「……どういう意味だ?」
彼は訝しげに眉を寄せながら、低い声で問い返してきた。
私は真っ直ぐ彼を見つめ返し、迷わず言葉を続ける。
「だって、もし本当に復讐だけを考えてるなら、そんな前向きな夢なんて掲げないと思うの」
「……」
「それに、サダメは言ってた。世界中の人を助けたいって。誰かを守れる勇者になりたいって」
胸の奥に浮かぶのは、あの時の彼の表情。
不器用だけど真っ直ぐで、誰かのために強くなろうとしていた姿。
「サダメには、復讐の“ふ”の字だってないよ。私はそう思ってる」
「……」
私が真剣に答えると、彼はとうとう黙り込んでしまった。
ここまで彼が長く会話に付き合ってくれるのは初めてだった。
やっぱり、無口な人ほど、一度口を開くとちゃんと向き合ってくれるものなんだな――なんて、少し場違いなことを心の中で考えてしまう。
でも、今は大事なところだ。
せっかくここまで会話ができるようになったのなら、今度はこっちが彼の話を聞く番だった。
「……貴方は、なんで魔王を殺したいの?」
私は慎重に問いかける。
「もしかして……復讐、だったりする?」
「……」
思い切って、真正面から聞いてみた。
今までの反応を見る限り、彼が魔王を憎む理由はかなり分かりやすい。
――復讐。
過去に何があったのかは分からない。
もしかしたら、私達以上に過酷な経験をしてきたのかもしれない。そんな気がしてならなかった。
けれど、それはあくまで私の想像でしかない。
本人の口から聞かなければ、本当のことなんて分からない。
しかし、彼はすぐには答えなかった。
沈黙だけが流れる。
……やっぱり、これ以上は難しいのかな。
あと少しで、彼のことを知れそうだったのに。
でも、それでもよかった。
数分前まで、彼は今にも人を殺しそうなほど殺気を撒き散らしていた。けれど今は、その鋭い雰囲気が少しだけ和らいでいる。
それだけでも、ちゃんと話した意味はあった気がした。
――そう思いかけた、その時だった。
「……俺が生まれた街も、魔物に襲われて侵略されてた」
「……っ」
彼が、ぽつりと呟いた。
「昔はかなり栄えていたらしい。けど、俺が生まれた頃にはそんな面影は微塵も残ってなかった」
彼の声は低く、どこか感情を押し殺しているようだった。
「街はあちこち木々に覆われて、まるで森の一部みてぇになってた。そこでガキ共は馬車馬みたいに働かされて、ロクな食い物も与えられず……次々と餓死していった」
私は息を呑む。
その光景を想像しただけで、胸が締め付けられた。
「その後、勇者が現れて魔物は全滅した。……だが、生き残ったのは俺だけだ」
「……アラガ」
ようやく語られた彼の過去。
予想通り、彼も私達と似た境遇だった。
けれど、決定的に違う点がある。
――彼には、誰も残らなかった。
私にはサダメがいた。
サダメにも、私がいた。
だから生き延びられた。
どちらか片方でも欠けていたら、きっと私達は二人とも生きていなかったと思う。
でも彼は、一人きりで生き残ってしまった。
だからこそ、心を閉ざしてしまったのかもしれない。
孤独を抱えたまま、ずっと一人で生きてきたのかもしれない。
「……はっ!?」
その瞬間、私はあることに気付いた。
彼の心を少しでも救うために必要なのは――。
「あ、あの! もしよかったら、私と――」
思いついた言葉を、私は咄嗟に口にしようとした。
だが、その時だった。
『おい!! 試験中にいちゃついてんじゃねぇぞ、クソガキ共ォ!!』
「ッ!?」
「ッ!?」
轟音のような怒声が響き渡る。
気付けば、いつの間にか【
そして、その先には――。
全身を業火で包み込みながら、凄まじい形相でこちらを睨みつけるオーヴェン先生の姿があった。