転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第7章ー53

 「ッ!?」

 

 アラガの瞳は、氷みたいに冷たかった。

 

 けれどその奥には、まるで煮え滾る溶岩みたいな激情が渦巻いている。

 

 怒っている。

 

 間違いなく、今の彼は怒りに支配されていた。

 

 しかも、その怒りは普通じゃない。

 

 ただ憎んでいるだけじゃなく、どこか追い詰められているような……焦燥感まで感じられる。

 

 なにをそんなに焦っているの?

 

 どうして、そこまでして魔王を殺そうとしているの?

 

 聞きたいことは山ほどあった。

 

 けれど――。

 

 『よし。準備は出来てるか?』

 

 「……そっちこそな」

 

 そんな私を置き去りにするように、二人は既に戦闘態勢へ入っていた。

 

 まずい。

 

 このままじゃ、本当に始まってしまう。

 

 『いくぞォォォォォォォォォォッ!!』

 

 次の瞬間。

 

 オーヴェン先生が地面を砕く勢いで踏み込み、一気に突撃してきた。

 

 速い。

 

 速すぎる。

 

 まるで砲弾みたいな勢いで距離を詰めてくる。

 

 「待って――!」

 

 私は慌てて叫ぶ。

 

 けれど、二人とも私の声なんて耳に入っていない。

 

 完全に、互いしか見えていなかった。

 

 「凍てつけ――【氷結寒栓(フリールトップ)】」

 

 「きゃっ!?」

 

 直後。

 

 アラガが氷魔法を発動した。

 

 爆発的に放出された冷気が周囲へ広がり、私は思わず肩を震わせる。

 

 近くにいただけで肌が刺すように痛い。

 

 彼の魔法は前方一帯へ吹雪を発生させ、道路も建物も、一瞬にして白く凍らせていく。

 

 もし、あと少しでも前に出ていたら。

 

 私まで巻き込まれていたかもしれない。

 

 『ぬっ!?』

 

 当然、その効果範囲の中心にはオーヴェン先生もいた。

 

 一瞬で下半身が氷に覆われ、動きが止まる。

 

 さらに冷気は勢いを増し――。

 

 「氷漬けになって死ね!」

 

 「ッ!? せ、先生ぇ!?」

 

 わずか数秒後。

 

 オーヴェン先生の全身は、巨大な氷塊の中へ完全に閉じ込められていた。

 

 これじゃ身動きどころか、呼吸すらできない。

 

 本当に死んじゃう――!

 

 『……はっ。この程度で、私を殺せると思ってんのか?』

 

 「ッ!?」

 

 「ちっ……!?」

 

 次の瞬間。

 

 氷の中から、低い声が響いた。

 

 嘘でしょ!?

 

 この状態で普通に喋ってる!?

 

 というか、生きてるの!?

 

 やっぱりこの人、人間じゃないんじゃ……。

 

 『おらァッ!!』

 

 轟音。

 

 直後、氷塊の内部から炎が噴き上がった。

 

 灼熱の炎が内側から氷を溶かし、巨大な氷塊に亀裂が走る。

 

 そして――。

 

 バキィンッ!!

 

 先生は、自力で氷を破壊して脱出した。

 

 「えぇ……」

 

 私は思わず呆然と呟く。

 

 全身から熱気を立ち昇らせるオーヴェン先生。

 

 どうやら事前に炎魔法を纏い、防御していたらしい。

 

 だから完全には凍結しなかったのだろう。

 

 いや、それにしても無茶苦茶すぎるけど。

 

 『相性が悪かったなァ、お前』

 

 先生は全身びしょ濡れのまま笑う。

 

 溶けた氷水が髪から滴り落ち、その姿はどこか異様だった。

 

 『まぁ、相性関係なく――私が負ける訳ねぇけどなァ!!』

 

 「くっ……!」

 

 アラガが舌打ちする。

 

 対する先生は、水を滴らせながらゆっくりこちらへ歩いて来る。

 

 濡れた髪が顔に張り付き、いつも以上に迫力が凄い。

 

 ……ちょっと幽霊っぽい、なんて思ったけど。

 

 絶対口には出さないでおこう。

 

 殺されそうだし。

 

 「――はっ! こうしてる場合じゃない!」

 

 私は慌てて我に返る。

 

 二人とも、まだやる気だ。

 

 このまま放っておけば、本当に取り返しのつかないことになる。

 

 止めないと。

 

 絶対に。

 

 でも、どうやって?

 

 先生は怪物みたいに強い。

 

 アラガも本気で殺す気でいる。

 

 私一人で、この二人を止められるの?

 

 「……やるしか、ないか」

 

 それでも。

 

 私は小さく息を吐き、覚悟を決めた。

 

 怖い。

 

 正直、足だって震えている。

 

 けれど、このまま見ているだけなんて嫌だった。

 

 誰かが傷付くのも。

 

 誰かが人殺しになるのも。

 

 そんな結末、絶対に認めたくない。

 

 だから――。

 

 私が止める。

 

 この殺し合いを、絶対に止めてみせる。

 

 そして必ず、みんなで試験を突破してみせるんだから。

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