転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第7章ー64

 「ッ!? アラガ……」

 

 私は思わず目を見開いた。

 

 今、彼は確かに「協力しろ」と言った。

 

 つまり――二人で一緒に戦うということだ。

 

 いや、いくらなんでも心境の変化が急すぎない?

 

 ついさっきまで、誰に対しても剥き出しの敵意を向けていた彼が。私にすら殺意を向けていたあのアラガが、自分から協力を求めてくるなんて。

 

 もちろん、最初に「一緒に試験を突破しよう」と言い出したのは私だ。

 

 でも、いざ本当に受け入れられると、どう反応していいのか分からなくなってしまう。

 

 けれど、彼の表情にはさっきまでのような刺々しさはなかった。少なくとも、今の彼に邪な考えは感じられない。

 

 それに、この試験を突破するには、お互いの協力が必要不可欠だ。

 

 だったら――断る理由なんてない。

 

 「うん! 一緒にこの試験、突破しよう!!」

 

 私は力強く頷いた。

 

 不思議だった。

 

 さっきまであんなに危険だったのに、今はなぜか――今の私達なら、本当にやれる気がしていた。

 

 『ほぉ?』

 

 その時、オーヴェン先生が愉快そうに口角を吊り上げた。

 

 『そいつぁつまり、私をどうにかできる策があるってことかァァァ!?』

 

 「う゛っ!?」

 「ぐっ!?」

 

 次の瞬間、轟音が響き渡る。

 

 先生が、巨大な氷柱を素手で粉砕したのだ。

 

 炎を纏っているとはいえ、あれほど巨大な氷を拳一つで破壊するなんて、普通じゃあり得ない。

 

 やっぱり、この人は化け物だ。

 

 砕け散った無数の氷片が、弾丸のように私達へ降り注ぐ。

 

 しかし、私の前にはアラガが立っていた。

 

 結果として、大量の氷片はほとんど彼一人に直撃する形になってしまう。

 

 腕。

 脚。

 頬。

 

 鋭い破片が掠め、次々と切り傷が走っていた。

 

 「アラガ、大丈夫!?」

 

 私は慌てて彼へ駆け寄り、治癒魔法を発動する。

 

 傷自体は浅い。すぐに治せる程度だ。

 

 けれど、見ているだけで痛々しかった。

 

 「……問題ねぇ」

 

 だが、彼は短くそう呟くだけだった。

 

 少しやせ我慢しているようにも聞こえたけど、表情そのものは驚くほど冷静だ。

 

 本当に、この程度の傷は気にもしていないのかもしれない。

 

 ……相変わらず無茶する人だなぁ。

 

 『はっはっはぁ!!』

 

 オーヴェン先生が豪快に笑う。

 

 『ほら見せてみろよ、その“策”ってやつをよォ!? まさか、あんなデカい氷で私を止められるなんて思ってねぇよなぁ!?』

 

 「……」

 

 先生は完全にこちらを挑発していた。

 

 ついさっきまで本気で殺しに来そうな勢いだったのに、今ではどこか余裕すら感じさせる。

 

 これは試験だから、あえて私達に猶予を与えているのか。

 

 それとも単純に、戦いそのものを楽しんでいるのか。

 

 ……たぶん、両方だ。

 

 「……チヤドール。よく聞け」

 

 「えっ!?」

 

 突然、アラガが小声で話しかけてきた。

 

 しかも振り返りもせず、真剣な声音で。

 

 「な、なに?」

 

 思わず変な声が出てしまう。

 

 今までの威圧的な態度とは違いすぎて、逆に調子が狂う。

 

 ……いや、怖いよりはずっといいんだけど。

 

 「お前、まだ魔法は使えるか?」

 

 「う、うん。全然大丈夫」

 

 魔力もまだ残っている。

 

 多少疲れてはいるけど、戦闘不能になるほどじゃない。

 

 するとアラガは小さく頷き、低い声で続けた。

 

 「そうか。なら、俺に策がある」

 

 「ッ!?」

 

 「そのためには、お前の力が必要だ。……やれるか?」

 

 「……っ! わ、わかった!」

 

 私は強く頷いた。

 

 まさか、あのアラガに「力が必要だ」なんて言われる日が来るなんて思ってもみなかった。

 

 それだけで、胸の奥が少し熱くなる。

 

 ……これって、少しくらいは心を開いてくれたってことなのかな。

 

 だったら――。

 

 今度は私が、彼の期待に応えたい。

 

 二人でオーヴェン先生を止める。

 

 そして、この試験を絶対に突破してみせる――!

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