「話って、何?」
試験終了後。私はアラガに連れられ、待機室の裏手までやって来ていた。
人通りも少なく、妙に静かな場所だ。試験中はあれほど激しく戦っていたというのに、こうして二人きりになると別の意味で緊張してしまう。
以前より彼への恐怖心は薄れた気がする。けれど、それでも“何を言われるか分からない怖さ”だけは消えていなかった。
わざわざ人目のない場所に呼び出されたとなれば尚更だ。
……でも。
不思議なことに、私自身も彼とちゃんと話したいと思っていた。
試験の最中、彼の見せた表情や言葉。あれまでのアラガとは、どこか違って見えたから。
だからこそ、彼の方から話しかけてきたのは正直予想外だったけれど、悪い気はしなかった。
「……お前、あの時何か言いかけてたよな?」
「え? あの時?」
「オーヴェンの奴がお前の防御魔法をぶっ壊す前だ。あの時、何を言おうとしてた?」
「あ……ああ、あの時ね。はいはい」
どうやら彼が気にしていたのは、試験中に言いそびれたあの話らしい。
私がアラガに膝蹴りを食らった後、何かを言いかけた瞬間、オーヴェン先生が乱入してきて中断された場面。
なるほど。確かに、あれは中途半端なまま終わっていた。
なら、今がちょうどいい機会かもしれない。
私は一度深呼吸すると、覚悟を決めるように彼へ向き直った。
「あの時言いたかったことなんだけど……私と『友達』にならない?」
「……は?」
自分でも驚くくらい真っ直ぐな言葉だった。
私はそのまま、彼へ向けてそっと手を差し出す。
アラガはきっと、誰のことも信用していない。
復讐に執着し、周囲を拒絶し続けているのも、心を許せる相手が居ないからだと思う。
家族も、友人も、恋人も。
彼には“守りたいもの”が何もない。
だからこそ、自分自身すら平気で壊せるような危うい戦い方をするのだろう。
でも、人は一人では生きていけない。
誰かを大切に思えるようになれば、彼の考え方も少しずつ変わるかもしれない。
もちろん、私がそこまで特別な存在になれる保証なんてない。
それでもまずは、“誰かと仲良くする”ことを覚えてほしかった。
友達が出来れば、その先でまた新しい出会いがあるかもしれない。
サダメ達とも打ち解けてくれたら、きっともっと楽しくなる。
目的は違っても、二人とも強くなりたいという想いは同じなのだから。
だから私は、アラガとちゃんと向き合いたかった。
「……はあ。お前、何か勘違いしてるみたいだな」
「? 勘違い?」
しかし、私の提案を聞いた彼は、呆れたように深いため息を吐いた。
「俺は別に、お前と仲良くなりたくて助けた訳じゃない。そこだけはハッキリさせておいてやる」
「んえぇっ!? じゃ、じゃあなんで……」
「……それは俺にも分からん。ただの気まぐれだろうな」
「……」
あまりにもきっぱりと言い切られ、私は思わず言葉を失った。
仲良くなる気はない。
ただの気まぐれ。
予想以上にダメージが大きい。
正直、試験中に膝蹴りされた時より精神的にはキツいかもしれない。
「話はそれだけか? ちっ。何かと思って呼び出してみたが、どうやら無駄話だったみたいだな」
そう吐き捨てると、アラガは踵を返し、そのまま立ち去ろうとする。
……このままでいいの?
せっかく、ちゃんと向き合える機会なのに。
そんな簡単に仲良くなれる相手じゃないことくらい、最初から分かっていたはずだ。
それでも。
ここで諦めたら、きっともう二度と彼とは本音で話せない気がした。
だから――
「……ま、待って!」
「……何だ? 俺の用件はもう済んだ。これ以上、お前と話すことなんて――」
「あるよ! 少なくとも私には!!」
気づけば私は、思い切り声を張り上げていた。
去ろうとする彼の背中を、必死に引き止める。
怖い。
でも、逃げたくない。
ちゃんと話したい。
真正面から、彼と向き合いたかった。