この村を捨てる。
つまり――この村には、もはや存在する価値がないということだ。
勇者の脅威が迫っているとはいえ、あれほど大量に生産していた魔造種を、そう簡単に切り捨てられるものなのか。
あれは奴らにとって必要な“資源”ではなかったのか。
「……」
だが、すぐに考えるのをやめた。
――もう、どうでもいい。
村が捨てられるなら、ここにいる子供達は全員処分される。
自分も含めて。
奴らにとって、自分達の存在価値などその程度だ。
……なら、悪い話じゃない。
ようやく楽になれる。
この苦しみから解放されるのだ。
皆も、同じだ。
――本当にそうか?
不意に、自分自身の声が胸を刺す。
あの子達は、どんなに苦しくても生きようとしていた。
僅かな光を信じて、必死に手を伸ばしていた。
『それでも、私は生きたいと思うよ』
昨晩、ミオが口にした言葉が蘇る。
あれは自分を励ますための綺麗事だと思っていた。
だが――もし、あれが本心だったなら?
「……くっ……!」
胸の奥が軋む。
涙が、勝手にこぼれた。
――なんで自分は、真っ先に諦めていた?
あんな幼い子供達が必死に生きようとしているのに、
大人である自分が、ただ死を望んでいただけだった。
「……ダメだ。
あいつらを、死なせるわけにはいかない」
父と母の死を目の当たりにし、絶望の底に叩き落とされた。
助けなど来ないと思っていた。
生きる意味も失っていた。
――だが、今は違う。
勇者は実在する。
しかも、すぐ近くまで来ているかもしれない。
ならば、それまで子供達を生かせばいい。
この村から逃がせばいい。
「……ふんっ!!」
拘束された手首をひねり、炎魔法を灯す。
縄が焼け、焦げ、崩れ落ちる。
皮膚がわずかに焼ける匂いがしたが、痛みはほとんど感じない。
殴られすぎて、感覚が鈍っていた。
「……よし」
身体はまだ動く。
違和感はあるが、走れる。戦える。
――この頑丈な肉体に、初めて感謝した。
「さて……ここからだ」
時間はない。
だが最大の障害が残っている。
「魔障結界を、どうするか」
結界を解除できなければ、脱出は不可能。
――解除方法を探る。
一つ目。
術者が常時維持している可能性。
だが、これほどの広範囲結界を保つには莫大な魔力が必要だ。
魔物といえど、現実的ではない。
二つ目。
魔道具による発動。
魔力を内蔵した道具なら維持は容易だが、消耗や劣化は避けられない。
長期間安定している現状とは噛み合わない。
三つ目。
――儀式型。
一度成功すれば、魔力供給なしで半永久的に発動する。
準備は煩雑だが、奴らの性質を考えれば十分あり得る。
最も可能性が高いのは、この儀式型だ。
そして三つに共通する点がある。
――発生源が、村のどこかに存在するということ。
ならば、それを破壊すればいい。
「発生源を探しつつ、あいつらにも逃げる準備をさせる」
やるべきことは多い。
時間は少ない。
一人では限界がある。
――子供達にも協力してもらうしかない。
「……」
だが、今さらどの口で頼めばいい?
特にラエルには、何を言われても反論できない。
――それでも、やるしかない。
「何を馬鹿なこと考えてる……!」
自分の頬を叩く。
痛みは鈍い。だが、意識ははっきりした。
「待ってろ。
絶対に――皆、助けてやる」
決意を胸に、小屋を飛び出した。
生きるために。
子供達を守るために。
この地獄から、必ず脱出するために。