転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第7章ー63

 「う、嘘……!? いつの間に……?」

 

 思わず声が漏れた。

 

 オーヴェン先生は、全身に炎を纏っていた。

 

 まさか――あの状態のまま、力づくで【四重の防風(カルテット・プリンド)】を突破してきたというの?

 

 先生ならやりかねない。

 

 やりかねないけど、それにしたって無茶苦茶すぎる。

 

 あの魔法は、今の私が使える防御魔法の中でも最高クラスの硬度を誇るものだ。普通なら、真正面から破壊するなんて不可能に近い。

 

 それを、真正面からこじ開けてくるなんて――。

 

 本来なら、あと数分は時間を稼げるはずだったのに。

 

 「ちっ……!」

 

 隣でアラガが舌打ちを漏らす。

 

 けれど、今はそれどころじゃない。

 

 ――どうする?

 

 彼との会話に意識を向けすぎて、まともな対抗策を考えられていなかった。

 

 このままじゃ、さっきの二の舞になる。

 

 いや、それどころじゃない。

 今度こそ、本当に危険だ。

 

 『なんかごちゃごちゃ話し合ってたみてぇだがよォ……私を殺す算段でも立てられたかぁ? あぁ!?』

 

 炎を纏ったまま、オーヴェン先生がゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。

 

 その姿だけで圧迫感が凄まじい。

 

 まずい。

 

 ここで再び防御魔法を展開しても、さっきみたいに力任せで破壊される未来しか見えない。

 

 かといって、これ以上先生を止められる方法なんて思いつかない。

 

 【追い風の軌跡(テイルド・ローカス)】で動きを逸らす?

 

 ……いや、無理だ。

 

 私の風魔法程度で、あの先生を止められるわけがない。

 

 『そんじゃあ見せてもらおうかァ!!』

 

 先生が獰猛に笑う。

 

 『第二ラウンド、開始だァァァァァァァァァ!!!!!!』

 

 「ッ!?」

 

 次の瞬間、オーヴェン先生が爆発的な勢いで突進してきた。

 

 速い。

 

 あまりにも速すぎる。

 

 どうする?

 逃げる?

 

 でも、アラガとの話はまだ終わっていない。ここで離れれば、また彼は先生と殺し合いを始めてしまうかもしれない。

 

 それだけは避けたかった。

 

 けれど――だからといって、私一人で先生から逃げ切れるわけが……。

 

 『ぼさっとしてんじゃねぇぞ、チヤドォォォル!!』

 

 「ひっ!?」

 

 怒号と共に、先生が真っ先に私へ狙いを定めていた。

 

 もしかして、さっき邪魔したことを根に持ってる?

 

 ……いや、違う。

 

 単純に、先に妨害役を潰すつもりなんだ。

 

 先生の視線は完全に私へ固定されていた。

 

 来る。

 

 凄まじい速度で迫ってくる。

 

 どうするどうするどうする!?

 

 早く詠唱しないと間に合わない――!

 

 『貰ったァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!』

 

 「くっ……!?」

 

 しかし、もう遅かった。

 

 気付けば先生は、私との距離を一気に詰めていた。

 

 五十メートル圏内。

 

 この距離では、まともな詠唱を完成させる時間なんてない。

 

 ましてや、私の実力では無詠唱魔法で先生を止めることなど不可能だ。

 

 ――終わった。

 

 その言葉が脳裏に浮かぶ。

 

 もう駄目だ。

 

 ごめん、お父さん。

 ごめん、お母さん。

 ごめん、みんな。

 

 そして――ごめん、サダメ。

 

 私は、みんなとの約束を守れそうに――

 

        「遮れ、氷結の盾よ――【氷柱の大盾(アイル・ヒュールド)】!!」

 

 「ッ!?」

 『ッ!?』

 

 諦めかけた、その瞬間だった。

 

 突如、目の前に巨大な氷柱が出現した。

 

 建物の半分ほどはあるだろう巨大な氷の盾。

 

 それが、私と先生の間へ割り込むようにそびえ立つ。

 

 ――アラガの氷魔法。

 

 「……あ、アラガ?」

 

 私は目を見開いた。

 

 信じられなかった。

 

 だって今、彼は明らかに私を守った。

 

 数分前まで、私を殺そうとしていたはずの彼が。

 

 どうして――。

 

 混乱する私に対し、アラガは振り返らないまま口を開いた。

 

 「……お前、さっき何か言いかけてただろ」

 

 「……え?」

 

 低い声が、静かに響く。

 

 「ここで死なれたら、何を言おうとしてたのか聞けずじまいになる。……それが妙にモヤモヤする」

 

 その言葉に、私は思わず息を呑んだ。

 

 そして彼は、氷の盾の前に立ったまま続ける。

 

 「話の続きは、この試験を終わらせてからだ」

 

 一瞬の沈黙。

 

 その直後――。

 

 「だから協力しろ、チヤドール!!」

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