転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第7章ーおまけ3

 「話って、何?」

 

 試験終了後。私はアラガに連れられ、待機室の裏手までやって来ていた。

 

 人通りも少なく、妙に静かな場所だ。試験中はあれほど激しく戦っていたというのに、こうして二人きりになると別の意味で緊張してしまう。

 

 以前より彼への恐怖心は薄れた気がする。けれど、それでも“何を言われるか分からない怖さ”だけは消えていなかった。

 

 わざわざ人目のない場所に呼び出されたとなれば尚更だ。

 

 ……でも。

 

 不思議なことに、私自身も彼とちゃんと話したいと思っていた。

 

 試験の最中、彼の見せた表情や言葉。あれまでのアラガとは、どこか違って見えたから。

 

 だからこそ、彼の方から話しかけてきたのは正直予想外だったけれど、悪い気はしなかった。

 

 「……お前、あの時何か言いかけてたよな?」

 

 「え? あの時?」

 

 「オーヴェンの奴がお前の防御魔法をぶっ壊す前だ。あの時、何を言おうとしてた?」

 

 「あ……ああ、あの時ね。はいはい」

 

 どうやら彼が気にしていたのは、試験中に言いそびれたあの話らしい。

 

 私がアラガに膝蹴りを食らった後、何かを言いかけた瞬間、オーヴェン先生が乱入してきて中断された場面。

 

 なるほど。確かに、あれは中途半端なまま終わっていた。

 

 なら、今がちょうどいい機会かもしれない。

 

 私は一度深呼吸すると、覚悟を決めるように彼へ向き直った。

 

 「あの時言いたかったことなんだけど……私と『友達』にならない?」

 

 「……は?」

 

 自分でも驚くくらい真っ直ぐな言葉だった。

 

 私はそのまま、彼へ向けてそっと手を差し出す。

 

 アラガはきっと、誰のことも信用していない。

 

 復讐に執着し、周囲を拒絶し続けているのも、心を許せる相手が居ないからだと思う。

 

 家族も、友人も、恋人も。

 

 彼には“守りたいもの”が何もない。

 

 だからこそ、自分自身すら平気で壊せるような危うい戦い方をするのだろう。

 

 でも、人は一人では生きていけない。

 

 誰かを大切に思えるようになれば、彼の考え方も少しずつ変わるかもしれない。

 

 もちろん、私がそこまで特別な存在になれる保証なんてない。

 

 それでもまずは、“誰かと仲良くする”ことを覚えてほしかった。

 

 友達が出来れば、その先でまた新しい出会いがあるかもしれない。

 

 サダメ達とも打ち解けてくれたら、きっともっと楽しくなる。

 

 目的は違っても、二人とも強くなりたいという想いは同じなのだから。

 

 だから私は、アラガとちゃんと向き合いたかった。

 

 「……はあ。お前、何か勘違いしてるみたいだな」

 

 「? 勘違い?」

 

 しかし、私の提案を聞いた彼は、呆れたように深いため息を吐いた。

 

 「俺は別に、お前と仲良くなりたくて助けた訳じゃない。そこだけはハッキリさせておいてやる」

 

 「んえぇっ!? じゃ、じゃあなんで……」

 

 「……それは俺にも分からん。ただの気まぐれだろうな」

 

 「……」

 

 あまりにもきっぱりと言い切られ、私は思わず言葉を失った。

 

 仲良くなる気はない。

 

 ただの気まぐれ。

 

 予想以上にダメージが大きい。

 

 正直、試験中に膝蹴りされた時より精神的にはキツいかもしれない。

 

 「話はそれだけか? ちっ。何かと思って呼び出してみたが、どうやら無駄話だったみたいだな」

 

 そう吐き捨てると、アラガは踵を返し、そのまま立ち去ろうとする。

 

 ……このままでいいの?

 

 せっかく、ちゃんと向き合える機会なのに。

 

 そんな簡単に仲良くなれる相手じゃないことくらい、最初から分かっていたはずだ。

 

 それでも。

 

 ここで諦めたら、きっともう二度と彼とは本音で話せない気がした。

 

 だから――

 

 「……ま、待って!」

 

 「……何だ? 俺の用件はもう済んだ。これ以上、お前と話すことなんて――」

 

 「あるよ! 少なくとも私には!!」

 

 気づけば私は、思い切り声を張り上げていた。

 

 去ろうとする彼の背中を、必死に引き止める。

 

 怖い。

 

 でも、逃げたくない。

 

 ちゃんと話したい。

 

 真正面から、彼と向き合いたかった。

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