転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第7章ー61

 「私、小さい頃……お父さんとお母さんを魔物に殺されたの」

 

 「……あ?」

 

 彼と話をするには、まず自分のことから話す。

 

 それがお父さんの教えだった。

 

 焦っていると、つい忘れてしまいそうになる。けれど不思議なことに、本当に大事な言葉って、こういう時にふと思い出すものなんだ。

 

 私は震えそうになる声を押さえ込みながら、ゆっくりと言葉を続けた。

 

 「殺されたのは二人だけじゃないよ。サダメのお父さんとお母さんも、村の人達も……みんな魔物に殺された」

 

 「……」

 

 「その後、私達子供は奴隷みたいに扱われたの。まともな食事も貰えなくて、毎日働かされて……。病気で死んじゃった子もいたし、見せしめみたいに魔物に殺された子もいた」

 

 話しているだけで、当時の光景が脳裏に蘇る。

 

 泣き声。

 怒鳴り声。

 血の匂い。

 

 それでも私は、言葉を止めなかった。

 

 「……結局、他の子達も村から逃げ出す時に殺されちゃった。最後まで生き残れたのは、サダメと私だけだったんだ」

 

 「……」

 

 「私達も、もう駄目だって思ってた。けど、勇者様が助けてくれたの。だから今、私はここにいるんだよ」

 

 しばしの沈黙。

 

 やがて彼は、不機嫌そうに眉を寄せながら口を開いた。

 

 「……で? それが俺と何の関係がある?」

 

 警戒はまだ解けていない。

 

 でも、それでいい。

 

 少なくとも彼は、私の話を無視しなかった。

 

 攻撃する代わりに、わざわざ問い返してきた。それはつまり、ほんの少しでも私の話に興味を持ってくれたということだ。

 

 少しでも「聞きたい」と思わせられれば、きっと彼も自分のことを話したくなる。

 

 ……まあ、そんな上手な話術なんて私にはないんだけど。

 

 それでも、今は言葉を重ねるしかない。

 

 「その時のことを思い出して、改めて考えたの」

 

 私は彼を真っ直ぐ見つめながら言った。

 

 「私達って、本当に魔物を恨んでたのかなって」

 

 「……は?」

 

 彼の眉がぴくりと動く。

 

 「多分ね、私もサダメも……魔物のことを心の底から恨んではいなかったんだと思う」

 

 「なんでだよ?」

 

 彼の声が強くなる。

 

 「お前ら、家族も村も奪われたんだろ? あんなクソ共を何とも思ってねぇってのか? それに、なんであいつまで同じ考えだって言い切れる?」

 

 その言葉に、私は小さく首を横に振った。

 

 「違うよ。悔しかったし、怖かった。いっぱい苦しかった。魔物に酷いことされて、許せないって思ったことだってある」

 

 あの頃の絶望は、今でも忘れられない。

 

 だけど――。

 

 「でも、それだけだったの」

 

 「……?」

 

 「私達が村を逃げ出したのは、生き延びたかったから。サダメが魔物を倒してたのも、私達を守るためだった」

 

 私は静かに続ける。

 

 「復讐したいから戦ってたわけじゃないの。少なくとも、私は一度も『仕返ししてやりたい』なんて思わなかった」

 

 彼は黙ったまま、こちらを睨んでいる。

 

 けれど、その目には先程までの殺意だけじゃない色が混じり始めていた。

 

 困惑。

 疑問。

 そして、微かな動揺。

 

 「……話が見えねぇな」

 

 低い声が返ってくる。

 

 「結局、お前は何が言いたい? それに、お前らは結果的に魔物を殺してるだろ。経緯がどうあれ、復讐は果たしてんじゃねぇのか?」

 

 「ううん。元凶は生き延びてるよ」

 

 「……は?」

 

 彼の表情が僅かに変わった。

 

 「サダメのお父さんを殺した魔物も、まだ生きてる」

 

 「だったら、そいつに復讐したいとは思わねぇのか?」

 

 「うん」

 

 私は迷わず頷いた。

 

 「サダメも、きっとそんなこと考えてないよ」

 

 「……だから、なんでそう言い切れる!?」

 

 彼の声が一段強くなる。

 

 でも、その反応を見て、私は確信しかけていた。

 

 ――この人は、復讐に囚われてる。

 

 だからこそ、私達の考えが理解できないんだ。

 

 そして同時に、どうして彼がここまで私の話に食いついてきたのかも、少しだけ分かった気がした。

 

 「……おい」

 

 痺れを切らしたように、彼が一歩踏み出す。

 

 「いい加減、俺の質問に答えろ!!」

 

 怒声が響く。

 

 ……うん。

 

 そろそろ、ちゃんと答えなきゃ。

 

 私は息を吸い込み、真っ直ぐ彼を見つめた。

 

 そして――。

 

      「だって、サダメは勇者になる道を選んだんだもの!」

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