キリヤ・オーヴェン。――この学園において、間違いなく最強と呼べる女だ。
単純な魔力量だけではない。戦闘技術、判断力、間合いの読み、魔法運用の精度。そのどれを取っても、他の教師達とは一線を画している。特に戦闘センスに関しては群を抜いていた。
こいつとは、いつか戦ってみたいと思っていた。
まさか、こんな形で実現するとは思ってもみなかったが。だが、この好機を逃すつもりはない。むしろ願ってもない状況だ。
……とはいえ、実際に対峙してみて嫌というほど理解したこともある。
俺と奴との実力差は、あまりにも大きい。
今の俺では、到底太刀打ちできる相手ではなかった。全力を尽くしたとしても勝負になるかどうか怪しい。いや――『この右目』を使ったとして、ようやく五分に持ち込めるかもしれない。その程度だろう。
「……はあ」
自然と、重いため息が漏れた。
だが、それでも――死んでも『この右目』だけは使わない。
あの時、俺は確かに誓ったのだ。たとえ相手が格上だろうが、魔王だろうが、二度とこの力には頼らないと。
この目は呪いだ。
……いや、正確には違う。
この目を宿した俺自身こそが、呪いそのものなのだ。
だからこそ、俺は魔王を殺さなければならない。
『あの人達』のためにも。
それだけが、俺に残された役目だった。
俺はその目的のためだけに生きてきた。ならば、その過程で何人殺そうと構わない。たとえ目の前の女を殺し、学園を追放されることになったとしてもだ。
……もっとも、こいつを殺せるほどの実力を手に入れているなら、その時点でこの学園に留まる理由もなくなるだろう。そう考えれば、それはそれで都合がいい。
ならば、問題はどうやって勝つかだ。
実力差は言うまでもない。それに加え、俺の氷魔法は奴の炎魔法と絶望的に相性が悪い。氷で凍らせても、炎で即座に相殺される。このまま正面からぶつかれば、奴を殺すどころか、逆にこちらが焼き殺されるのがオチだ。
だが、勝機がまったくないわけじゃない。
あるとすれば――消耗戦。
奴は氷によって奪われた体温を、炎魔法によって無理やり回復している。つまり、魔力だけでなく体力までも継続的に消耗しているということだ。
ならば、繰り返し凍らせ続ければいい。
いくら化け物染みた実力を持っていようと、人間である以上、限界は存在する。魔力も体力も、永遠には続かない。
そこが、今の俺に残された唯一の勝機だった。
なら――。
「凍て殺《ごろ》せ……」
まずは先手を取る。
とにかく奴を凍らせ続ける。氷漬けにし、炎魔法を強制的に使わせる。必要なのは威力ではない。回数だ。
だからこそ、魔力消費を抑えるためにも初級魔法を連発する。質より量。徹底的に消耗へ持ち込む。
そう決めた俺は、次の魔法を放つために詠唱を紡ぎ始めた。
『はっはっはっ! 次はどうする? なあ!?』
俺が攻撃の構えを見せた瞬間、オーヴェンもまた好戦的な笑みを浮かべながら前へ踏み込んできた。
奴の勝利条件は、俺に一度でも触れること。
ならば、絶対に近づかせるわけにはいかない。
距離を維持しながら凍らせ続ける。それだけに集中しろ。
「【
接近してくるオーヴェンへ向け、氷魔法を放とうとした――その時だった。
「吹き荒れろ、嵐の防壁よ――【
「ッ!?」
『あ゛ん!?』
突如、俺とオーヴェンの間に一人の女が割って入ってきた。
次の瞬間、その女は自らを守るように風の防御魔法を展開。荒れ狂う暴風の壁が俺達の間を遮断し、放とうとしていた氷魔法を強引にかき消した。