「ッ!? アラガ……」
私は思わず目を見開いた。
今、彼は確かに「協力しろ」と言った。
つまり――二人で一緒に戦うということだ。
いや、いくらなんでも心境の変化が急すぎない?
ついさっきまで、誰に対しても剥き出しの敵意を向けていた彼が。私にすら殺意を向けていたあのアラガが、自分から協力を求めてくるなんて。
もちろん、最初に「一緒に試験を突破しよう」と言い出したのは私だ。
でも、いざ本当に受け入れられると、どう反応していいのか分からなくなってしまう。
けれど、彼の表情にはさっきまでのような刺々しさはなかった。少なくとも、今の彼に邪な考えは感じられない。
それに、この試験を突破するには、お互いの協力が必要不可欠だ。
だったら――断る理由なんてない。
「うん! 一緒にこの試験、突破しよう!!」
私は力強く頷いた。
不思議だった。
さっきまであんなに危険だったのに、今はなぜか――今の私達なら、本当にやれる気がしていた。
『ほぉ?』
その時、オーヴェン先生が愉快そうに口角を吊り上げた。
『そいつぁつまり、私をどうにかできる策があるってことかァァァ!?』
「う゛っ!?」
「ぐっ!?」
次の瞬間、轟音が響き渡る。
先生が、巨大な氷柱を素手で粉砕したのだ。
炎を纏っているとはいえ、あれほど巨大な氷を拳一つで破壊するなんて、普通じゃあり得ない。
やっぱり、この人は化け物だ。
砕け散った無数の氷片が、弾丸のように私達へ降り注ぐ。
しかし、私の前にはアラガが立っていた。
結果として、大量の氷片はほとんど彼一人に直撃する形になってしまう。
腕。
脚。
頬。
鋭い破片が掠め、次々と切り傷が走っていた。
「アラガ、大丈夫!?」
私は慌てて彼へ駆け寄り、治癒魔法を発動する。
傷自体は浅い。すぐに治せる程度だ。
けれど、見ているだけで痛々しかった。
「……問題ねぇ」
だが、彼は短くそう呟くだけだった。
少しやせ我慢しているようにも聞こえたけど、表情そのものは驚くほど冷静だ。
本当に、この程度の傷は気にもしていないのかもしれない。
……相変わらず無茶する人だなぁ。
『はっはっはぁ!!』
オーヴェン先生が豪快に笑う。
『ほら見せてみろよ、その“策”ってやつをよォ!? まさか、あんなデカい氷で私を止められるなんて思ってねぇよなぁ!?』
「……」
先生は完全にこちらを挑発していた。
ついさっきまで本気で殺しに来そうな勢いだったのに、今ではどこか余裕すら感じさせる。
これは試験だから、あえて私達に猶予を与えているのか。
それとも単純に、戦いそのものを楽しんでいるのか。
……たぶん、両方だ。
「……チヤドール。よく聞け」
「えっ!?」
突然、アラガが小声で話しかけてきた。
しかも振り返りもせず、真剣な声音で。
「な、なに?」
思わず変な声が出てしまう。
今までの威圧的な態度とは違いすぎて、逆に調子が狂う。
……いや、怖いよりはずっといいんだけど。
「お前、まだ魔法は使えるか?」
「う、うん。全然大丈夫」
魔力もまだ残っている。
多少疲れてはいるけど、戦闘不能になるほどじゃない。
するとアラガは小さく頷き、低い声で続けた。
「そうか。なら、俺に策がある」
「ッ!?」
「そのためには、お前の力が必要だ。……やれるか?」
「……っ! わ、わかった!」
私は強く頷いた。
まさか、あのアラガに「力が必要だ」なんて言われる日が来るなんて思ってもみなかった。
それだけで、胸の奥が少し熱くなる。
……これって、少しくらいは心を開いてくれたってことなのかな。
だったら――。
今度は私が、彼の期待に応えたい。
二人でオーヴェン先生を止める。
そして、この試験を絶対に突破してみせる――!