『ミオ、大丈夫かなー?』
ミオがアラガに連れて行かれてからしばらく経ち、自分達は待機室の外で彼女の帰りを待っていた。本人は「先に帰ってていいよ」と言っていたが、皆、不安と心配でそんな気分にはなれなかった。なにせ相手は、あのアラガだ。
それにしても、アイツはなんでミオを呼び出したんだ? 試験で共闘したとはいえ、急に仲良くなったとも思えない。むしろ、あの二人の性格を考えれば衝突していてもおかしくないはずだ。
「……アイツ、もしかしてミオちゃんのこと狙ってんじゃね?」
「『えっ!?』」
ギリスケの口から飛び出したのは、あまりにも突拍子もない一言だった。
アラガがミオを?
いやいや、いくらなんでもそれはないだろ。
『それはないよ! だって、ミオに暴力振るったんだよ!? 絶対ないって!』
「ッ!? フィー、それ本当か?」
『う、うん。私も聞いた話だから詳しくは分かんないんだけど……』
「……ミオ」
フィーの言葉に、自分は思わず眉をひそめた。
アラガがミオに暴力を振るった――そんな話は初耳だ。だとしたら、なおさら分からない。そんな相手に、どうしてミオは自分から付いて行ったんだ?
聞けば聞くほど、あの二人の関係が理解できなくなってくる。
「いや、アイツは恐らくDV気質のクソ野郎なんだよ」
「で、でぃーぶい? ギリスケ殿、その“でぃーぶい”とはなんなのでござるか?」
「DVってのは簡単に言やぁ、暴力癖のある奴のことだ。あの野郎、きっとミオちゃんの弱みかなんか握って、奴隷みたいに扱ってんだよ。もしかしたら今頃、人目の付かない所に連れ込んで、あんなことやこんなことを――クソッ! あの野郎、俺のミオちゃんを
「……飛躍しすぎだろ。流石にAVの見過ぎだって。あと、ミオは誰のもんでもねーぞ」
「えーぶい? ねとる? サダメ、それはどういう意味なのでござるか?」
「えっ!? い、いやー、それはその……」
「いいかいマヒロちゃん。AVっていうのはね――」
「説明すんじゃねーよ!? 馬鹿かお前は!?」
ギリスケの暴走した妄想を、自分は即座に否定した。
長年一緒に暮らしてきたが、ミオが誰かに弱みを握られて従うような性格ではない。それに、もし本当にそんな深刻な秘密を抱えているのなら、自分がまったく気づかないなんてことはないはずだ。
……多分。
それにしても、ギリスケのせいで女子の前では絶対に口にしないような単語まで飛び出してしまった。案の定、マヒロが興味津々な目で食いついてきている。
危うく、とんでもない知識を植え付けるところだった。もし意味を知ったら、マヒロは一体どんな反応をするのやら。想像するだけで頭が痛い。
「むぅ……余計に気になるでござる」
「気にすんな。お前にはまだ早い」
「まだ早いということは、いずれ知る日が来るのでござるな?」
「来なくていいんだよそんな日は!」
「お前、必死すぎだろ……」
ギリスケが呆れたように肩をすくめる。だが、こちらとしては冗談では済まない。これ以上変な方向に話が転がる前に止めなければ、本当に収拾がつかなくなる。
しかし、そんな馬鹿騒ぎをしていても、胸の奥に残る不安だけは消えなかった。
ミオは本当に大丈夫なのか。
アラガは、一体何を考えているのか。
結局、自分達は落ち着かない気持ちを抱えたまま、彼女が戻ってくるのを待ち続けるのだった。