防壁を突破した先――そこに二人の姿はなかった。
代わりに設置されていたのは、一枚の巨大な氷壁。
『……あぁ?』
私は思わず眉をひそめる。
氷の壁は大通りを完全に塞ぐほど巨大で、高さも建物三階分ほどある。どうやら私の進行を少しでも遅らせるために作ったらしい。
だが、甘い。
私の跳躍力なら、【脱兎跳躍《ラジャスト》】なんざ使わなくても飛び越えられる。
それくらい、最初の戦闘で見せていたはずだ。まさか頭に入ってなかったのか?
『はっ。ほんっと、どこまで舐めてくれるんだよ……私はァ!!』
若干、頭に血が上るのを感じながら両足に力を込める。
そして次の瞬間、一気に真上へ跳躍した。
視界が一瞬で持ち上がり、巨大な氷壁を軽々と飛び越える。
私の読みが正しければ、あいつらはまだゴールへ到達していないはず。
なら――。
『……はっ! やっぱりなァ!!』
視線の先に、小さな竜巻が二つ見えた。
どうやらチヤドールの風魔法を利用して高速移動しているらしい。
ゴールまでは残り二百メートルほど。
このまま悠長に構えていたら、うっかりゴールを許しかねない。
……なら、少し本気を出すとするか。
『燃え盛れ、飛龍の翼よ! その翼を以て敵を捉えん――【
空中で詠唱を完成させ、両腕を翼のように広げる。
すると腕に炎の魔力が集束し、次の瞬間、それを後方へ向けて一気に噴射した。
爆発的な推進力。
その勢いを利用し、私は高速で前方へ飛翔する。
【
空中飛行を想定して編み出した、私オリジナルの魔法だ。
制御は少々難しいが、その分速度はかなり出る。流石にライラックの使い魔ほどではないが、追跡には十分すぎる性能だ。
『うぉぉぉっしゃあああああああ!!!!!!』
一気に加速し、あっという間に二つの竜巻を追い越す。
そのままゴール地点へ先回りした。
少し油断はしていたが、追いついてしまえば問題ない。
あとはこの二人を――。
『はっ! お前ら、私を出し抜こうだなんて千年早――……ぞ?』
そこで、私は違和感に気付く。
竜巻の中に、二人の姿がなかった。
あるのは氷の塊だけ。
『……はぁ?』
まさか、あれを二人だと見間違えていたのか?
待て。
じゃあ、本物のあいつらはどこだ?
ゴール判定のアナウンスはまだ流れていない。なら、二人はまだこの会場内にいるはず。
そうとしか考えられねぇ。
だが、疑問が残る。
なぜゴールを目指さない?
なぜ、こんな回りくどい真似をする?
それに――わざわざ私をここへ誘導した意味は?
何を考えてやがる、あのガキ共。
『ッ!?』
その時だった。
突如、どこからか氷塊が飛来する。
反応がわずかに遅れたが、寸前で回避。
氷が地面へ激突し、轟音と共に砕け散った。
間違いない。
アラガの氷魔法だ。
『……』
私は即座に視線を巡らせ、攻撃元を探る。
だが距離が離れているせいで、姿までは見えない。
恐らく遠くの建物から狙撃してきたのだろう。
……なるほどな。
遠距離からチクチク攻撃して、こっちを苛立たせる作戦か。
ふと、一つの考えが浮かぶ。
ここで待っていれば、いずれあいつらはゴールへ来ざるを得ない。なら、わざわざ探しに行く必要は――。
『……いや』
私は口元を吊り上げた。
『そんなつまんねぇ真似、私の性分じゃねぇなァ!!』
確かに、それが一番確実な勝ち方かもしれない。
だが、そんなダセぇ戦い方を選ぶくらいなら死んだ方がマシだ。
『それによォ!!』
再び飛来してきた氷塊を、炎を纏った拳で叩き砕く。
『好き放題やられてんのもッ!! クッソ面白くねぇしなァァァァァ!!!!』
定期的に飛んでくるアラガの氷魔法。
あれは間違いなく挑発だ。
だったら乗ってやる。
『はっ! おもしれぇ!!』
私は獰猛に笑いながら、地面を蹴り飛ばした。
『てめぇらは私が直々に見つけ出して、とっ捕まえてやるよォ!! あとで文句言うんじゃねぇぞ、クソガキ共ォォォォォ!!!!』
そうして私は、自ら二人を狩りに行くことを決めた。