「あれ? 皆、まだ帰ってなかったの?」
しばらくして、ようやくミオが戻ってきた。待機室の外で自分達が待っていたことに驚いたのか、目を丸くしている。
『ミオー! 大丈夫だった!?』
「うわっ!? ふぃ、フィーちゃん!? ど、どうしたの急に?」
ミオの姿を見つけた瞬間、フィーは真っ先に彼女の元へ駆け寄り、その勢いのままぎゅっと抱きついた。突然の行動に、ミオは困惑したような表情を浮かべる。
向こうからすれば、何が起きているのかまるで分かっていないのだろう。
「ミオ、あの者に何か酷いことはされなかったでござるか?」
「え? マヒロまで何言ってるの?」
続いてマヒロが、刀の柄に手を掛けながら真剣な顔で問い詰める。
……まさかとは思うが、返答次第では本当にアラガに斬り込みに行くつもりなのか?
それはそれで大問題になりそうだ。早めに止めた方がいい気がする。
だが、自分達の心配をよそに、ミオ本人は未だ状況を飲み込めていないらしく、ますます困惑を深めていた。
「ねえサダメ。さっきから皆、何の話してるの?」
「え? あー……その……」
話についていけていないミオが、自分に説明を求めてくる。
正直、皆がここまで心配しているとは思っていなかったが、とりあえずミオがいない間に話していた内容を、できるだけ簡潔に説明することにした。
◇◇◇
「……なんだ。そんなこと?」
一通り説明を終えると、ミオは少し理解に時間がかかった様子だったが、内容を把握した途端、どこか拍子抜けしたように肩の力を抜いた。
どうやら、自分達がどれだけ不安になっていたのか、まったく想像していなかったらしい。
「あはは。大丈夫だよ。本当に大した話じゃなかったから」
ミオは苦笑しながら、心配そうに見つめる皆へ向かってそう言った。
『本当? 何にもされなかった?』
「うん。普通にお話してただけだよ」
「手を上げられたりはしてないでござるか? もし、あやつがミオに暴力を振るっていたのなら、拙者が斬り伏せるでござるよ?」
「いや、本当に大丈夫だから!? だから刀を抜こうとしないでマヒロ!?」
フィーもマヒロも、まだ完全には安心しきれていない様子だった。
特にマヒロは、今にも本気で飛び出していきそうな勢いである。ミオは慌てて両手を振りながら、必死に二人をなだめていた。
実際、ミオの顔や身体には殴られたような痕も見当たらない。嘘をついているようにも見えなかったし、少なくとも危害を加えられた訳ではないのだろう。
「……じゃあ、何の話をしてたんだ?」
「……そ、それは、その……えーっと……」
だが、自分がそこを問いかけた途端、ミオは急に視線を逸らし、言葉を濁し始めた。
先ほどの説明に嘘はなさそうだったが、それでも何かを隠しているように見える。
そもそも、どうしてわざわざ二人きりで話をする必要があったのか。それに、“普通に話しただけ”という割には、ミオの反応が妙に不自然だ。
彼女がここまで口を閉ざす内容とは、一体何なのだろうか。
「……そ、それより! 早く帰ろうよ! 私もうヘトヘトで疲れちゃったなー!」
結局、ミオは肝心な話の内容を教えないまま、露骨に話題を変えて帰宅を促してきた。
本当なら、もう少し問い詰めたいところではある。
だが、皆疲れているのは事実だ。長時間の実技試験で心身ともに限界に近い。これ以上ここで話し込むより、今日はもう休んだ方がいいだろう。
「……そうだな。今日はもう帰って、とっとと休もう」
結局、大事な話の内容を聞けないまま、自分達は連れ立って試験会場を後にするのだった。
――転生勇者が死ぬまで、残り3976日。