「……んっ。んん……」
気がつくと、自分はベッドの上で仰向けになっていた。ここは……別室か? あれからどれくらい時間が経ったのだろう。自分たちの番が終わってからの記憶がほとんどない。最後に覚えているのは、ミオとなにか話をしていたことだけだ。
「スー……スー……」
「……ん?」
すぐ隣から、穏やかな寝息が聞こえてきて、思考が一瞬止まった。というより、左腕の辺りに妙な感触がある。柔らかくて、温かくて、でも少し重みのある感覚……。
「この感触って……って、うぉっ!?」
恐る恐る左側に視線を移した瞬間、思わず小さな悲鳴を上げてしまった。そこには、スヤスヤと気持ちよさそうに眠りこけているミオの顔が、ゼロ距離で横たわっていた。吐息が頰にかかるほどの至近距離だ。
「あら? もう起きちゃったの?」
悲鳴に気づいたのか、すぐ近くにいた女性が柔らかい声で話しかけてきた。白を基調としたローブを着ていることから、治癒師だとすぐにわかった。
「あ、あの、これは一体……?」
「ええ、ごめんなさいね。今、ベッドの数が少し足りなくなっちゃって。彼女はただ疲れて寝てるだけだから、もう少し寝かせてあげて。あなたも結構な重症だったのよ。無理をせずに安静にしていいわ。試験ももう少しで終わる頃合いでしょうし」
「は、はあ……」
事情を聞いてみると、負傷者や疲労者が多かったため、仕方なく自分の隣にミオを寝かせたらしい。幸い大した怪我はないとのことだったが、それにしたって異性同士を同じベッドにするか……と内心でつっこみながらも、治癒師の穏やかな笑顔に押し切られてしまった。
「スー……スー……」
「……」
気持ちよさそうに寝息を立てるミオを無理に起こして、マヒロたちのところへ移すのも忍びない。こうなった以上はこのまま寝かせてやるべきだろう。しかし問題は、彼女が自分の左腕を抱き枕代わりにぎゅっと抱きしめていることだった。しかも、彼女の豊かに膨らんだ胸が、腕や胸板にしっかり押しつけられている。
柔らかくて、弾力があって、ほのかに甘い匂いがする。この密着具合に、身体が勝手に反応してしまう。心臓の音がうるさいほどに速くなっていくのが自分でもわかった。
今まであまり意識したことはなかったが、ミオももう立派な女の子なのだと、改めて実感させられる。下着姿を見る機会は日常茶飯事だったため、あまり特別な感情を抱かなかったが、こうして直接肌が触れ合うと話は別だった。やはり、身体は正直者だ。この世界に生まれて十六年近く経って、ようやくその事実に気づかされてしまった。
「…はあ。しょうがねえか」
現状、下手に動かせば彼女を起こしてしまう可能性が高いと悟り、半ば諦めた自分は、ゆっくりと上半身をベッドに戻した。二度寝を試みるつもりだったが、甘い寝息と、絶妙に柔らかい感触が全身を刺激してきて、とても眠れる状態ではなかった。
ミオの長い睫毛が小さく震え、時折無意識に自分の腕をより強く抱き寄せる仕草をする。彼女の体温がじんわりと伝わってきて、頭の中がぼんやりする。試験の疲れで体は重いはずなのに、妙に神経だけが冴えていた。
(……落ち着け、俺)
深呼吸を繰り返しながら、天井を見つめる。治癒師の女性はすでに部屋の隅に戻り、他の患者の様子を見ているようだった。誰にも見られていないことにほっとしつつも、この状況がいつまで続くのかと、複雑な気持ちになる。
ミオの寝顔は本当に無邪気で、普段の元気で活発な彼女とはまた違う可愛らしさがあった。こんな近くでじっくり見つめる機会など、普段は絶対にない。心の中で「悪いな」と謝りながらも、視線を逸らすことができずにいた。
やがて、彼女の指が無意識に自分の袖を掴む感触に、胸の奥がきゅっと締め付けられる。この試験が終わったら、きっと今までとは少し違う関係になるのかもしれない。そんな予感が、ぼんやりとした意識の中で浮かんでは消えていった。