転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第7章ー59

 「がっ……はっ!? げほっ! げほっ!!」

 

 鳩尾《みぞおち》に膝蹴りが直撃し、ミオ・チヤドールはその場に崩れ落ちた。呼吸がまともにできないのか、苦しげに咳き込みながら床へ蹲っている。

 

 「……ふー。ふー……」

 

 俺は荒くなりかけた呼吸を整えながら、その様子を見下ろしていた。

 

 頭に血が上っていたせいか、殴ったこっちまで息が乱れそうになる。胸の奥が妙にざわついていた。

 

 「うっ……うぅ……」

 

 苦悶の声を漏らしながらも、ミオが展開した風魔法はまだ消えていなかった。

 

 オーヴェンを閉じ込めている竜巻は、今もなお勢いを保ち続けている。

 

 ……この状況で、まだ魔法を維持しているのか。

 

 一発入れれば集中が切れると思っていたが、どうやら想像以上にしぶといらしい。

 

 「おい。さっさと魔法を解除しろ」

 

 俺は冷たく言い放つ。

 

 「お前と協力する気なんざ毛頭ねぇ。とっとと俺の視界から消え失せろ」

 

 追い打ちをかけるように暴言を吐き捨てる。

 

 こいつの戦意を完全に折るつもりだった。これで理解したはずだ。俺の邪魔をすればどうなるか。

 

 今回は警告で済ませた。だが、これ以上俺の邪魔をするつもりなら――次は容赦しない。

 

 まずはこいつから殺す。

 

 そう決めかけた、その時だった。

 

 「……だ、駄目……だよ……」

 

 「あ゛?」

 

 掠れた声で、ミオが反論してきた。

 

 それどころか、ふらつきながらも立ち上がろうとしている。

 

 ……なんなんだ、こいつは。

 

 今の一撃が効いていないわけがない。確かに苦しんでいた。痛みも恐怖も味わったはずだ。

 

 普通の奴なら、あれで怯える。

 俺を怖がって、逆らわなくなる。

 

 ――あの頃みたいに。

 

 「ッ!?」

 

 不意に、胸の奥を何かが掠めた。

 

 「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 息を乱しながら、それでもミオは顔を上げる。

 

 真っ直ぐに。

 

 まるで、俺を恐れていないとでも言うように。

 

 「……なんなんだ、お前は?」

 

 気づけば、そんな言葉が口をついて出ていた。

 

 なぜ俺は、こんな女を気にしている?

 

 黙らないなら殺せばいい。それだけの話だ。単に頭の悪い馬鹿なのかもしれないし、そんな奴に構っている暇なんてない。

 

 なのに――こいつの目から、視線を逸らせなかった。

 

 本当に、なんなんだ。この女は。

 

 「わ、私は……ミオ・チヤドール!」

 

 息を切らしながら、ミオは声を張り上げる。

 

 「ドレーカ村生まれ、リーヴ村育ちの十五歳! ソワレル魔法学園一年生で、将来の夢は立派な治癒師になって、世界中のみんなを救うこと!!」

 

 「……は?」

 

 返ってきたのは、まさかの自己紹介だった。

 

 意味が分からない。

 

 俺はそんなことを聞きたいわけじゃない。やはりこいつは、ただの馬鹿だった――

 

 「だから私は、貴方も救いたいの!!」

 

 「ッ!?」

 

 次の瞬間、ミオの口から飛び出した言葉に、俺の思考は一瞬止まった。

 

 今……なんて言った?

 

 「……俺を、救う……だと?」

 

 「うん!」

 

 ミオは迷いなく頷いた。

 

 「貴方がそこまでして夢を叶えようとしてるのには、きっと凄く辛い理由があるんでしょ!? だから聞かせて! 貴方のことを!」

 

 「……」

 

 理解できなかった。

 

 俺を救う?

 だから話を聞かせろ?

 

 ……ふざけるな。

 

 なんでお前みたいな能天気な馬鹿女に、自分の過去を語らなければならない。

 

 こいつは何も知らない。

 

 俺が何を背負ってきたのかも。

 どれだけ汚れているのかも。

 どれだけ救いようがない存在なのかも。

 

 何一つ知らないくせに――。

 

 その無邪気さが、たまらなく癇に障った。

 

 頭の奥で、何かが切れそうになる。

 

 「……おちょくるのも大概にしとけよ?」

 

 低く、怒気の滲んだ声が漏れる。

 

 「このクソ女がッ!!」

 

 ――その瞬間、俺は一つの結論に辿り着いていた。

 

 オーヴェンより先に。

 

 まず、この女を殺す。

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