転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第7章ー62

 「……どういう意味だ?」

 

 彼は訝しげに眉を寄せながら、低い声で問い返してきた。

 

 私は真っ直ぐ彼を見つめ返し、迷わず言葉を続ける。

 

 「だって、もし本当に復讐だけを考えてるなら、そんな前向きな夢なんて掲げないと思うの」

 

 「……」

 

 「それに、サダメは言ってた。世界中の人を助けたいって。誰かを守れる勇者になりたいって」

 

 胸の奥に浮かぶのは、あの時の彼の表情。

 

 不器用だけど真っ直ぐで、誰かのために強くなろうとしていた姿。

 

 「サダメには、復讐の“ふ”の字だってないよ。私はそう思ってる」

 

 「……」

 

 私が真剣に答えると、彼はとうとう黙り込んでしまった。

 

 ここまで彼が長く会話に付き合ってくれるのは初めてだった。

 

 やっぱり、無口な人ほど、一度口を開くとちゃんと向き合ってくれるものなんだな――なんて、少し場違いなことを心の中で考えてしまう。

 

 でも、今は大事なところだ。

 

 せっかくここまで会話ができるようになったのなら、今度はこっちが彼の話を聞く番だった。

 

 「……貴方は、なんで魔王を殺したいの?」

 

 私は慎重に問いかける。

 

 「もしかして……復讐、だったりする?」

 

 「……」

 

 思い切って、真正面から聞いてみた。

 

 今までの反応を見る限り、彼が魔王を憎む理由はかなり分かりやすい。

 

 ――復讐。

 

 過去に何があったのかは分からない。

 

 もしかしたら、私達以上に過酷な経験をしてきたのかもしれない。そんな気がしてならなかった。

 

 けれど、それはあくまで私の想像でしかない。

 

 本人の口から聞かなければ、本当のことなんて分からない。

 

 しかし、彼はすぐには答えなかった。

 

 沈黙だけが流れる。

 

 ……やっぱり、これ以上は難しいのかな。

 

 あと少しで、彼のことを知れそうだったのに。

 

 でも、それでもよかった。

 

 数分前まで、彼は今にも人を殺しそうなほど殺気を撒き散らしていた。けれど今は、その鋭い雰囲気が少しだけ和らいでいる。

 

 それだけでも、ちゃんと話した意味はあった気がした。

 

 ――そう思いかけた、その時だった。

 

 「……俺が生まれた街も、魔物に襲われて侵略されてた」

 

 「……っ」

 

 彼が、ぽつりと呟いた。

 

 「昔はかなり栄えていたらしい。けど、俺が生まれた頃にはそんな面影は微塵も残ってなかった」

 

 彼の声は低く、どこか感情を押し殺しているようだった。

 

 「街はあちこち木々に覆われて、まるで森の一部みてぇになってた。そこでガキ共は馬車馬みたいに働かされて、ロクな食い物も与えられず……次々と餓死していった」

 

 私は息を呑む。

 

 その光景を想像しただけで、胸が締め付けられた。

 

 「その後、勇者が現れて魔物は全滅した。……だが、生き残ったのは俺だけだ」

 

 「……アラガ」

 

 ようやく語られた彼の過去。

 

 予想通り、彼も私達と似た境遇だった。

 

 けれど、決定的に違う点がある。

 

 ――彼には、誰も残らなかった。

 

 私にはサダメがいた。

 サダメにも、私がいた。

 

 だから生き延びられた。

 

 どちらか片方でも欠けていたら、きっと私達は二人とも生きていなかったと思う。

 

 でも彼は、一人きりで生き残ってしまった。

 

 だからこそ、心を閉ざしてしまったのかもしれない。

 

 孤独を抱えたまま、ずっと一人で生きてきたのかもしれない。

 

 「……はっ!?」

 

 その瞬間、私はあることに気付いた。

 

 彼の心を少しでも救うために必要なのは――。

 

 「あ、あの! もしよかったら、私と――」

 

 思いついた言葉を、私は咄嗟に口にしようとした。

 

 だが、その時だった。

 

 『おい!! 試験中にいちゃついてんじゃねぇぞ、クソガキ共ォ!!』

 

 「ッ!?」

 「ッ!?」

 

 轟音のような怒声が響き渡る。

 

 気付けば、いつの間にか【四重の防風(カルテット・プリンド)】は破壊されていた。

 

 そして、その先には――。

 

 全身を業火で包み込みながら、凄まじい形相でこちらを睨みつけるオーヴェン先生の姿があった。

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