転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

34 / 35
第2章ー13

 「うぅ、寒いよぉ……」

 

 「もうちょっとだから、急かさないでよ!」

 

 作業を終え、暖を取ろうと焚き火を起こそうとしていた。

 だが、火種作りは思った以上に難航している。

 他の子達も必死に頑張ってはいるが、そもそも“火の起こし方”を正しく知っている者などいない。

 今までサダメがやってくれていたから、なんとかなっていただけだった。

 

 ――けれど、彼は結局戻ってこなかった。

 

 「……サダメ……」

 

 朝から彼の姿はない。

 引き止める時間もなかった。

 昨晩、必死に伝えた私の気持ちは、彼に届かなかったのだろうか。

 そう思うと、悔しさが胸を締めつける。

 ――やっぱり、私はまだ力不足だったのかもしれない。

 

 「……」

 

 ラエルは皆から少し距離を取っていた。

 昨晩の一件で、皆が彼を怖がっている。

 そして、それを本人も自覚してしまったのだろう。

 

 近くにいるはずなのに、心は遠い。

 まるで、皆がバラバラになってしまったようだ。

 また以前のように、心を一つにできる日は来るのだろうか。

 そんな不安が、胸の奥に沈んでいく。

 

 「それにしても……」

 

 外が騒がしい。

 いや、“なんとなく”ではない。明らかに騒がしい。

 魔物の足音、話し声、慌ただしい気配。

 普段も外は騒がしいが、今日は異様なほどだ。

 

 ――何かが起きている。

 

 気になる。

 けれど、夜に外へ出るのは危険だ。

 あの人達が事情を教えてくれるとも思えない。

 

 扉の近くまで行って、聞き耳を立てれば――

 

 「はあ……はあ……」

 

 「ッ!?」

 

 教会の奥に、荒い息遣いが響いた。

 

 「あっ……」

 

 声の方へ振り向く。

 祭壇の辺り――床が抜け落ち、普段は近づかないよう注意している場所。

 そこから、誰かが這い上がってきていた。

 

 皆が一斉に駆け寄る。

 私も、遅れてその後を追った。

 

 そして、抜け落ちた床から現れた姿を見た瞬間――

 息を呑む。

 

 「……サダメ?」

 

 思わず、手で口を覆った。

 もう二度と会えないかもしれないと、半ば諦めていた。

 だからこそ、目の前の光景が信じられなかった。

 

 「だ、大丈夫っ?!」

 

 驚く間もなく、ボロボロの彼の姿に我に返る。

 すぐに駆け寄り、手を差し伸べる。

 

 「はあ……はあ……」

 

 彼の手を掴み、床の縁から引き上げる。

 全身汗まみれで、息も絶え絶え。

 相当走り回っていたのだろうか。

 

 そして――

 

 「ッ……サダメ、その顔……!」

 

 彼の顔は腫れ上がり、あざだらけだった。

 転んでできるような傷ではない。

 胸がざわつく。

 

 「ちょっと見せて! 今すぐ治癒魔法を――」

 

 手を伸ばした、その瞬間。

 

 「その前に……皆に、聞いてほしいことがある!」

 

 「えっ……?」

 

 伸ばした手は、振り払われた。

 治療よりも優先したい“何か”。

 彼の瞳には、かつてないほど強い光が宿っていた。

 

 「皆――」

 

 息を切らしながら、サダメは叫ぶ。

 

 「俺と一緒に、

 この村から――脱出しよう!!」

 

 その言葉は、

 驚愕と困惑を、教会中に叩きつけた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。