「私、小さい頃……お父さんとお母さんを魔物に殺されたの」
「……あ?」
彼と話をするには、まず自分のことから話す。
それがお父さんの教えだった。
焦っていると、つい忘れてしまいそうになる。けれど不思議なことに、本当に大事な言葉って、こういう時にふと思い出すものなんだ。
私は震えそうになる声を押さえ込みながら、ゆっくりと言葉を続けた。
「殺されたのは二人だけじゃないよ。サダメのお父さんとお母さんも、村の人達も……みんな魔物に殺された」
「……」
「その後、私達子供は奴隷みたいに扱われたの。まともな食事も貰えなくて、毎日働かされて……。病気で死んじゃった子もいたし、見せしめみたいに魔物に殺された子もいた」
話しているだけで、当時の光景が脳裏に蘇る。
泣き声。
怒鳴り声。
血の匂い。
それでも私は、言葉を止めなかった。
「……結局、他の子達も村から逃げ出す時に殺されちゃった。最後まで生き残れたのは、サダメと私だけだったんだ」
「……」
「私達も、もう駄目だって思ってた。けど、勇者様が助けてくれたの。だから今、私はここにいるんだよ」
しばしの沈黙。
やがて彼は、不機嫌そうに眉を寄せながら口を開いた。
「……で? それが俺と何の関係がある?」
警戒はまだ解けていない。
でも、それでいい。
少なくとも彼は、私の話を無視しなかった。
攻撃する代わりに、わざわざ問い返してきた。それはつまり、ほんの少しでも私の話に興味を持ってくれたということだ。
少しでも「聞きたい」と思わせられれば、きっと彼も自分のことを話したくなる。
……まあ、そんな上手な話術なんて私にはないんだけど。
それでも、今は言葉を重ねるしかない。
「その時のことを思い出して、改めて考えたの」
私は彼を真っ直ぐ見つめながら言った。
「私達って、本当に魔物を恨んでたのかなって」
「……は?」
彼の眉がぴくりと動く。
「多分ね、私もサダメも……魔物のことを心の底から恨んではいなかったんだと思う」
「なんでだよ?」
彼の声が強くなる。
「お前ら、家族も村も奪われたんだろ? あんなクソ共を何とも思ってねぇってのか? それに、なんであいつまで同じ考えだって言い切れる?」
その言葉に、私は小さく首を横に振った。
「違うよ。悔しかったし、怖かった。いっぱい苦しかった。魔物に酷いことされて、許せないって思ったことだってある」
あの頃の絶望は、今でも忘れられない。
だけど――。
「でも、それだけだったの」
「……?」
「私達が村を逃げ出したのは、生き延びたかったから。サダメが魔物を倒してたのも、私達を守るためだった」
私は静かに続ける。
「復讐したいから戦ってたわけじゃないの。少なくとも、私は一度も『仕返ししてやりたい』なんて思わなかった」
彼は黙ったまま、こちらを睨んでいる。
けれど、その目には先程までの殺意だけじゃない色が混じり始めていた。
困惑。
疑問。
そして、微かな動揺。
「……話が見えねぇな」
低い声が返ってくる。
「結局、お前は何が言いたい? それに、お前らは結果的に魔物を殺してるだろ。経緯がどうあれ、復讐は果たしてんじゃねぇのか?」
「ううん。元凶は生き延びてるよ」
「……は?」
彼の表情が僅かに変わった。
「サダメのお父さんを殺した魔物も、まだ生きてる」
「だったら、そいつに復讐したいとは思わねぇのか?」
「うん」
私は迷わず頷いた。
「サダメも、きっとそんなこと考えてないよ」
「……だから、なんでそう言い切れる!?」
彼の声が一段強くなる。
でも、その反応を見て、私は確信しかけていた。
――この人は、復讐に囚われてる。
だからこそ、私達の考えが理解できないんだ。
そして同時に、どうして彼がここまで私の話に食いついてきたのかも、少しだけ分かった気がした。
「……おい」
痺れを切らしたように、彼が一歩踏み出す。
「いい加減、俺の質問に答えろ!!」
怒声が響く。
……うん。
そろそろ、ちゃんと答えなきゃ。
私は息を吸い込み、真っ直ぐ彼を見つめた。
そして――。
「だって、サダメは勇者になる道を選んだんだもの!」