転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第7章ー54

 「はあ……困ったものだね」

 

 第六試合が開始されてから数分後。

 

 試験会場は、もはや実技試験とは呼べないほど緊迫した空気に包まれていた。

 

 キリヤ・オーヴェン。

 

 彼女が、生徒であるアラガ君の挑発を真正面から受け止めてしまった結果、状況は今まさに“一触即発の殺し合い”へと発展しつつある。

 

 学園では、いかなる理由があろうとも殺人を固く禁じている。

 

 当然、それは教師も例外ではない。

 

 だからこそ私は、念のため彼女へ警告を送った。

 

 しかし――。

 

 『ぶっ殺さねー程度にぶっ殺すって言ったろ!?』

 

 返ってきたのは、そんな物騒極まりない言葉だけ。

 

 その上、一方的に通信を切断されてしまった。

 

 ……どうやら、思っていた以上にまずい展開になってきたようだ。

 

 「だから言ったでしょ? 俺より、あの人の方を危険視するべきだったんすよ」

 

 「……」

 

 隣で、アサヒ・コールスタッシュ先生がぼそりと呟く。

 

 周囲に聞こえないよう配慮している辺り、一応空気は読んでいるらしい。

 

 彼も彼で、生徒相手にかなり無茶をしていた。

 

 だが、正直なところ――。

 

 キリヤ先生は、その比ではない。

 

 あれはもう“やり過ぎ”という次元を超えている。

 

 「どうします? 力づくで止めます?」

 

 コールスタッシュ先生は眉間を押さえながら続けた。

 

 「つっても俺、まだ耳鳴り酷くて、まともにあの人止められる自信ないんすけど。……まあ、万全でも正直やりたくないっすけどね」

 

 半分冗談めかしてはいるが、その声音には本気の疲労が滲んでいた。

 

 それほどまでに、キリヤ・オーヴェンという人物は危険なのだ。

 

 試験中止。

 

 確かに、この状況なら妥当な判断かもしれない。

 

 「……けど」

 

 「?」

 

 私は即答できず、言葉を濁した。

 

 理由は単純だ。

 

 ――彼女が、本当に考えなしで暴れているようには見えなかったから。

 

 もちろん危険だ。

 

 危険極まりない。

 

 だが、それでも彼女は彼女なりに“加減”している。

 

 もし本気を出していたなら、先程の爆炎だけで試験会場全体が消し飛んでいてもおかしくない。

 

 彼女からすれば、あれですら力の半分にも満たないだろう。

 

 氷を破壊した時も同じだ。

 

 使った魔力はごく僅か。

 

 つまり彼女は、一応“殺さない程度”には力を抑えている。

 

 少なくとも、本人の中ではそのつもりなのだろう。

 

 ……だからこそ厄介だった。

 

 彼女自身に殺意がなくとも、あの規模の攻撃は一歩間違えれば即死に直結する。

 

 加減を誤れば、本当に生徒を殺しかねない。

 

 それが分かっているからこそ、私は判断を下せずにいた。

 

 そして、気になるのはアラガ君の方も同じだった。

 

 彼は間違いなく学年トップクラスの実力者だ。

 

 しかし、相性差があるとはいえ、相手はキリヤ・オーヴェン。

 

 圧倒的格上。

 

 普通なら、戦おうなどとは考えない。

 

 それこそ無謀以外の何物でもない。

 

 だが――。

 

 私が引っ掛かっているのは、そこではなかった。

 

 「……彼も、まだ本気じゃないんだよね」

 

 「ん? どういう意味っすか?」

 

 コールスタッシュ先生が怪訝そうに眉をひそめる。

 

 私はモニター越しにアラガ君を見つめながら、小さく息を吐いた。

 

 彼には、“あの目”がある。

 

 それがどれほど異質な力なのか、私は知っている。

 

 キリヤ先生と対等に渡り合うつもりなら、本来ならあの力が必要不可欠なはずだ。

 

 そして、そのことを一番理解しているのも彼自身だろう。

 

 にもかかわらず、彼はまだ使おうとしていない。

 

 何故だ?

 

 使用条件があるのか。

 

 あるいは制限か。

 

 もしくは、何か大きな代償を伴う能力なのか。

 

 理由は分からない。

 

 けれど、一つだけ確かなことがある。

 

 ――“あの目”を使わない限り、今の彼ではキリヤ先生に勝つことは不可能に近い。

 

 なにせ彼女は――。

 

 “次期勇者候補”とまで謳われた、元冒険者なのだから。

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