いて来る。
濡れた髪が顔に張り付き、いつも以上に迫力が凄い。
……ちょっと幽霊っぽい、なんて思ったけど。
絶対口には出さないでおこう。
殺されそうだし。
「――はっ! こうしてる場合じゃない!」
私は慌てて我に返る。
二人とも、まだやる気だ。
このまま放っておけば、本当に取り返しのつかないことになる。
止めないと。
絶対に。
でも、どうやって?
先生は怪物みたいに強い。
アラガも本気で殺す気でいる。
私一人で、この二人を止められるの?
「……やるしか、ないか」
それでも。
私は小さく息を吐き、覚悟を決めた。
怖い。
正直、足だって震えている。
けれど、このまま見ているだけなんて嫌だった。
誰かが傷付くのも。
誰かが人殺しになるのも。
そんな結末、絶対に認めたくない。
だから――。
私が止める。
この殺し合いを、絶対に止めてみせる。
そして必ず、みんなで試験を突破してみせるんだから。