それから数分後――。
『はぁ……はぁ……はぁ……』
私は荒く息を吐きながら、その場に立ち尽くしていた。
周囲に建っていた建物は、すでに全て破壊し尽くしている。
瓦礫の山。
砕け散った石材。
崩壊した街並み。
隠れられそうな場所は、もうどこにも残っていない。
これで二人の潜伏場所は全て潰したはずだった。
……なのに。
『……なんで、どこにもいねぇんだよ!?』
アラガとチヤドールの姿だけが、どうしても見つからなかった。
途中、巻き込まれて潰れた可能性も考えた。
だが、それなら悲鳴の一つくらい聞こえるはずだ。
ここまで無茶苦茶に破壊されておいて、何の反応もないなんて明らかに不自然だった。
『くそっ……!』
思わず舌打ちが漏れる。
魔力感知さえ使えれば、こんな苦労はしない。
だが今回は試験ルールによって封じられている以上、自力で探すしかなかった。
『ちっっっくしょうがァァァァァ!!!』
苛立ちが限界を超え、私は怒鳴り声を上げる。
その勢いのまま、唯一残っていた巨大な氷壁へ拳を叩き込んだ。
轟音。
氷壁は一瞬で粉砕され、砕け散る。
……その時だった。
『……あ?』
私は違和感に気付く。
氷壁の下に、穴があった。
人一人――いや、二人並んでも通れそうな横幅の穴。
よく見ると、その先はさらに深く続いている。
地面を縦に掘り進めたような、暗く深い穴。
覗き込めば、そのまま吸い込まれそうなほど不気味な闇が広がっていた。
『……ッ!? なんだァ!?』
その瞬間。
ドォン――ッ!!
遠方から爆発音のような轟音が響き渡った。
方向は――ゴール地点。
私は反射的に顔を上げる。
すると、ゴール付近から大量の砂煙が舞い上がっていた。
爆発?
いや、おかしい。
アラガは氷魔法。
チヤドールは風と治癒魔法。
どちらも、あんな派手に爆ぜるタイプの魔法じゃない。
だが、その時。
穴。
爆発音。
消えた二人。
それら全てが、一つの答えへ繋がった。
『……そうか』
私は小さく呟く。
そして次の瞬間、口元が引きつった。
『……そういうことかァ!!』
全部理解した。
あいつらの狙いを。
二人が隠れていたのは建物でも物陰でもない。
――地下だ。
地面を掘り進み、地下通路を作ってゴール方面まで移動していたんだ。
奴らは魔力感知が使える。
恐らく、ゴール付近にいる他生徒達の魔力を辿り、おおよその位置を把握していたのだろう。
つまり最初から、正面突破する気なんざなかった。
氷壁は穴を隠すためのカモフラージュ。
わざと高く作っていたのも、私の性格を読んでいたからだ。
どうせ私は飛び越えて索敵すると踏んでいたんだろう。
実際、相手を探すなら空から見下ろした方が効率は圧倒的にいい。
高所から視界を確保するなんざ、索敵の基本中の基本だ。
……だが。
たった一度、私の跳躍を見ただけで、そこまで読んできやがるとは。
『チッ……』
さらに思い返す。
あの自動砲台。
あれは単なる足止めじゃない。
地下を掘るための時間稼ぎだったんだ。
しかも、あれだけ執拗に攻撃され続けていれば、多少地面を掘る音が響いたところで気にも留めない。
……そこまで計算していたのかもしれない。
『はっ……まさか、こんな結末になるとはな』
私は苦笑混じりに呟いた。
やがてゴール付近の砂煙が晴れていく。
すると、地下から飛び出してくる二人の姿が見えた。
ゴールまでは、もう目前。
今から飛んでも間に合わない。
完全に。
綺麗に。
見事なまでに。
私は、あのガキ共にハメられていた。
てっきり、私を倒す作戦でも考えているのかと思っていた。
まさか逃走に徹し、しかもモグラみたいに地下を掘って移動してくるとは。
想像もしなかった。
なんとも呆気ない幕切れだ。
……だが同時に。
妙に出し抜かれた感覚が残っていて、非常に気分が悪い。
『……あいつら』
私は乱暴にヘッドセットを引き剥がした。
そして、遠くに見える二人を睨みながら吐き捨てる。
『あとで絶対ブチ殺してやるッ!!』